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韓国ミュージカル観賞記③~死神の熱

音楽の都、ウィーン発の『エリザベート』は、歌だけで物語が進む。
そんな「ソングスルーミュージカル」ならではの魅力があるのだろう。日本でも宝塚や東宝で何度も上演されるほどファンが多く、楽曲の美しさにも定評がある。

今回の旅の最大の目的は、この『エリザベート』。
死神トートを演じる、JYJのジュンスを観ることである。
3年前、番組の取材で初めて出会ったキム・ジュンス(歌手としては、XIA「シア」の名で活動している)を、もっと知りたかった。
東方神起から分裂し不遇の時代を過ごしながらも、ミュージカル俳優として大成した彼の、生身で歌い踊る姿をこの目で観たかったのだ。

予習として、事前にジュンスが出演する『エリザベート』のライヴCD(韓国盤)を購入し、ウォークマンに入れて何度も聴いていた。

十分聴きごたえのある、LIVE感の伝わる内容だが、ハングルはまったくわからないので、ストーリーや歌詞は日本で上演されているものを参考にした。

『エリザベート』は史実を基にして書かれた作品なので、歴史的背景も頭に入れておくと、理解が深まる。
劇場へ行く直前には、今回のツアーを引率して下さった田代親世さんによる丁寧な解説で、その年代の世界情勢やハプスブルク家の悲劇などについても学ぶことができた。

満を持して、ソウルの梨泰院にある、ブルースクエア・インターパークホールへ。

最終日前日。2月9日の昼公演のキャストは以下の通り。
<エリザベート> オク・ジュヒョン
<トート>    キム・ジュンス
<ルキーニ>   イ・ジフン

開始直後から、わたしは舞台に釘付けになった。
ジュンスの演じる「死神」の鬼気迫る演技が、彼独特のハスキーヴォイスと相まって、「死」の影に苛まれたエリザベートの半生をじつに魅力的に浮き立たせていた。

単に歌が上手いだけではない、稀有な美声の持ち主だとわたしは思う。
ハスキーでありながらも滑らかなビブラートで、高音が伸びる。
同じツアーに参加したジュンスファンの女性は「ハマる人はすごくハマる声」と話していたが、その通りだ。
一度耳にしたら、虜になってしまうのかもしれない。
そしてそんなジュンスの歌声が、エリザベートの悲劇の物語と融和し、現実の「生」と対極にある「死」を見事に表現していた。

どの歌も迫力があり、素晴らしかった。クライマックスで歌い上げる名曲『闇が広がる』は言うまでもない。そんななかでわたしが最も心ひかれたのは『最後のダンス』だ。
ジュンスの歌声がもっとも符合するナンバーではないだろうか。
心に響く、とはこのことだと思った。
死神の「熱」が、観客席の隅々まで伝わるパフォーマンスだった。

数々の偶然が重なり、想定外に体感した「韓国ミュージカル」。
総じて思うのは、韓国の俳優たちの歌唱力の確かさ(今回のチョ・スンウ、ジュンスはもちろん、エリザベート役のオク・ジュヒョンの、マイクを壊してしまいそうな声量での美声には脱帽した)だけでなく、観客が彼らを支持する「熱」も高いということだ。
ステージに立つ者、それを観る者の境界がいつしかなくなり、劇場内の空気が同じ「熱」で一体化する。
一曲歌い終わるたびに拍手が生まれ、歓声が沸き起こるのは、「熱」が伝わっているからだと感じた。

いつかまた、ソウルでミュージカルを観よう。

あれから一週間経った今も、ジキルやハイドや死神、エリザベートの「熱」がわたしのなかに残っている。
できればこれらの「熱」が、冷めないうちに。


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日常の仕事は「浅野有生子」の名前で、おもにスポーツドキュメンタリーの放送作家をしています。 木庭撫子は詩を書く、もうひとりのわたしです。 http://kobanadeshiko.com
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