10月になって未だ名残りの蝉が鳴いている。
辺りは静かで、草葉から虫の音のみ。そんな沈黙の境内に号令をかけるかのように、遠く一鳴き、蝉の声が通る。一匹だけだからかえって存在がくっきりして、おおよその居場所から、しがみついているであろう樹の高さまで想像がつく。
アブラゼミ。つくつくぼうし。
たった一匹で鳴くものだから、いかにも孤独で、めっぽう寂しそうである。どれだけ声を上げても応答はない。山中にこだまするのは、彼の儚い夢。
めっきり朝晩冷え込むようになってきた昨今、さすがにもう鳴いてはいまいと思いきや、今日もまた、上空から聞こえてくる。
そのいのちがいつ尽きるとも知らずに、季節はいつの間にか移ろうのだ。
<了>
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