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セミの羽化のかんさつ

突然の夕立ちに、急いで家に駆け込もうとすると、妻が叫んだ。

「セミが歩いてる!」

成虫は珍しくないが、なんと幼虫。
これから木登りして羽化するところだ。

妻がサッと捕獲して玄関の内側にリリース。簾(すだれ)にそれとなく登っていくように仕向ける。
ここから、プライスレスな我が家の夜がはじまった。

妻は実物ははじめてだという。娘はもちろんはじめて。僕も、小学校の自由研究で見た以来。みんな羽化を見たくてソワソワしてる。



夕食中、見ると、セミがいない!


あたりを見ると、あんな高いところまで登っている!横向きだ!

部屋の電気を消して、懐中電灯で観察。


子「なんで暗くするの?」

「セミは夜に羽化するんだよ。晴れてるときにこんな、のんびりじっと動かないでいたら、他の虫に食べられちゃうじゃん。だから夜のうちに脱皮するんだ」

子「ふうん」

そこからしばらくして、自力で縦向きに方向転換。背中がだんだんと白くなってくる。眼球がだんだんと黒味を宿してくる。グッと力強くなっていくようだ。

背中半分まで脱皮して、そこで果ててしまう個体もいるらしい。なんとかうまく変態してほしい。

上体は脱皮しきった。あとはわずかにお尻を残すのみ。そこで、動きが停まった。
最後が難しいのか?しばらく動きがない。
妻が観察当番をしているうちに、いそいで娘とシャワー。

肩からわずかに出てきた、魚のエラのような、羽が濃い。
と思ったら、見る見るうちに羽が展開されていって、胴体よりも大きく長い羽が出現。

薄くて、虹色に光っていて、とっても綺麗。

色が濃かったのは重なっていたからで、展開されると薄い色が重なっていたのだと解る。それにしてもこんな立派な羽が、よくもこんな小さな幼虫の殻の中に収納されていたものだと驚く。窮屈じゃなかったのかしら?痒くても掻けなかったろうに、などと考える。

肩から生えている羽が、あまりに繊細に接合されていることにも驚く。

白い紐が命綱のようになっているのが解る。


もう寝る時間はとうに過ぎているけれど、今宵はプライスレス。


7年地中にいる、とか、個体差はある、とか。いずれにしても、2,3年は確実に土中にいたわけだ。時間の感覚もまるで違うのだろうけれど、その歳月を想像する。娘が生を受ける前から、この家の前の土の中にいたのか。いずれにせよわれわれ家族の生活のまさに足元に、ずっと彼らは息づいていたのだ。

動きがなくなって、さすがに夜も遅いので、今夜の観察はおしまい。
目をらんらんと輝かせて観察していた娘の集中力も切れてきた様子。

「セミってさ、夜、鳴いてないじゃん?きっと夜は寝てるんだよ。で、朝になるときっと鳴くよ。明日の朝は、起こしてくれるよ。だから今夜は寝よう。」

子「そうだね」

「どんな声で鳴くかな?」


<了>


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