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#タイムマシン ニューヨークレポート No3.By霧生 宣子 10/20/2000 *Monday Night inニューヨーク~The Big Bands *

 どこの街にもその街の知っていなければならない「暗黙の了解」というものがある。 ニューヨークの月曜日といえば、まずほとんどのブロードウェイショウはお休み。いつもは華やかなタイムズスクエアも少々静かな夜となるのである。代わりと言ってはなん だが、「ニューヨークの月曜の夜」といえば、Big Band。その始まりをたどってみると1965年にヴィレッジヴァンガードでスタートしたサド・ジョーンズ(トランペット/カウント・ベイシーのビックバンドのアレンジャー)とメル・ルイス(ドラマー)18人編成ビックバンド、「ザ・ヴァンガード・ジャズオーケストラ」からであった。

 サド・ジョーンズの曲は、カウント・ベイシーの伝統を引き継いだ独特のスイング感を持ちながら、モダン以後のハーモニーやファンキーさを加え、現在のヴィレッジヴァンガードでも演奏されている。 サド・ジョーンズが亡くなった後、ボブ・ブルックマイヤ-(トロンボーン)やジム・マックニーリー(ビアノ)などの作品も加わり、かなり斬新なアイデアを盛り込んだ、これがビックバンドミュージックの最先端と思わ せる、都会的でアカデミックなサウンドが楽しめる。

 この「ザ・ヴァンガードジャズ・オーケストラ」の右に出るといえるのが、毎週月曜の夜、バードランドに出満している「トシコ・アキヨシ・ジャズオーケストラである。 とにかくバンドの音が良く揃っているし、物凄いテクニックである。トロンボーンのユニゾンなどビーバップ的なすごい速さのフレーズでも信じられないほどタイ トに合っている。フューチャリングで迫力のソロをとっているのは、ルー・タバキン( サックス)。言わずと知れた秋吉敏子のハズバンドである。彼女のコンダクティング (指揮)は独特で、肩でリズムを取っている後ろ姿は何とも言えずカッコいい。音楽的にもハイレベルな正統派ジャズビックバンドといえるであろう。

 ほかにもヴィレッジヴァンガードの近くでグリニチヴィレッジにあるジャズクラブ スイートベイジルでも月曜の夜ビックバンドが演奏しているし、つい最近までジャズク ラブ スモールズでもコンテンポラリースタイルのビックバンドがマンデーナイトを賑わしていた。 

 月曜の夜以外にニューヨークで活躍するBigBandがいくつかある。毎週火曜の夜、バードランドの「デューク・エリントン・オーケストラ」、毎週日曜の、 同じくバードランドに出演する「チコ・オ’ファリロビックバンド」(アフロ・キューバン ジャズ ビックバンド)、 毎週木曜にタイム・カフェに出ているミンガスビックバンド」(故チャールス・ミンガス[ベーシスト]作品を演奏している。) こんなにも沢山のBig Bandがそれぞれの個性を主張しながら毎週レギュラー出演しているという事実には本当に驚かされる。

 私が最近聴きに行った新進のビックバンドに、「マリア・シュナイダー・ジャズ・ ・オーケストラ」がある。つい先日、 ザ・ジャズスタンダードという店に5日間出演していた。ギル・エバンスのアシスタントをした事もあるという彼女のスタイルは、これがジャズであろうかと思わせるほどの繊細で個性的な音づかい、クラシック的なオーケ ストレーション、ソロをとるトランペットやトロンボーンのプレイヤーに女性が交じっていて、力強い男っぽさを感じさせるジャズのビックバンドのサウンドとはほど遠い。、フェミニン(女性的)なカラーを強く持っている。マリア・シュナイダー自身、若くて 美しく、金髪をなびかせながら指揮する姿はダンスを踊る白島のようであった。 

 最後に、月曜の夜のビックバンドインハーレムを紹介したい。アポロシアターの近 くで125丁目からすぐの「ルーシーズ」に毎週月曜に出演する「ハーレム・ルネッサ ンス・ジャズ・オーケストラ」である。このバンドは、現在改装中のハーレムで有名なレストラン「ウエルズ」に出崩していたプレイヤー達が流れてきている。 とにかく 1930年代にでもタイム・トリップしてしまったのではないかと思わせるような店の雰囲気はここューヨークの中でもここでしか味わえない。ドレスアップした黒人の老紳士や婦人達が踊るホンモノのスウィング・ダンス、ファンキーなリズム、に乗って踊る黒人流フォークダンス「エレクトリック・スライド」も踊りたい人なら誰でもウェルカムで参加できる。曲もこれこそビックバンドと期待に答えてくれる、カウント・ベイシーのナンバー「コーナー・ポケット」や「シャイニー・ストッキング」、デューク ・エリントンの「イン・ナ・メロー・トーン」や「ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・ エニーモア」などバンドのスイング感にのせられて、ついつい体がリズムを取ってしまう。本当にスイングしているビックバンドで踊る贅沢さを体験できる店である。

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