【料理エッセイ】あえて丼を捨て、ローストビーフを定食で食らおうじゃないか
ローストビーフ丼は美味しくない。そんな声が定期的に聞こえてくる。調べてみると2019年の段階で大いに盛り上がっていた痕跡が見つけられた。
その後、ローストビーフ丼問題はサイゼリヤ問題や4℃問題並みに繰り返しネット議論の的となってきているわけだが、かく言うわたしもローストビーフ丼には疑問を抱き続けている。
なるほど、たしかに期待値の高さが邪魔をしている部分はあるのだろう。実際、過去、わたしがローストビーフ丼を食べた場面を振り返ると、ちょっとおしゃれなカフェやホテルでランチするときだったり、ウーバーイーツで贅沢するぞと奮発するときだったり、特別な食事っぽいシチュエーションばかりだった。そのため、いつも、
「あれ? こんなもんか?」
と、思ってきた。別にまずいわけじゃない。まさにtogetterまとめにあるが如く、「コレジャナイ感」なのである。
でも、それはなぜなのか? と言うのも、ローストビーフ丼を因数分解すれば、レアに焼かれたお肉×白米×グレービーなソースという式が現れる。お店によってはそこに温泉卵だったり、フレッシュなサラダだったり、嬉しさを増す材料がふんだんに足されていく。一見すると美味しくなって然るべきものに思えてくる。
なにかが足りない。そのことに気がついたのは旅行で訪れた札幌の街。各地の市場へ遊びに行くたび、お得っぽいという理由で海鮮丼を連日食べていたのだが、美味しい丼と美味しくない丼、二種類が存在していると発見。それがそのままローストビーフ丼にも応用できるんじゃないかと閃いたのだ。
それは単純な発見だった。たぶん、みんな、わかっていること。要するに、美味しい海鮮丼は酢飯が使われていて、美味しくない海鮮丼は白米が使われているというシンプルな違いであった。
結局のところ、冷たいタンパク質を載せた場合、ほかほかの白米では相性が悪いのだ。かと言って、冷や飯は硬くなってしまう。そこで編み出された技術が酢飯であり、日本では寿司にしろ、丼にしろ、生魚と合わせるときにはこれが用いられてきた。
そんなわけで、ローストビーフ丼がいまひとつ物足りないのは肉の下に敷かれるご飯に工夫がないからなのではないか? という仮説が立ち上がってきた。でも、酢飯が正解とも思えないし、具体的な案は思いつかないし、やっぱりローストビーフ丼を救うことはできないのかなぁ……。と、すぐさま新たな壁にぶち当たってしまった。
結局、わたしは匙を投げることにして、ローストビーフ丼に期待しない道を選ぶことにした。だいたい、ローストビーフ丼のためにそこまでしてあげる義理は一ミリもないのだし。
ところが、あれから三年。とんでもないローストビーフと出会い、消えたはずの情熱が再び燃え上がった。
そんな凄いローストビーフが食べられるのは新井薬師駅前に位置する洋食の名店・BUN吉さん。毎週、土曜のランチ限定で提供される。
最高の和牛が最高の焼き加減に仕上げられている絶品っぷりに悶えつつ、わたしが驚いたのはそれが定食形式になっていることだった。
ライスとスープとローストビーフ。これらを三角食べするとき、ビビッと脳内に雷が落ちてきた。そうか! 定食ならご飯に工夫をする必要がないじゃないか!
盲点だった。寿司や丼に目がくらみ、お刺身定食の存在をすっかり忘れていた。お刺身とご飯とお味噌汁。完璧な三位一体が日本中の定食屋にあふれかえっているというのに。
以来、わたしはローストビーフは丼じゃなくて、定食で食べるべきだと推奨し、自ら率先して実行してきた。ちなみに以下の写真は我が家で今夜食べたもの。
駅前のLIFEで半額になっていたオージービーフを使っているのでBUN吉さんのものと比べて大きく見劣りするが、それでもオーブンの100℃設定で90分低音でじっくり焼いた甲斐あって、割合、柔らかに仕上がった。
もちろん、冷蔵庫に余っていた野菜で作ったおばあちゃん家みたいな味噌汁とお茶碗に盛られた白米という小津安二郎めいたメンバーが、ハリウッド感あふれるローストビーフと共演している光景はまだまだ異質かもしれない。でも、理論上、こうやって食べるのが一番であるとわたしは強く主張したい。
みなさん、騙されたと思って一度試してみてください。ここはあえて丼を捨て、ローストビーフを定食で食らおうじゃないか!
※ちなみにBUN吉さんはポテトサラダも革命的に美味しいです。それについてはいずれポテトサラダ論考を書くので、そのときに詳しく。
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