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今日のジャズ: 6月29&30日、1994年@モントリオール

June 29 & 30, 1994 “It's Me O Lord, Standing In The Need Of Prayer” by Hank Jones & Charlie Haden at Radio Canada Studio B, Montreal, Canada for Verve (Steal Away)

「癒し」と「安らぎ」を欲した時に聴くアルバム。アルバム名の副題、主に黒人の霊歌「スピリチュアル」に根差した、黒人ピアノのハンクジョーンズと白人ベースのチャーリーヘイデンによる、ありのままの飾らぬ心情を表出している演奏が素でそのまま心に伝わってくる。

ハンクジョーンズによるゴスペルフィーリングに根差した黒人霊歌は、自らも実生活で経験したであろう、アメリカにおける黒人差別の苦悶と、それを受容するしかない諦念、その中で見出した生きる喜びを、この演奏を通じて垣間聴く事ができる。

寄り添うヘイデンも、独特の奏法と旋律を織り交ぜつつ、ジョーンズに敬意を評する形で傾聴しながら伴奏している。その象徴的な「ドーン」「ズシーン」という音は唯一無二のもの。

このアルバム、ゆったりと夜に落ち着いた時間、寛ぎたい時のみならず、打ちひしがれて癒しの欲しい時に手に取ると、心の平穏が取り戻されるという意味において期待に応えてくれる。副題の通りスピリチュアル、まさに魂に染み入ってくる音楽。

アルバムには、プロデューサーも兼ねているヘイデンの言葉が記載されている。スミソニアン博物館に収録されているハンクの本曲の演奏に感銘したヘイデンが、ジョーンズに働きかけて実現した企画とのこと。

話は変わって、非常に個性的なベースを奏でるチャーリーヘイデンに触れた大変面白い映像がある。アメリカのベーシストの方が、ジャズ界を代表するベーシスト十五人の特徴を捉えた演奏を時代を追って十五コーラス、約七分弱で繰り広げるというもの。如何なる形でジャズベースが進化して来たか、という事が、各ベーシストの特徴や個性と共に視聴覚を通じて楽しみながら理解出来る。モダンジャズベースの完成系を体現した、六番目と七番目のお馴染みレイブラウンとポールチェンバースに至る先代ベーシストの積み上げの流れが大変面白い。そこで完成系が生まれて様々な方向に派生・発展していくが、その九番目に登場するのが、ヘイデン。先ずはこちらをご覧ください。

如何でしたでしょうか。ヘイデンの箇所で、それまでのスイングしていた流れが断絶する「ドーン」という独特の奏法とタイム感が伝わりましたでしょうか。それはさながら、笑ゥせぇるすまん、に登場する喪黒福造が繰り出す、全てをリセットする「ドーン」の衝撃に近いものを感じます。

そのヘイデンは、この作品を録音したモントリオールのジャズフェスティバルに奥深い愛着があるのか、参加も多数で複数枚のライブアルバムを残しているが、本作は、そのフェスティバル開催中期間中の滞在時に収録したラジオカナダのスタジオでの演奏と思われる。

Montreal Tapes作品多数。’89年7月7日録音
モントリオールの街並み。’89年6月30日録音

デュオの名手でもあるヘイデンが、もう一人のデュオの名手、ジムホールと組んだライブアルバムも本フェスティバルで産まれている。

‘90年7月2日モントリオールジャズフェス録音

ヨーロッパと北米の交差点となるモントリオールはフランス語圏で独特の雰囲気がある。そんなモントリオールの名を冠した楽曲もある。このフェスティバルの常連、パットメセニーによるトリオアルバムからの一曲。モントリオールの雰囲気を良く捉えている。

そのモントリオール出身なのが、思うがままに煌びやかにピアノを弾きこなすオスカーピーターソン。その演奏からアメリカとヨーロッパの結節点が、探し出せるかもしれない。

因みに国際的なジャズフェスティバルは、6月のニューヨークから始まって、その後に北上して行く。具体的に言うとカナダのトロントを経てモントリオールへ、更に大陸を横断してスイスのモントルーという毎年恒例の流れが出来ている。

因みに2023年のスケジュールは、こんな感じ。
6/20-7/2 New York Blue Note Jazz Festival

大御所ですら二番手三番手表示

6/23-7/2 Toronto Jazz Festival

トロント(YYZ)はNYと主要出演者の被り無し
スポンサーのトロントドミニオン銀行色

6/23-7/1 Rochester Int’l Jazz Festival

NYに登場したパットメセニーが筆頭出演者

6/29-7/8 Festival Int’l de Jazz de Montréal

ケベック州の公用語、フランス語名称。NYとYYZ出演者が合流。
カナダの歌姫ダイアナクラールがヘッドライナー

フェスティバルは集客力があるので、ミュージシャンも多く集まり、企画としてその場に居合わせた演奏者による一夜限りの組み合わせのセッションも組まれる。例えば、こんな組み合わせ。

これは観たら一生自慢出来る。89年7月5日録音

話を戻すと、本アルバムはグラミー賞にノミネートされたように好評を博して16年後に続編も作られた。

この後もヘイデンは、共演歴のあるパットメセニーやキースジャレットという現代最高峰のミュージシャンとの貴重なデュオアルバムを世に送り出す。

ハンクジョーンズのピアノをもう少し味わいたい方は、リズムセクションでの演奏ですが、こちらもどうぞ

最後に、ヘイデンに更に浸かりたい方はこちらもどうぞ。生涯その演奏で体現し続けたフリージャズの演奏です。

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