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今日のジャズ: 5月22日、1959年@ハリウッド

May 22, 1959 “Lonely Woman”
by Ornette Coleman, Don Cherry, Charlie Haden & Billy Higgins at Radio Recorders Studio, Hollywood for Atlantic (The Shape of Jazz To Come)

5月21日紹介曲のファイブスポットアフターダークの翌日にハリウッドにて録音された、フリージャズというジャンルを開拓・普及させたジャズの巨人の一人、オーネットコールマンによる作曲でジャズスタンダードとして定着したオリジナル録音。

フリージャズは、リズムやコード進行といった制約もなく、各メンバーが感性で他のメンバーを意識しながら弾きたいように奏でるという、従来の予定調和前提の音楽を超越したスタイル。各演奏者が好き勝手やる中で、ハプニング的に調和が生まれた瞬間の恍惚感やスリリングさを味わえるかどうか、がフリージャズの聴きどころ。特にこの演奏では、オーネットのアルトサックスとドンチェリーのコルネットによる微妙で異質な調和が垣間聴けるのが特徴的。

実は、各演奏者はそれぞれの奏でを傾聴して敏感に反応、反応・反響していくという、一耳聞くと無茶苦茶ではあるものの、相当高い演奏レベルが求められている。

ズーン、ドーンという特徴のある音を紡ぎ出すベーシストのチャーリーヘイデンは普段から目をつぶって弾くと自ら語っていたが、譜面ではなくフリージャズの流儀に沿って感性に頼る音楽のスタイルだからかも知れない。ヘイデンは、これらの演奏で頭角を表した後、70年代にキースジャレット、80年代にパットメセニーと共演する等、ジャズの最前線で活躍して行く。

ビリービギンズによるドラムのリズムの取り方も所謂フォービートでは無くて、即発的なアプローチ。後任のドラマーのサニーマレイは、自身の演奏について、リズムとは言わずパルスという表現を使っているので、ビギンズもオーネットの意図を汲んでの演奏だろう。

フリーハンドでルール無く赴くままに描くという前衛絵画にコンセプトを得て、即興の要素を多分に持ったジャズ音楽で実践・表現したのがフリージャズのでは、というのが個人的な仮説。芸術という観点では映画等も含めてフォーマットを超えて影響し合っている部分があるのでは。

典型的な中低音太目の東海岸的な録音の印象を受けるが、実はハリウッド録音という意外さは、フリージャズというスタイルならでは、かも。西海岸に深く根ざしている自由な発想がもたらした賜物だと感じる。東海岸風のサウンドは、同年5月5日のコルトレーン作品を手掛けたプロデューサーが西海岸に移動して東海岸の雰囲気を持ち込んだという背景もあるかもしれない。

それにしてもこの月に、コルトレーンの大傑作、ジャイアントステップスと本作というジャズの新たな領域を開拓した二作品が、アトランティックで吹き込まれている事に驚きを覚える。その敏腕プロデューサーは、後に現ワーナーミュージックグループを設立するトルコ人のネスヒ・アーティガン。

この曲は、フリージャズ黎明期という事もあって主旋律が比較的明確にあるので、それが故にジャズスタンダード曲になったと思われる。そして、この曲は演奏者にとっては病みつきになる不思議な要素が含まれているらしい。

タキシードを着て上品なジャズを演奏する、モダンジャズカルテットが本曲を演奏をしているのは意外にも面白い。これもアトランティックレコードのリリースでアーディガンが制作に関わっているから、あり得ない組み合わせを企画として作品に話題性を織り込んだ意図が見え隠れする。

一方、フリーというだけあって、既存の概念に捉われないコールマンはプラスチックのサックスを吹いていたそう。ドンチェリーも、一般的なトランペットではなくてコルネットを吹いているのも、その思想とユニークさを演出する一環ではないかと推測する。この録音の後、コールマンはニューヨークのファイブスポットでの公演を皮切りに東海岸に本格的に進出して注目を浴び、その後のジャズに大きな影響を及ぼしてゆく。

本アルバムカバーの写真は、ジャズフォトグラフィーの大家で、コンテンポラリーレーベル御用達のウィリアムクラクストンによるもの。

本作と同月に録音されたコルトレーンのジャイアントステップスは、こちらからどうぞ。

本作の前日録音の名作は、こちらから。ファイブスポットに興味がある方も、こちらをどうぞ。この時期のジャズ界が如何に充実していたかを象徴するかのような名演奏。

写真家のウイリアムクラクストンについては、こちらをどうぞ。

最後に、ホレスシルバーによる同名の別曲も味わい深いので紹介します。とても紛らわしいのですが、オーネットの信奉者で共演まで果たしたパットメセニーが、本アルバムのヘイデンとビギンズとトリオを組んだ、そのアコースティックな演奏をどうぞ。

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