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今日のジャズ: 5月5日、1959年@ニューヨーク

May 5, 1959 “Giant Steps” by John Coltrane, Tommy Flanagan, Paul Chambers & Art Taylor at Atlantic Studio, New York for Atlantic (Giant Steps)

春がニューヨークに到来してサックスも良い感じに暖まったようなコルトレーンが、吹っ切れたかのように吹きまくってブレークスルーした象徴的な自作曲の演奏がこれ。

2月2日紹介曲の約一年前に登場した際には、マイルスの指示に従順に演奏して、サイドマン的に吹くという立ち位置だったが、これまで演奏で感じられた遠慮やモヤモヤ感が一切なく、艶のある音玉がこれでもかというほどに瑞々しく溢れる演奏でリーダーシップを発揮。

「どうだ!」と技術も気力も充実して確立した自分のスタイルを嬉しそうに自由に吹きまくるコルトレーン、この後の目覚ましい快進撃はこの辺りから始まっている。

誰であろうが何の楽曲だろうが器用にノリと心地よいグルーブを絶大な推進裏で生み出す、ベースのポールチェンバースの演奏も天才的。本曲収録アルバムに収められているMr. P.C.という曲は、イニシャル通りチェンバースに捧げられたもので、その存在感を象徴している。この”Giant Steps”という曲名は、そのベースラインから名付けられたと著名ジャズ評論家のナットヘンホフによるライナーノーツに記載されている。

この曲は頻繁なコード変更があるために、演奏技術的にかなり難しく挑み甲斐があるらしい。そんな曲でもしっかりそつなく弾き切るのが名盤案内人のピアノの名手トミーフラナガン。それでも指遣いが若干追い付かない感のあるピアノソロからすると、かなりの難易度だという事が分かる。とはいえ難しさを感じさせずに弾き切っている見事さに感服。

そして多忙なドラマー、アートテイラーが活力とメリハリのあるリズムを、特に「チンチキ」シンバルレガートを軸に生み出して、バンドの一体感を醸し出している。

印象に残る切り込むようなメロディーは勿論のこと、演奏難易度が高く挑み甲斐があるだけに、数多い演奏が遺されてスタンダード曲化したという珍しい楽曲。Wikipediaによると「1コーラス16小節中に長3度という珍しい転調を10回行う」と理解が難しいが、難易度が伝わりそうな記述があったので引用しておく。

その、本曲の軸になっている「コルトレーンチェンジ」というコード進行の理論は、本人直筆の理論図(以下)が遺されている。決まったパターンのコード進行をずらしながら繰り返す事によって、複雑な金庫のダイヤルを回すかのように多くのコードを踏みながらぐるっと一周回って元のコードに戻って来る、というようなイメージが出来そうだ。この理論を確立して気力も体力もみなぎる充実感が、このコルトレーンの演奏から伝わって来る。

上から時計回りに番号が振られている

この理論に関する分かり易い図解入り説明記事がありましたので、ご興味ある方はご覧ください。かなり複雑な考え方に基づく楽曲という事が分かります。これも、コルトレーン自身がサイドマンとして参加している、本作直前に収録されたマイルスによるジャズの大名盤”Kind of Blue”に触発された部分がかなりありそう。

この演奏を楽譜で追っていく動画があったのでお勧めしたい。ご覧頂くと、転調の嵐でコルトレーンや伴奏者がが如何に大変な事をやり遂げているのか、が素人の私でも直観的に良く理解が出来る。理論に基づくコルトレーンの吹く旋律とその音符が幾何学模様のように美しく並んでゆく。

本作品のレーベルはジャズとブルースを手がけて、後にアレサフランクリン等のR&Bやソウルミュージックで大成するアトランティックレコード。録音エンジニアは、アトランティックレコードの成功の一翼を担って、名曲「いとしのレイラ」等のエリッククラプトンの諸作に携わった音楽界のレジェンド、トムダウド。アルバムジャケットは、1月29日紹介曲と同じマーヴィンイスラエル(以下)。

前年二月のコルトレーンカルテットに興味がある方はこちらをどうぞ。ピアノは、本演奏のフラナガンでは無く、レッドガーランドに代わって、それ以外のメンバーは同じなので比較する面白さはあるが、何よりもコルトレーンの変貌ぶりがそれを凌いでいる事が分かる。以下の作品と比較すると、如何に本曲がブレークスルー、開眼の境地に達しているのか、が分かる。

最後に、上記演奏の直前、同年二月二日録音のコルトレーンが参加したマイルスによるリーダー作品はこちらからどうぞ。ベースのポールチェンバース、こちらでも良い仕事をしています。

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