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【音楽を図版で分析する】コルトレーンチェンジ

ジャズの難曲としてとりあげられる作品に、ジョンコルトレーンのGiant Stepsがあります。非常に特異なコード進行をすることで知られており、この進行はコルトレーンチェンジと呼ばれています。
ここでは、図版を使ってコルトレーンチェンジを普通の調性のある音楽と比べることで、その特徴を見てみます。

枯葉

Cm7-F7-B♭M7-E♭M7-Am7♭5-D7-Gm-G7
Cm7-F7-B♭M7-E♭M7-Am7♭5-D7-Gm-G7
Am7♭5-D7-Gm7-G7-Cm7-F7-B♭M7-E♭M7
Am7♭5-D7-Gm7/Cm7-Fm7/B♭7-E♭7-D7-Gm

Autumn Leaves on Gm

枯葉はジャズの初心者向けの曲としてよく使われます。これは調性にのって典型的な5度進行を繰り返すことから、コード進行の基礎を学ぶのにちょうど良いからです。
その基礎的なコード進行を図版化すると上記の様になります。Gmのダイアトニックコード7種類を基本として、5度進行を繰り返すことで曲が成立しています。ルート音に着目すると、12音あるうちの7音を使ってます。

Fly Me to the Moon

Am7-Dm7-G7-CM7/C7-FM7-Bm7♭5-E7-Am7A7
Dm7-G7-CM7-A7-Dm7-G7-CM7-C7
Am7-Dm7-G7-CM7/C7-FM7-Bm7♭5-E7-Am7A7
Dm7-D♯dim-Em7-A7-Dm7-G7-CM7-CM7

Fly Me to The Moon on C

もう一つ典型的なコード進行の曲としてFly Me to the Moonをあげてみます。
この曲も典型的な5度進行をしており、ダイアトニックコードを基本としています。1箇所だけ Passing Diminish が使われています。
枯葉と比べると、マイナーとメジャーで半円形がちょうど90度ずれているのがおもしろいですね。

C Jam Blues

C7-F7-C7-C7
F7-F7-C7-A7
Dm7-G7-C7-C7

C Jam Blues on C

次はブルース進行の典型的な例として、C Jam Bluesをあげます。
ブルース進行の基本は、トニック/サブドミナント/ドミナントの3コードの繰り返しです。上の図ではC7、F7とG7ですね。この基本構造にG7に向かうⅡ-Ⅴとさらにセカンダリードミナントが加わっていると考えられます。
ルート音に注目すると5つしか使われていません。コード進行としても非常に限られた要素で構成されていることが分かります。

Giant Steps

さて、Giant Stepsです。図版化するとその特異性が一目瞭然です。これは全く異なった図になります。

B/D7-G/B♭7-E♭-Am7/D7
G/B♭7-E♭/F♯7-B-Fm7/B♭7
E♭-Am7/D7-G-C♯m7/F♯7
B-Fm7/B♭7-E♭-C♯m7/F♯7

Giant Steps on C

図版化したコード進行から読み取れる特徴を、箇条書きにしてみます。

1) ハ長調の楽譜なのにCのコードは使われていない

このことは、この曲に普通の意味での調性がないことを表しています。シェーンベルグの無調音楽の様なものを考えているんでしょう。そのためにどの様な臨時記号で表記しても相応しくないので、この際全体を表す臨時記号は用いずにフラットなハ長調の譜面で記譜しているのだと思います。

このことだけでも、普通の調性音楽とは全く異なっていることが分かります。

2) Ⅱ-Ⅴ-Ⅰの要素だけでできている。

コード進行を分析すると、3つの長調(ロ長調/変ホ長調/ト長調)のⅤ-ⅠとⅡ-Ⅴ-Ⅰが不規則に表れていることが分かります。ですので、一つの曲に3つの調が混在していると考えられます。
アドリブをするには、この3つのⅡ-Ⅴ-Ⅰを的確にサイズを合わせてやる必要があります。

3) 3つのⅡ-Ⅴ-Ⅰは長3度ずつずれていて、図版化すると正三角形の位置関係になる。

そして、図版化するとこの3つの調が長3度ずつずれていることが分かります。これから分かることは、3つの調の相対的な関係はどれも同じ長3度/短6度であること。それからそれがために全体としては12の音を満遍なく使うことができるであろうということです。
また、この構成から考えて、キーとなる音はG Augmentなのだろうと想像できます。3つのトニックの主音を組み合わせるとG Augment( B Augment もE♭ Augmentも同様 )になります。

4) トニックからは基本的に対角線上のサブドミナントか、短二度上のドミナントに移っている。

Ⅱ-Ⅴ-Ⅰの進行は自動的に進むので、コード進行を覚える際のキモはトニックからどこに進行するかです。これは、図版を見ると、E♭からC♯m7に行く場合を除いて他の場合は相似形を示していることが分かります。対角線上の(トライトーンの関係の)サブドミナントに行くか、短3度上のドミナントに行くかです。
この様なルールで作曲されていることが読み取れます。

対角線上のサブドミナントに進行
E♭→Am7:2回
B→Fm7:2回
G→C♯m7:1回

短3度上のドミナントに進行
B→D7:1回
G→B♭7:2回
E♭→F♯7:1回

その他(全音下のサブドミナントに進行)
E♭→C♯m7:1回
このイレギュラーな部分は、最後に現れます。これは曲頭に戻るためのⅡ-Ⅴ-Ⅰなので、曲の中では上の二つのルールが守られているとも考えられます。

5) トニックからドミナントに移るのは、1、2、5、6小節のみ。

これはコード進行から分かることです。大部分はトニックからサブドミナントに移っており、それは対角線上の主音に向かっています。

図版化することで読み取れる楽曲の特徴

普通、調性のある音楽は主となるトニックコードがあり、それをめぐってコードが変化していきます。これを図版化すると、時計の12時の位置にあるトニックに対し、半円形のコード群がダイアトニックコードになり、これを主体として、ノンダイアトニックコードを挿入していくような形になります。

しかし、図版化して分析すると、Giant Stepsの作曲上のアイデアは全く異なっていることが分かります。またその図版も綺麗な法則性に貫かれている事が読み取れます。そして図版から逆にその法則性を類推することもできます。

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