無惨様、そのトップダウンは悪手です!悪の組織格付けチェック『鬼滅の刃』編
この記事は、フィードフォースグループAdvent Calendar2021の2日目です。昨日は広告運用事業部リーダー 牧之瀬さんの「新米リーダーが取り組んだチーム作りで目指したこと」でした。新リーダーとしての意気込みが感じられるさわやかなnoteですね。
さて、2日目の今日は、『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨(以下無惨様)の組織を格付けチェックします。過去、『るろうに剣心』の十本刀や『ダイの大冒険』の大魔王軍で高得点を記録した悪の組織格付けチェック。
「組織力・チームワーク」「トップの魅力」「採用力」の3つの観点をそれぞれ星5つで評価します。果たして無惨様の評価はいかに……。
※以下、ネタバレありまくりなのでご注意ください。
ビジョンにマッチしない組織文化
組織力・チームワーク ★☆☆☆☆
まずは組織力・チームワークです。いかに組織として成果を出す仕組みになっているか?がポイントです。
× 心理的安全性皆無で創造性が生まれない職場
無惨様の組織を語るうえで外せないのが、あの有名なパワハラ会議でしょう。下弦の鬼(12人いる幹部のうち5人)を集めて行われたアレです。
(『鬼滅の刃』吾峠 呼世晴)
この会議は、幹部のうち1人がやられたことを受け、「なぜお前たちはそんなに弱いのか」と詰めるところから始まります。
そして、集められた幹部5人のうち4人がささいなことで無惨様の機嫌を損ね、処分されてしまうのです。
特にひどいのが、下弦の肆 零余子(むかご)との問答です。「お前は強い敵と遭遇すると逃げよう思っているな」と詰める無惨様に、「いいえ思っていません!貴方様のために命をかけて戦います」と返答したところ、「お前は私が言うことを否定するのか?」と処分されてしまいます。心理的安全性のかけらもありませんね。
(『鬼滅の刃』吾峠 呼世晴)
そのほかにも、「解決策を提案した」「心の中で愚痴を言った」「怖くて逃げようとした」などの理由で処分されていく幹部たち。歴史に残るパワハラ名シーンの数々なのでぜひ本編(単行本6巻)もお読みください。
× 組織の目的にそぐわないトップダウン文化
さて、そんなジャンプ史上最大のパワハラ会議を行う無惨様。ここで問題となるのが、組織の目的とトップダウンな社風がミスマッチになっていることです。
筆者は、トップダウンの社風それ自体が悪いとは思っていません(パワハラはダメですが)。目的が明確で勝利条件が具体的になっている条件下ではトップダウンの方が成果を出しやすい場合もあるはずです。
しかし、無惨様の目的は「太陽を克服する」ことであり、その手段の1つが「青い彼岸花を探す」ことです。配下の鬼を増やし組織化する目的の1つは「青い彼岸花の手がかりを探させる」ことにありました。
「青い彼岸花を探す」という、雲をつかむようなあいまいで難易度の高い目的を達成するためには、「個のメンバーが創造性を発揮すること」「メンバー同士が有機的に連携・情報共有すること」が求められます。
にもかかわらず、先のパワハラ会議のような超トップダウン体制をしいてしまうと、「ミスを恐れて創意工夫をしなくなる」「命令だけを聞いて連携や情報共有をしなくなる」といった弊害が発生してしまいます。
これでは、1000年かけても目的を達成できないわけです。
× 無惨様の命令が絶対で有機的な連携がない
そして、無惨様の命令が絶対というトップダウン文化のせいで致命的な失敗が起きてしまいます。それは、「刀鍛治の里襲撃失敗」です。実は、この戦闘が無惨様対鬼殺隊のターニングポイントでした。
ライバル組織である鬼殺隊の「刀鍛治の里」という重要な生産拠点を見つけたのに、向かわせたのは幹部2人(玉壺と半天狗)のみ。結果として、敵対組織である鬼殺隊は幹部2人+αで応戦して辛くも撃退。鬼殺隊側に怪我人は出たものの死者はなく、この戦闘をきっかけに戦力は大きく鬼殺隊に傾くことになりました。
実は、「刀鍛治の里襲撃」を行う際、上弦の弍 童磨が「俺も一緒に行きたい」と申し出ているのです。しかし、この自主的な提案を他幹部が「無惨様がお前に何か命じたか?」と一蹴しています。
トップの命令が絶対であるがゆえに、命令にないことを自発的にしなくなる。トップダウン文化の弊害である「指示待ち」が悪い方に出てしまっていますね。
(『鬼滅の刃』吾峠 呼世晴)
玉壺と半天狗2人の襲撃でも大苦戦した鬼殺隊です。結果論ではありますが、もしこの襲撃に童磨が加わっていれば、敵幹部2人+後に急成長する炭治郎を仕留めて、なおかつ刀の供給を一時的にでも断つことで戦力的に大きな有利をとれていたでしょう。
ほとんどほめられるところがない「組織力・チームワーク」ですが、強烈なトップダウン文化のためか「無惨様の命令は絶対」だけは徹底されているので、0点は免れて星1つです。
カリスマ性はあるが……
トップの魅力 ★★☆☆☆
つづいて、組織トップの無惨様の魅力についてです。
◎ 強くてカリスマ性がある
無惨様は、圧倒的な戦闘力かつ「始まりの鬼」としての唯一性を持っています。その強さ・唯一性はカリスマにもつながり、無惨様に心酔している部下もいるほどです。
(『鬼滅の刃』吾峠 呼世晴)
読者の多くがついつい「無惨様」と敬称をつけてしまうカリスマ性は、組織を率いる者として加点要素です。
× 手柄をほめてくれないどころか怒られる
そんなカリスマ性のある無惨様ですが、部下への接し方についてはお世辞にもほめるところがありません。
なんと、手柄を立てた部下に対してほめるどころか逆に怒るという、理不尽な仕打ちをしでかしているのです。
下記が問題のシーン。敵幹部の1人を討ち取り、無惨様に報告する上弦の参 猗窩座(あかざ)が、敵幹部を討ち取ったにもかかわらず怒られてます。
(『鬼滅の刃』吾峠 呼世晴)
頑張って敵幹部を仕留めたにも関わらず、ほめられないどころか怒られる…。絶対こんな職場で働きたくないですね。
× 部下の忠誠心がなく最後のふんばりがきかない
強くてカリスマ性がある無惨様ですが、上級幹部の多くは無惨様に強い忠誠心があるわけではなく、「利害が一致しているから従っている」状態です。そのためか、敵に追い詰められた際の最後のふんばりがきかず敗れてしまっています。
顕著なのは、上弦の壱 黒死牟(こくしぼう)です。敵幹部複数に追い詰められ、覚醒のきざしを見せるも覚醒し切らないままやられてしまいました。
覚醒しきらずに身体が崩れる黒死牟
(『鬼滅の刃』吾峠 呼世晴)
黒死牟以外にも、生きることに執着心を持てなかった童磨、かつての恋人を思い出して自らを攻撃した猗窩座など、土壇場でふんばりきれなかった鬼は多くいます。
これは筆者の推測ですが、鬼になった者の多くは現世で居場所を失った者たちです。もし、無惨様がそんな鬼たちの居場所をつくってあげていたら…。最後のひとふんばりの覚醒や、自分がやられてでも敵の数を減らすなど、またちがった展開になっていたのではと思います。
鬼殺隊側の多くが土壇場で覚醒したり捨て身で敵戦力を削っているのと対照的ですね。
無惨様のカリスマ性はあるものの、本当の意味での忠誠心を引き出せなかった点から星2つとしています。
仕組みで離職率0%を実現
採用力 ★★★★★
最後に人材採用について。良い組織は優秀な人材を採用する力があるものです。
◎ お手軽簡単ダイレクトリクルーティング
無惨様は、自分の血を与えることで相手を鬼に変えることができます。作中で明言されていませんが、おそらく対象が鬼になることに同意することが条件と思われます。
同意が必要とはいえ、生きるだけでも精一杯の大正時代。追い詰められて鬼への変貌を望む人を探すのはさほど難しくないでしょう。また、死にかけの人間であっても血を分け与えることで鬼として復活するので、死にかけで生に絶望している人間を狙うのが効率がよさそうです。
作中描写を見る限り、血を分け与えることにデメリットはなく、お手軽簡単なダイクレクトリクルーティングが実現しています。
ここで特に評価したいのは、無惨様自ら黒死牟をスカウトしたこと。敵対組織の幹部をスカウトという難易度の高いことを、対象がもっとも弱ったときに的確な言葉で勧誘していて素晴らしいですね。
的確なタイミングでスカウトする無惨様
(『鬼滅の刃』吾峠 呼世晴)
◎ リファラル採用が浸透している
無惨様自らがスカウトするだけでなく、幹部メンバーからのリファラルで採用することもあるようです。上弦の陸 堕姫と妓夫太郎は童磨の紹介ですし、新・上弦の陸 獪岳は黒死牟の紹介です。
説得はできませんでしたが、猗窩座も煉獄さんをスカウトしており、上位幹部陣にリファラル採用が浸透していることがわかります。
煉獄さんをスカウトする猗窩座
(『鬼滅の刃』吾峠 呼世晴)
◎ 仕組みで離職率0%を実現
無惨様は血を分けた鬼の思考を読み取れるので、部下になった鬼たちは組織を裏切ることはできません。これはものすごいアドバンテージで、ひとたび採用すれば(忠誠心があろうがなかろうが)絶対に裏切らない、離職率0%が実現しているのです。
下記のとおり、情報漏洩も仕組みで防いでいます。悪の組織では多くの場合、裏切り・離反・情報漏洩が発生しますが、無惨様はそれを採用段階での仕組みで防いでいるのです。これはすごい。
仕組みで情報漏洩を防ぐ無惨様
(『鬼滅の刃』吾峠 呼世晴)
ダイレクトリクルーティング・リファラル採用に加え、仕組みで離職率0%を実現している点を高く評価して、採用力は星5つです。
総評:採用力は優れているものの、組織の目的と風土がアンマッチ
以上、鬼滅の刃 無惨様の組織格付け評価をしてみました。満点が星15個のうち、星8つという結果でした。
考察してみると、意外なまでの採用力の強さが目立ちました。特に離職率0%の裏切りなしというのは、他の悪の組織にはなかなか見られない特徴です。
しかし、「青い彼岸花を探す」というあいまいで創造性が求められる目的があるにも関わらず、強烈トップダウンで部下の創造性や情報共有を損なう風土であったことが残念です。
無惨様からは、組織の目的に合わせた風土が重要なんだと気づかせてくれました。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
フィードフォースグループ Advent Calendar 2日目は以上です!明日は、アナグラム人事のかくさんです。お楽しみに!