見出し画像

「偶然を利用し産まれた作品のパンチ力を見てほしい」木を生かした器や挑戦的な漆のアート

                 【インタビュイー】木工・漆作家Shiki

漆を使った椀や折敷などの器や、一輪挿しなどの花器やその飾り台、キャンバスに漆で描くアート作品を手がけているShiki craft works。落ち着いた風合いと、繊細ながらあたたかみのある器や花器は、ミドル世代を中心とした幅広い層から人気を集めている。
また、伝統的な漆のイメージとは異なる、粋なアートワークも注目すべき活動のひとつだ。
異業界から転身し、独自のスタイルをさらりとものにしている人は、かっこよくてうらやましい。そんな作り手である喜代田佑人さんに、木工・漆作家としての思いや背景をうかがった。


アパレル業界から木工・漆作家の道へ


ーー始動年や概要を教えてください。

喜代田佑人さん(以下、喜代田):Shiki craft worksとして起業したのは2020年です。屋号は「“木”を“生”かして、“器”をつくり“喜”びを感じてもらいたい」という、器づくりへの思いにこめた、4つの“キ”を由来に名づけました。岐阜県多治見市を拠点とし、自宅兼工房で作品づくりをしています。

ーー木工や漆作家の道に進んだきっかけは?

喜代田:前職では出身地の東京で、アパレル会社の営業職を務めていました。転身を決意したのは「自分の時間で働きたい」と思ったから。とはいえ、クラフトや美術鑑賞が好きだったわけでも、器にこだわりがあったわけでもないので、正直、業種はなんでもよかったんです。
そして、会社を退職して、失業保険給付を受けながら家具づくりなどの木工技術を修得できる、長野県の「上松技術専門校」に入校。同校では、漆塗りの授業や、ろくろで木を挽く器づくりの授業も希望選択して、技術を勉強しました。そうして1年間学ぶなかで、木工や漆の魅力にはまっていったんです。

木材×漆で新たに生まれる質感が魅力的な作品


ーー漆の授業を選択しようと思ったのはなぜですか?

喜代田:先生から漆を見せられたときに「たいていの人は肌がかぶれるから触れないように」と言われたのですが、僕は触ってみて、かぶれなかったんですよね。そのときに「ちょっといいかもしれないな」と思いました。そのくらいの動機なのですが、今思うと相性がよかったんですね。

ーー異業種からの転身ですが、それまでにものづくりの土台を培う機会はあったのでしょうか?

喜代田:特に何かをしたことはないのですが、小学校から、美術や音楽に力を入れている「自由学園」に通っていたんです。同校では、自分たちで植林をした木材で教室の机をつくる、といったものづくりへの取り組みも盛んだったので、そこで見たものや経験したことは大きかったと感じますね。


両手におさまる小さな器づくりに集中するほうが楽しかった


ーー専門校で1年間技術を学んで、すぐに作家活動をはじめたんですか?

喜代田:専門校卒業後は家具製作会社に就職しました。岐阜県に拠点を移したのは、そのタイミングです。
また、作品の販売も在学中からはじめていたので、並行して作家としても活動をしていました。 そんな日々をしばらく続けるのですが、会社の仕事に対して「ただミスがないようにつくっているだけで、全然楽しくもないしうれしくもない」と思うようになるんですよね。エンドユーザーの顔も見えない仕事でしたから。そんな思いもあって、作家としてやっていけそうになったころに退職し、自分で起業したんです。会社勤めをしたのは半年ほどですね。

ーーつくりたいものはこれではないと感じたのでしょうか。

喜代田:それもあったのかもしれません。細かい図面に従ってつくる大きな据付家具よりも、両手におさまるような小さな器をつくるほうが、ぐっと集中できるという感覚がありましたから。

ーー勉強後半年で独立の目処が立ったというのは、非常にスムーズな展開ですね。

喜代田:運よくいろいろな方からお声かけをいただいて、仕事につなげられたんですよね。本当に、ラッキーとおかげさまの積み重ねです。工房スペースのある今の住まいを借りれたことも、運がよかったと思うことですね。

作品の出展風景

ーー現在、作品はどこで見たり購入したりできますか?

喜代田:作品は、全国各地のギャラリーや百貨店、クラフトフェアなどに出店して、紹介・販売しています。最近では、2023年4月に多治見にオープンしたギャラリー「at Kiln MINO」にも、作品を置いていただいています。飲食店やドライフラワー店などからの受注生産をおこなうこともあります。インターネット販売はしていないんですよ。やはり、まずは実物を見て手にとって触れていただきたい、という思いがありますので。


作品づくりは「ねらい半分、偶然半分」で


ーー木が器になるまではどのような工程でつくられているんですか?

喜代田:木は、既に乾燥した材や、丸太から割いてもらい、工房で1年以上乾燥させたものを使っています。
木を削るのに使用するのは旋盤という機械。木を円形に切る荒取り、器部分をある程度まで彫る荒彫りをしてから寝かせ、中彫りをして再び寝かせて、仕上げ彫り…という工程で成型していきます。
樹種は器の種類によっていろいろですが、汁椀にはおもに、木目が好きな「栓」を用いますね。折敷などの薄いものには、無垢材だと変形したりするので、重ねて貼り合わされた積層合板を使用します。

ーー漆の技法についても教えてください。

喜代田:器や一輪挿しに用いているのは、木目の美しさが映える伝統的な「拭き漆」技法です。焼いて木目を波のように際立たせる「浮造り」をして拭き漆で仕上げる器も、多く手がけています。
木は常に動いているもので、樹種によっては削ると動きやすくなるものもあります。ほかにも、焼いたあとの表情の変化、漆ののり具合、仕上がり具合など、樹種ごとに個性はさまざまなんですよね。
本当によい技法は、ある程度木とつき合わないと選べないので、日々いろいろと試行錯誤しながらつくっています。 アートワークは、キャンバスに錆漆というペースト状の漆でテクスチャーをつけて、研いで、重ねて…を繰り返す、挑戦的な技法も取り入れているのが特徴です。すずや真鍮などの金属粉をふったりもするので、「銅板みたい」「岩肌っぽい」などとよく言われますね。

ーー作品の完成像はつくる前に決めるんですか?

喜代田:ねらいすぎるとピタッとくるものはできないので、「ねらい半分、偶然半分」を意識しています。器でも漆のテクスチャーでも、木や漆のアクションに対してリアクションを返すようなイメージでつくっており、偶然にまかせて産まれるものをすごく大切にしています。

木を削る風景



自分の作品を集めた空間づくりにも意欲


ーーいろいろある作品のなかで特に思い入れの深いものはどれですか?

喜代田:汁椀ですね。一番初期からつくっているもので、自分のなかで、ようやくかたちとして落ち着いてきたような気がしています。一般的なお椀とは異なる独特なかたちが特徴です。

思い入れ深いと語る汁椀


ーー初期から現在までで作風は変わってきているんでしょうか?

喜代田:つくりたかったものは変わっていませんが、精度は上がっていると感じます。出店時に「いいな、かっこいいな」と思った作品でも、のちに振り返って「もっとこうすればよかった」と反省することは多いです。そのたびに次の作品づくりでしたいことが増えていくので、それらを昇華させるという意味でも、作風は変わっていくと思います。
また、既に喜んでいただいている器などでは、今のかたちを大切にしたいという気持ちがありますが、アートワークに関しては、アグレッシブな漆の使い方をさらに掘り下げていきたいですね。

ーー今後の展望をお聞かせください。

喜代田:現在、器、花器や飾り台、アート…と、いろいろな木工・漆作品をつくっているのですが、今後はそれらをひとつにまとめた「空間づくり」も展開していけたら…と考えています。

ーー本記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

喜代田:Shiki craft worksでは、みなさんがあまり見たことないであろう漆作品をお見せしています。木や漆をつかった作品は、自然の特性や偶然の産物によってできるものが大きく、僕が手がけているのは「偶然を少しきれいにまとめて背中を押す」こと。それによって産まれるパンチ力も、ぜひ感じていただきたいですね。
作品への思いや出店情報などは、インスタグラム(@shiki_craft_works)でも発信しています。作品に興味をもってくださった方は、ぜひ一度見に来てくださるとうれしいです。手に取っていただけば、きっと気に入っていただけるのではないかと思います。


Shikiさんの作品はこちらからご覧いただけます!


日本橋アートうつわは、日本の文化を継承する陶磁器・漆器・ガラス販売サイトです。
つくりて様が1点1点こだわり抜いたうつわ作品を多数ご紹介、販売しております。日常にぜひ日本文化を取り入れてみてはいかがでしょうか?


会員の方々のインタビューも随時更新しています。
つくりて様それぞれの作品へのこだわりや、ものづくりへの思いが詰まったインタビュー記事も是非ご覧ください!