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「多様性ある」表現の一様化について

ここ数年、広告においてジェンダーに関わる表現は炎上の火種になりやすい。
女性をある特定の年齢で「市場価値がなくなる」という表現を使った広告は多くの抗議の声で、謝罪とともに取り下げられた。
炎上が多い中でもいまだにコンプレックスを煽る広告が後を絶たない。

広告やプロダクトの顔となるクリエイティブに求められ、できるだけ不正解を回避できるものは「多様性」がキーワードになっている。


フェミニズムと広告 "Femvertising"

2016年の世界を席巻した#MeTooムーブメント以降、フェミニズム×広告のメッセージ性の強いフェムバタイジング(Femvertising)と言われるジャンルも出てきた。

ここ数年、企業は3月の国際女性デー(International Women's Day)に、こぞって次世代のステレオタイプに当てはまらない「多様性ある」女性像を広告で表現し、エンパワーメントしている。ブランドとしてはパブリックリレーションズとして単なるPRにとどまらず、社会に対して態度表明をする機会にもなっている。

フェムバタイジングは、企業のイメージ向上、販売促進、その時代の人々の在り方を定義し、ブランドのファンづくりをする。

2013年のDove の「Real Beauty」キャンペーンは、女性をエンパワメントするフェムバタイジングの象徴的な事例と言われている。
FBIのモンタージュ画家が、似顔絵を描かれる本人が思う顔と、第三者が思う顔を比較すると本人が思うより第三者は対象となる女性を美しいと思っていることがわかる実験。


Alwaysの「 #LikeAGirl」キャンペーンは「女の子らしく」のステレオタイプを打ち破る自信に満ちた女の子たちを描き、全世界で大きな反響があった。


最近のハイネケンのキャンペーン「Cheers to All」では、ビールを飲むのは男性、カクテルは女性というステレオタイプをユーモアを交えて問題提起する動画がSNSで話題になった。


1960年代のニューヨークの広告業界を描いた人気ドラマ「マッドメン」時代は、このような広告が存在していた。
まあ、この頃よりはるかに時代は良くなっている。

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女性の「セクシャル・ウェルネス」とタブー

日本でも最近発売されたカップルで使えるセクシャル・ウェルネスグッズDameがNYの地下鉄に広告を出したところ、掲載を拒否されたことが論争になった。
世界でもリベラルな土地柄であるはずのNYで、過去に男性向けのED治療薬やコンドームの広告は許可が降りていたにも関わらず。女性を対象としたセクシャル・ウェルネスブランドはNYの地下鉄だけではなく、FacebookやInstagramでの広告規制でも却下され、ブランドは戦っている。

NY地下鉄広告は、後述するFemvertisingの先駆的ブランドThinxも2015年にポスターに「生理=period」という言葉を使ったことから、一時広告を取り下げられたが、抗議して再掲載に至った。

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フェムテック企業のFemvertising
先ほどあげたDameなどフェムテックと言われる女性のヘルステックブランドは、事業のコンセプトがリプロダクティブヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康・権利)に関連することから、女性の権利を強くエンパワーメントしたり、パワフルなメッセージを打ち出す企業が多い。

そんなフェムテック企業の中で、多額の資金調達(約45億円)をしているブランドElvieは、骨盤底筋デバイスのPRで女性器バルーンをあげたり、一風変わったPRをしている。
母乳育児中のママのための搾乳デバイスキャンペーン#freethefeedで、母乳育児をタブーにせず語り合おうというコンセプトで、街中に肌の色や大きさの違う乳房の巨大バルーンオブジェを配置した。
(コンセプトを知らないと、かなりシュールな風景だけど)

フェムバタイジングは「女性」という性別の規範で、さらにそれにレバレッジをかけるもの。
今後リベラルな志向が強まってくると、フェムバタイジングはトランスジェンダーを包括しておらず、配慮が薄い時代遅れのものになるかもしれない。

さらに、一時的なマーケティングとしてフェムバタイジングを採用しても、女性の権利に対して企業が実業で取り組んでいるかブランドの姿勢として問われる。


フェムバタイジング・リトマステスト

フェムバタイジングについて、施策を企画する際や、すでに実施している企業に対して、本当にそれが女性をエンパワーメントするつもりなのか、単なるリップサービスなのかチェックできるリストがある。
このリストで大半がYESの会社は「フェイク・フェミニズム」ではないとのこと。

①会社の経営陣、幹部チーム、役員に女性がいるか?
②会社の給与は女性に男性と平等に支払われているのか?
③組織全体で女性を採用しているか?
④サプライヤー・ダイバーシティ*のような、多様性ある企業の製品やサービスの購入を推奨しているか?
アンコンシャスバイアス研修を社員に実施されているか?
⑥会社で家族休暇制度が充実しているか?
⑦インクルーシブ採用(障がい者雇用)を実施しているか?
⑧すべてのマーケティングにおいて、女性をモノ扱いすることをやめたか?

*サプライヤー・ダイバーシティ=51%以上の多様な人物(マイノリティ、女性、LGBTQ、障害者、退役軍人など)によって運営や管理されている企業。(※最後の⑧はコメントでいただいた表現を反映しました!)

このビジネスとアイデンティティ・ポリティクスが交錯する点は、LGBTQを対象とした「ピンク・キャピタリズム」も、フェムバタイジング同様、一時的な新自由主義的パッケージに陥らないよう、気をつけるべきところが共通している。

ボディ・ポジティブ

ストイックなトレーニングと食生活で痩せたモデル体型、レタッチ加工したツルツルの肌が良しとされる「美」へのカウンターとして、ありのままの体型を隠すことなく祝福する動きがここ数年活発になっている。

メディアでは描かれないものの、実はアメリカの67%の女性はプラスサイズに区分される体型で、決してプラスサイズはニッチではないということがRefinery29の67 Percent Project で明らかになった。


また、イギリスのベビー用品のブランド「Mothercare」は産後のありのままの母親を写し「ボディプラウドママ」として注目された。

母親の80%以上が、メディアに描かれた完璧な体型の母親像と、自分の体型を比較してしまうという調査結果から、出産後の体に誇りを持ってもらう意図で制作された。


グローバルマルチプラットフォームMissguidedは、#inyourownskin キャンペーンで、アルビノ、やけど、そばかす、入れ墨、アザなどさまざまな肌の状態のモデルが登場。旧来の美容業界では表に出られなかった人々をレタッチなしで掲載した。


ヴィクトリアズ・シークレットの変化

完璧なバービー人形体型で「エンジェル」と言われたヴィクトリアズ・シークレットのモデルたちも時代と共に変化している。
特にブランド自体が女性向けにも関わらず、女性の権利を侵すニュースが多々出てきたこともある。

華やかなランウェイショーがあった頃。

現在のクリエイティブ。スレンダーな白人の女性ばかりだった広告のビジュアルが変化してきている。

性犯罪者ジェフリー・エプスタインとCEOの関係や、モデルたちへの性的嫌がらせもあり、過度なセクシーさをブランドとして打ち出しにくくなった。


「多様性」と一様化

女性のエンパワーメント、ボディポジティブの掲げる「あらゆる人種、年齢の、体型の女性を祝福する」という志は間違いなく素晴らしい。

例えば「生理」という日常のタブーから女性を解放し、安心して使える画期的な生理用品が続々と出てきている。
その中で、人気の吸水型パンツはクリエイティブに型ができつつある。
クリエイティブのベンチマーク(指標)を吸水型パンツの先駆けである「Thinx」が作った。

Thinxは「女性向けサニタリー用品」にこれまでなかったシックな色味と、高いデザイン性、血を赤く表現して、ルームウェアのように生理用の吸水型パンツを「クールなもの」として表現した。
これらの表現は近年の下着の「多様性」を表す定石となった。

女性のエンパワーメント、ボディポジティブなど、全部が1つの広告の中に登場すると「型」が出来上がり、変わり映えしなくなってしまう。


「多様性といえばこうしておけば良い」
といった型は見えてきた。

・様々な人種の人々
・体型も様々
・多様性を表すため複数人数でいる
・人種特有の身体的特徴を隠さない(肌の色、髪の色、髪の質感)

この型を守れば多様性はある程度担保されるが、その居心地よさは思考停止にならないか?
問い続けなければ多様性の記号群に埋没してくだけになってしまう。

言語学者で哲学者の井筒俊彦が「意味の深みへ: 東洋哲学の水位」で考察したグローバリズムについて、「多様化」「一様化」という一見まったく相互するものが、種々雑多な文化形態を地ならしすることで、「多様性」が普遍的に均一化して「一様化」してしまうことを指摘している。
「多様性」というものを表現するのであれば、それが「型」にはまる記号になってしまわないよう、常に問い続けて模索する必要がある。


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タブーとクリエイティブについて以前書いたnoteはこちら


Femtech(フェムテック)についての詳細noteはこちら


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コメント (2)
objectify women は「女性を性的な対象物としてみる」ことを表します。
⑧部の訳としては「すべてのマーケティングにおいて、女性をモノ扱いすることをやめたか?」といったニュアンスでしょうか。
@kkat96さんありがとうございます!その表現が良いですね。それで文中反映させていただきます!
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