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スコセッシの「沈黙」みてきた。

期待以上にキチジローが良い仕事をしていた。もちろん原作でも美味しい役なのだが、窪塚洋介という俳優の存在感の危うさ脆さみたいなものが役とシンクロするので、更に得してると思う。私はキチジローは柄本佑とかがよくない?って思ってたんだけど、このキャスティング悪くなかった。

スコセッシ絶賛の塚本晋也監督と浅野忠信も勿論よかったけど、私はどこにいるのかさっぱりわからなかった加瀬亮もすごいと思う。あの人毎回キャラクターごとに別人になってしまうカメレオン役者なので、今回もパンフレット読むまで誰を演じてたのかわかんなかったよ…

これから観る人は是非パンフレット見ないで鑑賞して、ウォーリーならぬ加瀬亮を探せをやってみてほしいです。あとどこかに片桐はいりがいます。緊張感の連続の映画の中で、ほぼ唯一ホッして自然な笑みが浮かぶようなシーンでした。

作品は外国映画とは思えないほど原作に忠実。でもロケ地台湾なの。台湾は国を挙げての映画撮影の誘致にうまいこと成功してるよなぁ…日本もまだまだ自然が美しいとことか残ってるので、もっと大々的に大作映画のロケ誘致できるといいのにね。

日本人の英語の台詞に違和感、という人もいるかもしれないけど、原作では外国人宣教師が日本語的言い回しを多用して思考してるわけなのでどっこいどっこいだし、変に吹き替えにするよりよかったと思う。

まるで神の視線のような真上からのショットの多用が印象的なのと、なんかこう日本映画へのリスペクトというか、監督の「日本の名作映画のこういう感じの絵が撮ってみたかってん!」みたいなのが詰まってる感じが微笑ましかった。

唯一、ラストが惜しい。でもあれがアメリカ映画の限界かなぁ…惜しい。私が監督だったら、火がまわるあたりの引きの絵でぶった切ったと思う。ブレードランナーのディレクターズカット版のように、開かれた作品にするために。

原作もラスト近くから司祭の心情描写がなくなり、淡々と記録資料を並べたような形で終わる。読者はそこに現れた人物の行動の記録からすべてを想像するしかない。そこがいい。

でも、アメリカ映画だとキッパリわかりやすくしないと「わかんない」って文句言う人が出てくるからなぁ… 。古い映画だけど確か「氷の微笑」はアメリカ版とヨーロッパ版でラストのカットが違うのよね。

あるいはカトリック教会に対する配慮もあるのかも。そもそも監督が聖職目指してた人だし。

そんな訳で星は3.8ぐらいです。ラストカットが違ってたら4だった。

なお、私は実家がクリスチャン家庭で原作も読んでるのですんなり観てたけど、キリスト教の予備知識がない人には少し理解が難しい部分があるかも知れない。原作じたい、キリストの受難におけるユダの裏切りやペテロの裏切りなど、数々の聖書的モチーフが頭に入ってないと話の面白さ半減だと思うし。

その上で、遠藤周作が「キチジローは私だ」と言ってたことは頭に入れて観るのがいいと思う。日本史的な知識は逆に、作品の理解の上では問題にならないはず。歴史を描いてるような体だけど、実際には人間の信仰(キリスト教に限らず)と「転び」、弱さとは何か強さとは何か、みたいな人の心を描いた(ある意味、深層心理サスペンス)作品なので、普遍的現代性がある。

パンフレットの窪塚洋介インタビューによれば、スコセッシが最初から自身で企画から立ち上げ完成させた映画は、じつはタクシー・ドライバーレイジングブル、そして沈黙の3作だけなんだそうで、正直私がこれまで観て好きたったスコセッシ作品って最初の2作がダントツで、それ以外は普通ぐらいだったんだけど、その2つが純正スコセッシ作品だったんだーってことがちょっと嬉しかった。特にレイジングブルが好きな人は、同じモチーフを「沈黙」に感じ取れると思う。

#映画 #スコセッシ #沈黙 #塚本晋也 #浅野忠信 #窪塚洋介 #遠藤周作

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