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【オリジナル小説】100万円

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全4話、約9,000字のお仕事小説です。
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記事一覧

【短期連載】100万円 第1話

【短期連載】100万円 第1話

6月下旬の午後。駅前のホテル3階。
通常なら披露宴の会場で使われるだろう空間に、机と椅子でブースが作られている。その数、ざっと30。

今井は、そのうちの1ブースに座っている。空調が効いているとはいえ、多少蒸し暑い。
おもむろにネクタイを緩め、机に平積みにされたパンフレットを手に取る。表紙には、Go Ahead!のフレーズ、斜め上を見上げる若い女性の写真と共に総合ビジネス学科、ITビジネス学科、ビ

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【短期連載】100万円 第2話

【短期連載】100万円 第2話

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8月から9月は、ほぼ毎週末オープンキャンパスが実施される。
広報課にとっては地獄の2ヵ月。高校生に向けて情報発信するのが主な業務ということで、タイムスケジュール作成、備品準備、人員調整、当日の運営、参加者へのクロージングーー出願へ気持ちを固めさせる最終段階ーーといった骨の折れる業務の大半を担うのだ。特に人員調整は大変だ、学科の先生に休日出勤をしていただくよう丁重にお願いするのだ

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【短期連載】100万円 第3話

【短期連載】100万円 第3話

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10月1日、願書受付開始。BIHビジネス専門学校の入試は、書類選考と面接のみ。よっぽど内申点が悪い子でない限り、落ちることはない。だから願書出願数で入学者、つまり売上がほぼ決まる。

「去年より出が悪いねぇ。」
願書受付開始から一週間。今井がまとめた出願者に関する資料を見て、武村がつぶやいた。
少し考えこんでから、私用のスマホを手に席を外した。
数十分後、戻るや否や。
「植田さ

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【短期連載】100万円 最終話

【短期連載】100万円 最終話

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2月。人事異動の内示が社内ポーダルで通知された。3月から、植田が広報課課長へ昇進する。
「なぁ今井ちゃん、あのウワサって本当?」
沢谷がニヤニヤしながら今井に話しかける。今井も今井で、かったるそうな態度を隠さない。
「沢谷先生、あのウワサって何ですか?」
「タケさんのことだよ。仕事ほっぽり出して飲みまわってるから、降格になったってウワサ。そのショックでタケさん出勤しなくなったの

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