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修学旅行

日曜日の、新幹線ネタ、第3弾の記事を書こう。

これも、約30年前の、独身時代である。全国のドサ回り営業を精力的にこなしていた私も、時には、休みをとったりすることがあった。土日出勤をしたり、事務所で徹夜をしたり、年間の年休計画の消化率も、内勤者に比べれば極端に低かった私は、人事に目をつけられていた。

ある日、月初の販売会議で、名指しで居残るようにと指示を受け、会議後、営業部長から直接、個人面談が行われた。


コジ、頼むから、今月、どこかで、2日間、連続で年休をとってくれ。できれば、木、金ととって、4日間、連続で休め。

販売目標の達成は、今月は、放棄して良い。

そう言われた。

組合と人事から何度となく指摘され、それでも改善の意欲と実績が無いと、悪くすると強制的に職場異動になるという。

そして仕方なく、月中の木曜日と金曜日、連続年休をとった。


仕事の要領が悪い私は、結局水曜日は出張先の東京の事務所で深夜まで残業し、東京宿泊をして、翌日の午前中に、新幹線で大阪に帰る羽目になった。

当時は、携帯電話など、ない。ページャー(ポケベル)はあったが、定時連絡を義務付けられているだけで、幸い、持たされてはいなかった。だから、新幹線に乗ってしまえば、よほどのことがない限り、呼び出しは、無かった。

まぁ、時には、車内放送で呼び出されることは、あるには、あったが。

すっかり仕事モードから離れた私は、もう、新大阪まで移動中の仕事は放棄し、睡眠をとろうと決め込んでいた。

チケットをサラッと見て自分の席を確保する。だいたい、一番後ろの席をとるのだが、その日に限って、2人席の通路側をとった。そして、乗り込むと、その車両は、たまたま、私ひとりだった。

ちょっとした違和感はあったが、とにかく、寝ようと思い、すぐに熟睡モードに入った。


検札にも気づかず、どれくらい寝ていただろう。京都に着いた。あと15分も経つと、目的地、新大阪に着く。私は、熟睡モードから、浅い睡眠モードになった。

すると、どやどやと、小学生が大量に、私の座っていた車両に乗り込んできた。薄目を開けて覗いていると、あっという間に、その車両は、満員になった。だが、まだ、私は、寝ぼけていた。

あまりに突然の出来事だったので、正確には状況も飲み込めないままでいると、私の横に、小学生の男の子が、2人、私の方をまじまじと見て突っ立っている。

この子達は、何をしているのかな?

心の中で、リトルkojuroが囁いた。


ほどなく、私の車両にも、先生らしき男性が、小走りで入ってきた。そして、その2人に向かって、声をかけた。

お前たち、そこで、何してる?

すると、その2人の少年が言った。

先生、僕たちの席に、このオジサンが、座っていて、どいてくれません。


ん?

このおじさん?

オレ?オレのこと?

私の横には、その男性教師と、2人の少年が、睨み付けるように、突っ立っている。

私は、そこでようやく、はっきりと目を見開いた。

ゆっくりと彼らを覗き込み、そして、ゆっくりと周りを見回してみると、その車両に乗っている、ほとんど全ての少年少女たちの、無垢な眼差しが、刺すように、私に向けられているではないか!


なんと!

本当の悪者は、この私のようだった。


心の中のkojuroが叫んだ。

これは、ダブルブッキングだ!!


反射的にチケットを確認する。すると....。

なんと、私の席は、ひとつ前の車両だった。


す、す、すみません!!!!

そう叫ぶや否や、私は、大きな出張鞄を引っ掴み、そそくさと席を立ち、大急ぎで、前の車両に移動した。


そのときに浴びた、多くの少年少女の、冷ややかな視線は、一生忘れることができない。


ダブルブッキングというものに、私は、ついぞ、お目にかかったことがない。日本の鉄道、JR新幹線は、本当に優秀なのだと、私は、誇らしく、理解している。



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