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号泣

母は、子煩悩で過保護だったが、性格は、きついところがある人だった。


母のことを、墓参の時、ふと、思い出した。

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私が、結婚したてのとき、どうしても母が、お祝いを手渡ししたいから、家にいてほしいと言って、わざわざ、電話を何度もかけてきた。

私も、家内も、すごく忙しくて、どうにも時間がとれない。

家にいることはできないから、送ってくれと断ると、また、電話すると言って、切る。そして、また、電話をしてくる。

家に、お祝いを、渡しに行きたいから。


結婚式も終わり、もう、お祝いは、十分してもらったよと、何度も言うが、手渡ししたいものがあるのだと言って、聞かなかった。


何度目かの電話の時、つい、言ってしまった。いい加減にしてくれと。


その直後、母が、電話口で、号泣しながら、鳴き声で、声にならない声で、言った。

どうしても、わたしたいんや。手渡ししたいんや。会いたいんや。あんた達に……。


私は、すぐに、謝って、取り繕ったが、なかなか、母は、泣き止まなかった。号泣して、子供のように、泣きじゃくった。電話の向こうで、しばらく。


母が、目の前で泣くなんて、なかった。ましてや、号泣するなんて。

性格のきつい人だと、思っていた。

だが、気丈そうに見える母も、寂しさを抱えながら、不安を抱えながら、生きてきたのだと、その時、初めて、思い至った。


父と母が、帰宅したあとの見送りに、近くのバス停まで来てくれたことを、また、ぼんやりと、思い出した。


子供たちとの時間は、長いようで、短い。家内との、そして、兄弟たち、家族との時間も、短い。


できるときに、できるだけのことを、したい。その瞬間瞬間を、大切にしたいと思う。


なんだか、雨空に、心まで、湿った墓参だった。


帰り道、心の中の、リトルkojuroが、ぼそっと、つぶやいた。

コジも、歳をとったんだなあ。

雨は、まだまだ、止みそうになかった。




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