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小説シリーズ

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#エッセイ

ランドマーク(2)

ランドマーク(2)

 再び目を覚ますと、そこに闇の気配はなかった。朝にしてはやけに明るい。部屋全体が白色で覆われているからだと気付くまでに、たいして時間はかからなかった。ベッドリネン、レースのカーテン、リノリウム、ナースコール。黒々とした夜を塗りつぶすために、太陽は莫大な労力を割いたようだ。

 ベッドを囲むカーテンを開くため、わたしはリノリウムの上へ足を下ろした。裸の足裏にぼんやりとした温度が伝わる。日は高いはずだ

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ランドマーク(3)

ランドマーク(3)

 突然、部屋に甲高い音が鳴り響いた。今までに聞いたことはなかったが、小さいころによく耳にした、地震警報のものとよく似ていた。身体をこわばらせ、ベッドに顔を埋める。これほど大きな音ならば、この部屋の外まで伝わっているはずだ。にもかかわらず、一向にわたし以外の誰かはやって来ない。この音が何を表しているのか、わたしには皆目見当も付かない。だからわたしは、痛みに耐えるように、耳を塞ぎながらうずくまるしかな

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