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ランドマーク(3)

 突然、部屋に甲高い音が鳴り響いた。今までに聞いたことはなかったが、小さいころによく耳にした、地震警報のものとよく似ていた。身体をこわばらせ、ベッドに顔を埋める。これほど大きな音ならば、この部屋の外まで伝わっているはずだ。にもかかわらず、一向にわたし以外の誰かはやって来ない。この音が何を表しているのか、わたしには皆目見当も付かない。だからわたしは、痛みに耐えるように、耳を塞ぎながらうずくまるしかなかった。

 長い長い機械音ののち、被っていた布団から頭を出す。耳には不快なうなりが残ったままだった。そしてそれを待っていたようにドアが開く。わたしはそれまで、そこに扉があることにさえ気付いていなかった。

「梛」
「・・・お母さん」

 わたしは一瞬の間にいくつかのことを思い出した。今の今まで忘れていたのが、嘘だったみたいだ。母、じゃなくて絵里、と書かれたネームプレートはドローコードに吊り下げられ、そしてそれは白衣の胸ポケットにクリップで留められている。白衣の内に着たシャツ、それからスラックスも白色でまとめられているから、この部屋によく馴染む。死に装束みたいだね、と軽口を叩こうとしたけど、やめた。母の深刻そうな顔を見ているうちに、死に装束を着ていたのはどうやら自分らしいと気付いた。

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