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小説シリーズ

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2020年9月の記事一覧

いつかの、(かごめ)

いつかの、(かごめ)

 梛さんと学校以外の場所で会うのは初めてだった。不思議な関係。友人よりも遠い距離感で、しかし友人以上に運命じみたものを感じている。言葉にするたび、それは陳腐なものへと変わっていってしまいそうで、感情を押し込めてわたしは梛さんに会うのだった。

 どんな服を着ていけばいいのか分からない。ひとまずパーカーを羽織ってみる。フードを被ったり、下ろしたり。もうどうでもいいや。勢いのままアパートの階段を下った

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いつかの、(ロスタイム)

いつかの、(ロスタイム)

六章

 梛さんがわたしの前から失踪して数日が経った。桜祭りの最中、わたしを介抱した後、まさに煙のように、梛さんはわたしの視界の外側へと消えた。

 わたしは高校へ通わなければいけない。これ以上父親に迷惑をかけたくはない。父から連絡はないものの、高校から通達が届いているはずだ。父はどんな顔をしただろうか。わたしのモラトリアムに。

 リストカットの痕みたいに、ふとしたとき留年という烙印はわたしの視

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