一緒にいられるのならば
「ねぇ 今日家行っていい?酒買って行くからさ」
そんなLINEが仕事終わりに飛んできた。
僕は「いいよ」とだけ返事をした。
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彼女は大学時代からの仲で、同じゼミの所属だった。
就職をして大学の友人とは疎遠になる中、彼女とは連絡を続けていた。
と言っても、話すのは相手の彼氏の愚痴や仕事の愚痴だった。
彼女の彼氏は同じゼミの1つ上の先輩だった。
顔はいいし、背も高いしお洒落だし、そのくせ大手広告会社に入社をするという完全に僕には勝ち目がない存在だった。
だからこそ、彼女のふさわしいとも思えたからこそ大人しく愚痴を聴いていられた。
ずっと自分の中で線引きをして“友達”だと思い込めていた。
でもある日
いつものように仕事終わりに合流して飲み屋で飲んでいる時の彼女の様子は違った。
「私さ 浮気されてたみたい。振られちゃった。」
彼女は続けて『私が悪いんだ』と自分を責めるように話す。
話を聞けば聞くほど僕は苛立ってしまい、つい
「おっ、俺なら!! そんな思いさせないのに...!」
酒を飲んだせいか、今まで言わなかったこと言ってしまう。
それを聴いた彼女は涙を目に浮かべて微笑むように
「ありがと」
と言う。
彼氏という存在がいなくなったせいか、今まで気づかないフリをしてたのか、心臓がぎゅっとなる感覚があった。
「あーーー!!もう!!やっぱ考えたらムカつくな!!明日休みでしょ?!今日は私に付き合えよな」
そう言ってグラスの酒を一気に流し込むのだった。
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ひとしきり彼氏改め元カレの話で盛り上がって酒も進んだ頃、そろそろ解散の時間になった。
「ごめん。飲みすぎたから家まで送って。」
そう言う彼女を彼女の家まで送る。
彼女の家は大学時代からたまに行っていたので、場所は分かっていた。
「ほら、家着いたよ。」
「ごめん。もうちょっとだけついて来て。」
「いやでも」
「もう終電ないでしょ?それにさっきさ『俺ならそんな思いさせない』って言ってたのは嘘?」
彼女に煽られ家に上がり込む。
そして気づけば彼女を抱きしめていた。
アルコールの力とは恐ろしいものだと、抱きしめながら思った。
暗い玄関で僕に抱きしめられる彼女は「いいよ」と一言呟いた。
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僕達はこの日からセフレになった。
ただ僕らの日常は変わらなかった。
彼女にちゃんと「好き」と伝えることもなかったし、彼女から「好き」と言われることもなかった。
僕らの今までの日常にセックスが増えただけ。
ただそれだけだった。
あのきっかけの日から半年ほど経っても変わらない関係だった。
仕事終わりに彼女から「家に言っていい?」とLINEが来て、僕の家に彼女が来る。
酒を飲んで仕事の愚痴を一通り吐いた後に抱き合った。
これがいつもの流れだった。
ただある日彼女が「好きな人とかできないの?」と聞いてきた。
急な質問に僕はすぐ答えられなかった。
好きと言えば関係が終わるかもしれない。
それが怖かった。
「んー...どうだろ。逆にできたらどうする?」
僕にできることは鎌をかけるぐらいだった。
「好きな人ができたら私としてる場合じゃないでしょ」と笑いながら言う。
「じゃあさ、逆に俺じゃなくて自分に好きな人ができたらどうすんの?」
「そしたら私はこういうことはしないかなぁ。友達に戻りたいって思う。」
僕は素直に「好きだ。」と伝えられなくて、どこか強がるように言う。
「俺じゃだめなの。」
「だめじゃないけどさ。でも私達そういうのじゃなくない?」
僕は心臓あたりがずんと重たくなるような感覚で、息ができなくなりそうだった。
でもそれを悟られたくなくて、どうしようもないこの気持ちを彼女の身体にぶつけた。
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それからも僕は彼女に誘われるたびに会ったし、僕からも誘った。
断れなかったし、向こうも断る理由がなかったからだと思う。
セフレでも近くにいられるならいいと思った。
少しでも彼女を自分のものにできるなら。
独占できるならそれで幸せなんだとも思った。
彼女に好きな人ができませんようにと
そう思いながら今日も彼女と会う。
僕は彼女のことが好きだ。
振られても一緒にいられるのならばいいじゃないか。
一緒にいてれば何かが変わるじゃないか。
セフレでも僕は一緒にいたいと思う。
彼女からは今日も「家に行っていい?」とLINEがくる。
僕は「いいよ」と返事をした。
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