稀代の官房長官・総理大臣
今回取り上げる本は前総理大臣の菅義偉さんの『政治家としての覚悟』です。こういう本は就任したときに読むものだと思われるかもしれませんが、在任してしばらくしてからか退任後に読む方が検証ができます。政治家の方が書かれる本はお気持ちだけが書かれている本が多いですが、今回の本はどのようにして政策を進めていったかといったプロセスも書かれています。政治学を学ばれている学生さんにとっても政治過程論の参考になると思います。総務大臣、政務官、官房長官時代に成し遂げた政策のプロセスがつぶさに書かれています。
菅さんは総務副大臣、総務大臣、政務官、官房長官、総理大臣を歴任された政治家です。横浜市議を経て、国会議員になられました。菅政権時代の緊急事態連発は評価できませんが、携帯電話料金の値下げや不妊治療の保険適用、縦割り行政の見直しなど短期間で様々な政策を実行されました。
菅さんの本を通して感じたことは、菅さんは意志が非常に強い方ですが、権力欲が一切ないことがわかります。自らの地位にあまり興味のない方です。安倍政権で官房長官時代にアメリカ訪問は次期首相を目指していたのではないかと言われましたが、本人は官房長官としての役割を果たすことに務め上げることしか考えておらず、総理大臣になるなんて毛頭思っていなかったそうです。
菅さんは終始国民のためになる政策を進められました。第一次安倍政権下では総務大臣としてふるさと納税を導入しました。ふるさと納税については制度的に完璧ではありませんが、自治体が交付金だけに依存しない仕組みを作り、地方創生の第一歩となりました。最初は財務省と財務省の反対もあったそうですが、総務省の官僚に方向性を示し、その後財務省との折衝を繰り返し、ふるさと納税の制度ができました。
菅さんは政治家としての基本である責任感、情熱、判断力をしっかりと持たれ、それに忠実に従われた方です。菅さんのモットーは「国民の食い扶持を作る」です。この言葉は菅さんが秘書をしていた故梶山静六さんの言葉です。菅さんはその言葉通り、国民のための政策を行いました。
政策がうまく進まないのは官僚のせいと言われることが多いですが、それは間違いであることがよくわかります。官僚が動かないと言われるのは政治家が丸投げしており、責任も押し付けるようなことをしているのではないかと思います。大臣が責任を取ることを明らかにし、方向性を示すと過去のデータを基に具体的な案を示してくれたと書かれています。官僚が前例主義にとらわれるのは大臣がその責任を負いたくないがために官僚にすべてを押し付け、これまでの方法を踏襲しようとしているのだと思います。
岸田さんの増税も財務省の操り人形と言われていますが、おそらく、未来にツケを残さない方法を考えてくれと丸投げした可能性があります。そうなると増税しかなくなるはずです。財務省が勝手に言ったというよりも岸田政権や財務大臣が全責任を官僚に押し付けようとしているのではないでしょうか?菅さんの本を読む限り、官僚は方向性と責任の所在を大臣が示すことでしっかりと働いてくれると書いています。総務大臣、政務官、そして総理大臣としてその手腕を発揮し、短期間で多くの政策を実現させました。官僚は専門家であるが責任を取る存在ではありません。責任は政治家が取るものだと一貫して書かれていました。第二次安倍政権が長期政権を維持できたのは菅さんの官房長官としての手腕が非常に高かったからではないでしょうか。菅さんがいたからこそ、安倍政権が7年8カ月にも及ぶ長期政権が実現し、様々な政策を推し進めることができたのではないでしょうか?悲しいことですが、ここ数十年は菅さんを越える官房長官は現れないでしょう。菅さんは官房長官としても歴史に名を残す方だと思います。
僕も官僚の方にお会いしてお話をしたことがありますが、非常に仕事熱心です。どれだけ仕事熱心で優秀な方でも仕事を丸投げされてはどうしていいかわからなくなってしまいます。菅さんはウェーバーの言う三要素をしっかりと持たれた方で、政治家と官僚の役割の違いを明確にされて、仕事をされています。菅さんの実績とそのプロセスを見るとウェーバーの言っていたことに忠実に従うと政治は良い方向に進んでいくことが示されたと思います。菅さんの行動力とポリシーは上に立つべき人にとっては非常に参考になると思います。岸田さんも菅さんを見習っていただきたいと一日本国民として思います。
菅さんは数少ない稀代の政治家だと思います。
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