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雨降りの金曜【雨と恋】

雨降りの金曜。


週末はいっそう雨が強くなるという。
それはそれでいい。


強く降れば降るほど、僕にはちょっといいことがある。

受験を控えた三年生になってから図書館に行くことが多くなった。


自宅ではなかなか勉強に身が入らない連中がこぞって学校近くの図書館に足を運ぶ。
そして僕ものその中の一人だ。


三年前に新設された市の図書館は有名建築士がデザインしたもので、外観も内装も申し分なく、本好きではなくても魅了する空間になっていた。


そういうわけで休日にもなると自分の席を確保するために開館前から長蛇の列ができていた。

父にその話をするとひと昔前の図書館のイメージとは大きく異なるらしく、ひどく驚いていた。


そんな地元では人気の図書館も客足が遠のく日があった。


そう、雨の日だ。


雨の日になるといつもの長蛇の列はおろか、空席も目立つ。

それでもいつもと同じように、図書館まで遥々自転車で20分かけて開館前に行くのには訳があった。





おはよう、雨すごいね。




びしょ濡れで、何回か家に引き返そうかと思ったよ。



図書館の隣に住んでいるミユは雨の日だろうと関係なく図書館まで来る。
僕はこんな何気ない会話をするために雨の日でも図書館に来ていた。




お互い友達がいなくて、人が少ない、こうした雨の日だけ僕たちは喋った。そして開館までのおよそ数分間が僕に許された唯一の時間だった。


だから僕にとって休日の雨は特別な日だった。



開館時間になると、僕たちは「じゃあね」と言っていつもの席に座る。


僕は壁際に座り、ミユは少し離れた窓際に座る。



時々、穏やかな陽光に包まれて柔らかく茶色に染まるミユの髪が好きだ。
雨の日はそれが見れないのが残念だけど、雨音に包まれてノートに目をやる姿は凛としていて、それはそれで好きだった。


ミユに好きな人がいるかも知らないし、僕のことをどう思っているかもわからない。
でも、いつか雨が降らない、晴れの日でも同じように会話をできたらなと思う。


そして、春の光に包まれて、柔らかく染まるミユの隣で新しい生活を送りたい。



明日は雨予報だ。
日曜日も雨なら尚更嬉しい。


何を話そうか。
シュミレーションをするとうまく話せないから、できるだけ何も考えないでおこうと思う。

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