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彼女だけはやめておけと皆が言う 3

 ナオキよりSNS。
[例の飲み会の場所は、紀の蔵にしようと思うけど、他に候補あるか?]

紀の蔵は、高級な料亭居酒屋で、見た目はいいが、太郎は安い居酒屋の、さるカニ合戦でいいと思っていた。

[さるカニ合戦ではダメなのか?]

[せっかくの美女との初顔合わせなんだから、さるカニ合戦はやめておこう。]

 美女とはいえ、顔が整っているというだけで、特別扱いするのもおかしいと太郎は思った。間を取って居酒屋狐狸庵ではどうか。

[狐狸庵はどうだ?]

[狐狸庵は閉店したようだぞ。]

 そうだったのか。やはり長引いたコロナの影響もあったのだろうか。

それでは仕方がないな。紀の蔵でいいか。あそこはかしこまった雰囲気で太郎はあまり好みの店ではなかった。 それに、太郎の仕事の案件が切羽詰まった状態で、実は飲み会どころではなかった、断われればそれでも良いと思っていた。

 切羽詰まりの理由は工期の大幅な遅れであった。原因の根本には深刻な人手不足があった。

 工事完工予定に間に合わないと、土下座で済むなどという甘っちょろい世界ではないのだ。完工が1日遅れるごとに、顧客である外資系企業に数千万円の違約金を支払う義務が発生する契約になっているのだ。

 太郎は仕事の合間に電子タバコを吸いながら思考の逃避をした。
まだ見たことのない、マリアとは一体どういう女性なのだろうか?ハーフなのだろうか?

 以前交際した青い目の女性は、最初は太郎が夢中になって口説いたものの、セックスが楽しくなく、すぐに別れた。セックスを楽しめなかった理由としては多分に宗教が関係していると思う。青い目の彼女は敬虔なカトリック教徒であったが、宗教による制約のために、行為に溺れるという習慣はなかったのだ。

そういう観点から考えれば中国大陸の女性の方が、ぼくにはしっくりくるだろうと太郎は考えた。そして過去の青い目の女性と二股であった中国人留学生との、肉体がとろけるような感覚を思い出していた。もしも太郎の心臓が行為の途中で止まったりしても、太郎の肉体は美味しく料理され、爪の先まで残らないだろうなと、妙な想像をした。

      続く。

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