見出し画像

短編小説 秘密の金魚

 タイトルはサリンジャーのライ麦畑でつかまえての小説の1文からインスピレーションをもらいました。 

現代日本の設定です。皆さん暇潰しに読み流してください。


 ぼくの名前は地蔵太郎。フリーランスの仕事も、はや10年、仕事の案件も安定してきた。技術には自信があったので仕事は来るだろうとは思っていたが、自分が従業員を持つとは想定外であった。まさか、このぼくがリーダーシップをとらなきゃならないとは。

 元々が人疲れするタイプで、人と仕事をしたくないとフリーランスになったのに、皮肉にも今は毎日コミュニケーションの練習をしている。 仕事だから仕方ない。

 ぼくの業界では、人ひとりにつき年間1000万円の売り上げが必要となるので、現在約5人で売り上げベースで売り上げ金最低5000万円は必要でその中から利益率25%、現預金で10%は銀行に残したいところだ。


 とにかくストレスは半端ではない。

 ぼくは既婚者で小学生の娘がいる。家に帰ってもひとりになる時間は無い。会社でもみんなと一緒だ。ぼくはひとりが好きというわけではないが、どこかでストレス解消をしたい。

 コロナ直前の3年前からある女性と付き合い始めた。こちらから誘ったというわけではないが、彼女が働いていた夜の店に寄った時に意気投合してしまい、その後食事に出かけて、いうなれば愛人契約をしたのだ。彼女の名前は仮に愛としよう。

 愛はぼくより5歳若い35歳だ。バツイチで小学生の息子がいる。

愛の息子とは会わないようにしている。情がわくとややこしい事になる。ぼくの生活もある。ぼくの家庭を壊さないことを条件に愛は愛人契約をしてくれた。

 愛の家で会う事も条件だ。家の外だと誰かに見つかってしまうリスクが高い。
ということは平日の息子の学校が終わるまでの3時までという事になる。

 愛の家のリビングにはガラスの金魚鉢がおいてある。金魚鉢には5匹ほど、尾ひれの大きな金魚がひらひらと泳いでいる。大切に育てているらしく、一匹が30センチ位に育っていた。

 愛の息子が学校から帰る頃、愛は食事を作り出す。「これからお昼かい?」
「何言ってんの?朝ご飯に決まってるじゃない。」
考えればそうだ。彼女は夜から仕事だ。

 もうすぐ息子が帰ってくる。ぽくもそろそろ帰るよ。と、食事を作る彼女に向かって語りかけた時、彼女はナイフを持ちながら、ゆっくり、真顔で、上半身だけでなく、全身でこちらを向いた。

 「あなた、少し食事取っていく?」「そうだな少しだけもらおうか。」

彼女はスープをぼくの前に置いた。小魚のスープで骨っぽい。尾ひれが長い。
「これは何の魚だい?」


 彼女は、向かいのテーブルに座って食事をした手を止めて、ゆっくり顔を上げた。そして真顔でぼくの顔を見た。


                    おわり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?