「DXの思考法」ダイセル式から学ぶ製造業のDX
「上がってから下がる」ということ
この本はいわゆる日本的なデジタルトランスフォーメーション、ハンコをやめようとかリモート会議をしようとかいったコンテンを扱う本ではない。勿論そのためにpythonだVBAだというものでも無いので、それらを期待する方々は要注意です。
なぜか。それはひとえにデジタル化のロジックは「具体でなく抽象」にあるから。本の中で繰り返し語られることの中で、個人的なキーワードは下記。
デジタライゼーションというと、目の前の課題に対してこんなITツールを使えばもっと楽に出来るとか業務効率が従来の何分の1になるだとかいった話で着地することが殆どです。
しかし本著では、そこから一歩後ろに下がって「俯瞰して」課題を捉えること、つまり「上がってから下がること」が重要と述べています。
GAFAとか最近のIT大手がなぜ成功したのか。それは俯瞰して捉えた世界で、本当に価値の高いものを自ら生み出せたから(本の中ではこれを「本屋に無い本を探す」と表現しています)。ということがよく分かる一冊でした。
※欧米のメディアは最近GAFAにNetflixを追加してFAANGと呼称するらしい
この観点を持って読みすすめると学びの多い本だなと思える気がします。個人的には、インターオペラビリティとかレイヤアーキテクチャとか横文字多いな!!と思いながらウトウトしてしまう場面も、正直少なくなかったので反省。。。
ダイセル式生産革新
製造業で働く人間として特に興味深かったパートが、日本の大手化学メーカ「株式会社ダイセル」が手掛けたダイセル式生産革新について。
この会社が生産革新に取り組んだ主な理由は以下の通り。
① 円高で国内工場のコスト競争力が低下した
② 団塊世代の熟練従業員の大量定年退職が近づいた
これら課題に対して、ダイセルの主力工場である網干工場では次のアプローチを実施したそうです。
具体的には、熟練オペレータのノウハウ(暗黙知)を徹底的に引き出し、トラブル処理のケーススタディとして登録すること。
つまりに制御室に広がる無数の雑多なディスプレイを目の前にして、どこにどんな兆候が現れたら、どのように判断するかを瞬時に判断するのか、データバンクとして纏めようというのがステップ1。
ここまではなんとなく思いつきそうだし、少なからず実施している製造業他社の方も多いかと思いますが、本当にすごいのはそれ以降。
ノウハウの徹底的な構造化
関連するデータを紐付けた上で、トラブルについてチーム内や工場内の情報伝達や意思決定はどのように行われているかを調査。そこに無駄やロスはなかったかを確認する。
その上で、以下のような具体的な解決策の検討に入る。
① 画面に出すアラームを想定した際にオペレータにとってマニュアルに立ち戻る必要が少なくなるディスプレイの配置を検討
② 当直長との作業分担の見直し
つまり、いまでいうデータサイエンティストが行うデータの構造化を自前で実施したこと。そしてそれをオペレータの作業環境の最適化というかたちで、これまた全て自前で取り組んだことがダイセルが成し遂げたことの価値である(ちなみにこの最適化という観点で顧客の視聴経験にそれを実施し、大成功を収めたのがネットフリックス)
本屋に無い本を探して
本著の中にて、製造業には二種類しか無いとの記載がありました。
①組み立て加工型
②プロセス産業型
①の組み立て加工型は、生産ライン上で様々なパーツを組み合わせて1つの製品を作るもの。つまりNから1を作るタイプ。
②のプロセス産業型は、原料は常に1つ(原油など)でそこから多種多様な化学製品を作るもの。つまり1からNを作るタイプ。
ここでダイセルが考えたことは、網干の工場で生産改革を実現できたのだから、同種の他自社工場でも出来るはずということ。そして自社の他工場でも出来たのなら、それは同業他社でも出来るはずという発想に至ります。
この観点を持って、最終的にダイセルはこの生産革新の手法をソリューション・サービスとして他社に販売しています。まさに、冒頭に記載した「本屋に無い本を探して」自分で描き世界の本棚に並べたことになります。
このようなマクロな視点を持ちつつ、徹底的に現場にメスを入れる。そしてそこで得た成果物で更に収益化を図るというバランス感覚は、並大抵のものではないなと思う平社員でした。
目の前の課題に忙殺されそうな時は、一息おいて少し広義な解決を試みる癖をつけようと思った次第です。
それでは、最後までご覧いただきありがとうございました!
<参考資料:ダイセルのプロセス・イノベーション>
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