どの文学賞を受賞すると作家になれるの?① 新人発掘のための文学賞にも押し寄せるリストラの波
文学賞は、すでに単行本になっていたり、雑誌などに発表された作品に与える賞と、新人を主な対象とし、未発表の作品を公募して選考する賞がある。
前者の代表的な賞は芥川龍之介賞、直木三十五賞、三島由紀夫賞など。後者には出版社名や文芸誌名を冠にした文学賞や新人賞があり、多くの出版社が創設している。
小説家になるオーソドックスな方法は公募型の文学賞に応募し、受賞して箔を付けること。これは「どうしたら小説が書けるようになるの? ③」で紹介した文芸誌編集長のアドバイスだ。小説が本になるには、どの文学賞を選ぶかが重要になってくる。
将来性のある作家や魅力的な作品を探り当てようと、出版社は賞を創り、応募する作家の裾野を広げるため、賞金も用意されている。受賞して書籍化されれば、著者には印税も入ってくる。
小説家志望者が賞金の多寡で応募する文学賞を決めることはないだろうが、賞金額は目を引く要素の一つ。直近のデータで、文学賞の賞金事情に触れてみたい。
1000万円を超える賞金を出している賞が一つある
★『このミステリーがすごい!』大賞(宝島社) 1200万円
賞金1000万円以上の文学賞はいくつかあったが、近年は賞金額を抑える傾向がある。江戸川乱歩賞(日本推理作家協会)は1000万円から500万円になり、1200万円だったサントリーミステリー大賞(サントリー、文藝春秋、朝日放送)、1000万円の時代小説大賞(講談社)は中止になった。こんなところにも、文芸出版の厳しい現実が垣間見える。
賞金500万円の文学賞は以下の4つある
★江戸川乱歩賞(日本推理作家協会)
★松本清張賞(日本文学振興会)
★日本ミステリー文学大賞新人賞(光文文化財団)
★日経小説大賞(日本経済新聞社、日本経済新聞出版社)
※日本文学振興会は、株式会社文藝春秋を創設した菊池寛らによって設立され、文芸の向上顕揚を目的としている。芥川龍之介賞、直木三十五賞、菊池寛賞、大宅壮一ノンフィクション賞、松本清張賞の選考と授賞を行っている。
続いて多いのが、賞金300万円の賞だ
★横溝正史ミステリ&ホラー大賞(KADOKAWA)
★ファンタジア大賞(KADOKAWA)
★電撃小説大賞(KADOKAWA)
★スニーカー大賞(KADOKAWA)
★MF文庫Jライトノベル新人賞(KADOKAWA)
★日本ファンタジーノベル大賞(新潮社)
★新潮ミステリー大賞(新潮社)
★小説現代長編新人賞(講談社)
★集英社オレンジ文庫ノベル大賞(集英社)
★日本おいしい小説大賞(小学館)
★GA文庫大賞(SBクリエイティブ)
★HJ小説大賞(ホビージャパン)
★オーバーラップ文庫大賞(オーバーラップ)
出版社の負担となっている文学賞の運営
KADOKAWAはライトノベルで圧倒的なシェアを持っていて、ライトノベル関連のレーベル、編集部が多いため公募型文学賞の種類も豊富だ。しかも金額の大きい賞が並ぶ。
一方、消えてしまった文学賞も多い。公募型文学賞では、選考委員による審査の前段階で、応募作品を内部審査(出版社の社員や外部スタッフによる下読み)して候補作を絞り込むなど、労力と費用がかかる。
こうした経費が負担となるため、コストに見合った成果がないと、止めてしまう場合が多い。
すでに言及したものも含めて、消えた主な文学賞と主催者、賞金額は以下の通り。
消えた主な文学賞と主催者、賞金額
★サントリーミステリー大賞(サントリー、文藝春秋、朝日放送 1200万円)
★時代小説大賞(講談社 1000万円)
★『このライトノベルがすごい!』大賞(宝島社 500万円)
★ゴールデン・エレファント賞(日本、米国、中国、韓国の出版社の共催 300万円)
★城山三郎経済小説大賞(ダイヤモンド社 300万円)
★朝日時代小説大賞(朝日新聞出版 200万円)
★朝日新人文学賞(朝日新聞社 100万円)
★小学館文庫小説賞(小学館 100万円)
★ダ・ヴィンチ文学賞(メディアファクトリー 100万円)
★日本ケータイ小説大賞(毎日新聞社、スターツ出版、魔法のiらんど 100万円)
★メガミノベル大賞(学研パブリッシング 100万円)
★歴史群像大賞(学研パブリッシング 100万円)
★C☆NOVELS大賞(中央公論新社 100万円)
★日本ラブストーリー大賞(宝島社 50万円)
長編のエンターテインメント小説を対象にしていたゴールデン・エレファント賞は日本、米国、中国、韓国の出版社が共催していた公募型文学賞で、2009年に創設された。賞金は300万円。日本語で書かれた未発表の作品を募集し、受賞作品は、市場のニーズにマッチすれば英語、中国語、韓国語の翻訳版が刊行され、グローバルな展開を目論んでいた。しかし、4回実施しただけで終わってしまった。
「ゴールデン・エレファント賞」運営委員会の日本側の出版社、枻出版社は雑誌、ムックを中心に発行する出版社だったが、文芸部門を育成できないまま、2021年2月に民事再生法の適用を申請し、倒産している。(敬称略)
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