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“Arcaea”を読む─なぜ高く評価される世界観が生まれたのか?


はじめに


これを読んでいる皆さんは恐らく『Arcaea』という音楽ゲームをご存知のことであろうと思う。そしてこれから書く内容には、Arcaeaのストーリーのネタバレが多分に含まれるため、ストーリーを最後まで読んでいない方で、ネタバレが嫌な方はここで読むのを辞めることを強く推奨する。

メインストーリーの振り返り


それではまず最初に、Arcaeaのメインストーリーを振り返っていこう。
主人公は記憶を持たない2人の少女、光と対立。記憶の硝片─Arcaea─のうち、光には明るく楽しいものが、対立には暗く、悲しく、痛みを伴うようなものが引き付けられる。そして、光は記憶に触れてゆくうちに、この世界は明るく美しいものだと確信し、美しさを求めようとする。それと時を同じくして、対立は辛く苦しい、悲嘆に満ちた記憶に触れてゆくうち、この世界は酷く穢らわしいものであり、世界は破壊されなければいけないと言う妄執に囚われてゆくこととなる……
とここまでが最初のメインストーリーパック、「Eternal Core」の大まかなあらすじである。もう読んだことがある方も、忘れていた方も、はたまた知らなかった方もこれで概要は掴めたのではないだろうか。そしてこのメインストーリーパックには当然の事ながらいくつかの楽曲が収録されており、このパックの所謂“ボス曲”を務めたのが当時新進気鋭のコンポーザーであった、誰あろうLaurとTeam Grimoireである。2人はそれぞれPragmatism、Sheriruthを作曲するが、次に公開されたメインストーリーパックである「Vicious Labyrinth」にて、Arcaea屈指の人気曲にしてボス曲筆頭、『Grievous Lady』を合作することとなる。
そしてここからは光と対立の物語がパラレルで進んでゆく。
光が美しさと幸福だけを追い求め、そこから自我を取り戻し、遂に対立と相対するまでの物語を描いた「Luminous Sky」。
対立が世界を壊すため、辛く苦しい記憶を集めることによって力を手に入れ、そして幸せな記憶の硝片によって自らを再確認し、負の感情すら捨てて壊れてしまうまでの物語を描いた「Vicious Labyrinth」。
このふたつによって、プレイヤーはArcaeaという世界を真に認識し、その世界にのめり込んでゆくこととなる。そしてこのふたつのパックの面白い点は、どちらにもこの時点でマルチエンドが存在する、という事だ。
光の場合、幸福に飲み込まれ、ただ明るく朽ち果ててゆく(これは私にとって、麻薬常習者が廃人になりゆく過程によく似ている、と思わざるを得ない)というエンド。
そして対立の場合、幸せな記憶の硝片に出会い、その力によって迷宮の中で狂い、世界の終わりの記憶を見たことにより硝片の塔から飛び降り、塔とともに破滅するエンド。
これらの要素はストーリーの記述方式とも相まって、ノベルゲームかのように感じさせる。これはArcaeaの評価を高めるポイントのひとつでは無いだろうか?ある指定された条件で楽曲をプレイし、クリアすることでストーリーが解禁される、そしてそのストーリーを読む、という一連の流れでプレイヤーはArcaeaの世界に大きく引き込まれる。面白いやり方だ、と思う。
そして2人は相対した後、どうにか歩み寄ろうとするが、その時対立は自分が光に倒されるという記憶を見る。それにより、彼女は相手を倒すことの一点にのみ取り憑かれ、光を殺そうと動き出す。ここまでが3つ目のパック、「Adverse Prelude」の概要である。
そこから光はどうにか説得を試みるが通じず、防戦一方となる。一時は拮抗するも、対立が特異な硝片、《アノマリー》によって力を得たことで以前にも増して追い詰められる光。しかしここで何かの力によって少しの間、時が止まる。と、ここまでが4つ目のパック、「Black Fate」の内容となる訳だが、ここから最後のパック「Final Verdict」までは2年程間が空く。
そしてその間に登場したサイドストーリーパック「Esoteric Order」にて、この世界の成り立ちがどういうものか、という事が暗に示唆される。また、この間にはもうひとつ、無視できない楽曲の存在がある。
それは『PLAGMATISM-RESURRECTION-』という楽曲であり、当時最高難易度のLv11に位置づけられたにもかかわらず、初代光サイドボス曲『PRAGMATISM』の高難易度差分として登場している。これは他に類を見ない。なぜこれが登場したか、明確には語られていないが恐らく最終章である「Final Verdict」および「Silent Answer」のマルチエンドへの布石になっていたのだろうと考える。(メタ的な読みをするなら、2年程メインストーリーが更新されていなかったため、ストーリーに関連のある高難易度曲を出すことでArcaeaプレイヤー界隈を活気つけるためなどとも考えられるが)
そして最終章、「Final Verdict」にて、2人の少女の物語は終わりを迎える。「Black Fate」で描写された戦闘において、常に対立が優位に立っていたにも関わらず、最後には光が覚醒。対立は死に、前々から示唆されていた通り、少女は独り生き残り、全て終わったかに見えた。
されど、その後に配信された追加パック「Silent Answer」にて、対立亡き後が描かれる。ここでプレイヤーはArcaeaという世界がどうして出来たか、少女らが何者か、ということを初めて明確に示されることになる。
そこまで読んだ後、一旦は光が世界そのものを犠牲にし、それによって対立を復活させるという一種メリーバッドエンド的な、当事者のみの幸せが重視された終わり方で幕を閉じる。が、「Luminous Sky」や「Vicious Labyrinth」のようにここでもマルチエンド形式が採用されている。それは、光が対立を救うことを諦め、Arcaeaの世界はそのまま永遠の停滞に囚われるというもの。
こちらは明確なバッドエンドな訳だが、唐突に入れられたという訳でもなく、きちんと読み返せば光がそういう選択肢を取ることも全然有りうるだろうな、と思わせてくるところが上手い。
そしてここまでがメインストーリーの粗方の解説、および振り返りだったが、如何だったろうか。ここからはコンテンツとして何故ウケたのか、という点に注目して見ていこう。

連綿と続く「セカイ系」の系譜

結論から言うと、Arcaeaのストーリーは日本のサブカルチャーから多大な影響を受けている。
そもそものストーリーが「相反する2人が運命に抗い、そして片方が世界を犠牲にしてもう片方を救う」という時点で、これはほぼ「セカイ系」のテンプレートである。
セカイ系が分からない人のために少し補足すると、主人公の意志に世界の命運がかかっているような、そしてストーリーも数人で進行し、内面描写に重点が置かれるような、そんな感じのストーリーの作品の総称である。そもそもこの単語はサブカルチャーを表す1種のスラングであるから、明確な定義は難しいので、ざっくりとした理解で良いだろう。セカイ系として有名な作品は「新世紀エヴァンゲリオン」や「イリヤの空、UFOの夏」などだ。(要は20世紀の終わりからゼロ年代にかけて結構ウケていたコンテンツである)
他にもサブカルチャーの影響を受けていると思われるような要素はある。例えば、主人公が2人という点だ。物語序盤から、2人の主人公の辿る道は対照的であり、綺麗なパラレルになっている。これもよく使われる手法である。あとは、ストーリー解説でも話したマルチエンド方式。ノベルゲームなどでよく見られるやり方だが、前半部分の深みを出すために使っている点は上手いと思う。
他にも言い出すとキリが無いが、ここでひとつ疑問に思った人もいるかもしれない。「そんな何度も使われた手法ばかりなのに、何故Arcaeaのストーリーは高く評価されているのだろう?」
その答えはただひとつ。ストーリーを表現する「媒体」が鍵だ。
従来の音楽ゲームにおいて、ストーリーを重点に置くものは余りなく、ましてやセカイ系のフォーマットで物語を作っているものは無かった。だからこそ、その唯一性故にArcaeaはヒットし、ストーリーも高い評価を得ているのだ。というのが私の答えである。

「ボス曲」の持つコンテンツ力



それではまず、本題にに入る前にひとつ質問をしてみよう。Arcaeaオリジナル楽曲でいちばん有名なものはなんだろう?
この質問に対して、ほとんどのプレイヤーは『Grievous Lady』と答えるはずだ。
ある隠された特定の手順を踏まないと解禁できない超高難易度ボス曲。なぜArcaeaが「Vicious Labyrinth」を出した時に大きくはねたのか。その答えは、まずこれにあると思う。
音楽ゲームにおいて、カリスマ性のある超高難易度ボス曲というのは、それだけで格別な魅力と集客力を持つ。それはアーケード音楽ゲームの走りであるpop’n musicやBEATMANIA IIDXを見ても明らかだ。
そこそこの歴史がある音楽ゲームは、どれも知名度、人気度が頭ひとつ抜けているようなボス曲が存在する。それは弐寺の『冥』であったり、ポップンの『音楽』であったり、maimaiの『PANDORA PARADOXXX』であったりする。もうこんな例は枚挙にいとまがないので、この辺りで上げるのをやめよう。それは必ずしも現行における最難関であるとは限らないが、しかし、それにしても特異な人気とコンテンツ力を持っていることは確かなのだ。音楽ゲームというコンテンツを盛り上げる上で高難易度ボス曲はほぼ必須だと思う。ゲーム性が良い?クオリティの高い楽曲が多い?それも勿論人気が出るのには必要だとは思うが、そのような着実な良ポイントは、大勢を引きつけるにはやや薄い。だから私は、どちらかと言うとアンチ「アンチ高難易度」である。そして、これはプレイヤーとしての私の意見とはまた違うものであることを留意しておいて欲しい。

「ギャラリーも楽しめる超ボス曲」-PANDORA BOXXXとの類似点

Arcaeaのメインストーリーボス曲には、ある特徴があった。それは、「謎解き」という要素である。それは回を追うごとにクオリティ、および規模が増してゆき、Ver3.0の「Black Fate」では外部サイトを利用した謎解きがあり、4.0ではアップデート前にTwitter上で大規模な謎解きイベントがあった。そして満を持して登場した「Final Verdict」では、パックを買ってすぐ遊べるのはひとつのみ、他は全て特定条件を満たすことにより解禁された。そして名実ともに最強のFinal Verdict最終楽曲、『Testify』解禁では、プレイヤー1人では解禁出来ず、一定人数が条件をクリアすることでやっと出来るようになる、といった全プレイヤーをま巻き込んだ大イベントとなった。そしてもちろん、そんな大規模なイベント(当時は#Arcaeaが定期的にトレンド入りしていた)なのだから、Arcaeaをしていない他ユーザーにも情報が行き、結果として外野も傍から見ていて楽しめるような、そのようなイベントになった。そして、「外野も楽しめる」という点で、私はあるイベントを想起させられた。それがこの章のタイトルにもある、「PANDORA BOXXX」である。これも皆さんご存知だとは思うが、一応説明しておくと
SEGAの音楽ゲーム「maimai」にて行われた大型イベントで、現在でも最難関に君臨する『PANDORA PARADOXXX』をはじめとする多数の超高難易度曲を解禁できる高難易度イベントだった。そして、そのコンセプトが「今のプレイヤーの実力に合わせた『ギャラリーも楽しめる超ボス曲』を作りたかったから」というもの。この2つにはは非常に近い、通じ合うものがあるように思える。
ボス曲の話でもした通り、やはりキャッチーなコンテンツはプレイヤーを増やすのに効果的であり、そう考えるとやはりこのようなイベントを行う、というのはセンスがあると思う。

最後に

私が音楽ゲームというものに初めて触れたのは1年以上前。去年2月、私は友人の勧めで音楽ゲームを始めてみた。最初は右も左も分からなかったものの、やってゆくうちに、その面白さに気が付き、深くのめり込むようになっていった。そのゲームとは、他ならぬArcaeaである。当時は課金は躊躇われたものの、サウンドトラックを聴き、また、そのゲーム性に惚れ込むことで今では全楽曲を購入し、サウンドトラックも購入するようになった。
ここまで世界観に惚れ込み、こんな文章を書くまでになったのは一重にArcaeaの魅力が素晴らしいからである。その素晴らしさを少しでも伝えたいと思ったが、プレイヤーとしての私はまだまだ未熟であり、語るには力不足でしかない。そこで、私は自分が得意なこと。ストーリーを読み解き、コンテンツとしてどうなのかを分析比較することを選択肢として選んだ。Arcaeaを知らなかった人も、Arcaeaにどっぷりハマっている人も、これを読むことでArcaeaの世界観の魅力が伝わり、またそれを深く理解出来る一助となれば幸いである。

それでは、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。良ければこの記事のシェア、そして他の記事も読んでいただけると幸いです。








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