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東北のこと(その1)

八戸。何のイメージもなかった。マジカルバナナで「八戸」が回ってきたら何も答えられずにアウトだろう。

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10月の始め、盛岡に行った。
「出来る限りたくさんのスタジアム(Jリーグ)に行く」という人生における目標のため、グルージャ盛岡のホームスタジアムである、いわぎんスタジアムを初めて訪れた。めちゃくちゃによいスタジアムだった。

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北海道民にとって東北は近くて遠い。飛行機は少ないし、空港から目的地までの移動も難儀する場合が多い(仙台は例外)。
今回も一応、いわて花巻空港行きの便を調べた。

「高ぇ」
便が少ないとか、空港からの移動が大変とか色々あるが、実をいうと最大のネックはそのお値段だ。
LCCの価格に慣らされた私は「JALの野郎、ぼったくりかよ!」といわずにいられなかった(JALはぼったくり企業ではありません)。

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「空路がダメなら陸路があるじゃない」
愛しのマリーが私に囁いた。

そう、いまは北海道新幹線なるものがある。便利な世の中になったものだ。未来は僕らの手の中、あるいは津軽海峡の地下だ。「北海道新幹線 予約」とキーボードを叩いた。

「高ぇ」
ワンサゲン。

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「陸路がダメなら海路があるじゃない」
マリーは私を見捨てない。「フェリー 盛岡」とキーボードを叩いた。

「安ぃ」
安い。とにかく安い。
海のない盛岡には、フェリーを降りてからさらに移動する必要がある。決して近くはない。時間もかかる。でもよい。安いからだ。
そもそも札幌から苫小牧港まで行く必要もある。決して近くはない。時間もかかる。でもよい。安いからだ。
この世界で一番大切なことは愛でも正義でもない。安さだ。

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フェリーは苫小牧から八戸へ向かう。目的地は盛岡だが、せっかくなので八戸も満喫したい。

「八戸か…」
つぶやくなり白目。何も浮かばない。「八戸 wiki」とキーボードを叩いた。

伝統芸能であるえんぶり(朳)および八戸三社大祭、騎馬打毬はいずれも国の重要無形民俗文化財に指定されている。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/八戸市

すまん、全部知らない。騎馬打毬は字面で何となく想像できるが、その想像が当たっているかどうかは調べていない。興味がないからだ。

伝統工芸品には八幡馬[4]、八戸焼、南部姫毬など

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/八戸市

すまん、これも全部知らない。馬と鞠好きだな、八戸。

特産品には市川いちご、糠塚きゅうりなどがある。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/八戸市

知らん。「糠塚きゅうり」って、たけし軍団の末端って感じがするな。「市川いちご」はアイドルか芸人か難しいライン。いや、人名じゃないのはわかってる。

お盆には「背中あて」を食べる慣習が根付いている[5]。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/八戸市

知らんって。なんだ、背中あてって。椅子か?椅子食うのか?

温泉・銭湯も歴史的に多く存在する。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/八戸市

おお、やっと知っている。温泉も銭湯も知っている。ただ、八戸に多く存在するとは知らなかった。調べてみたところ、青森県は人口比で銭湯が一番多いらしい。なかでも八戸は銭湯天国と呼ばれるほどだそうだ。

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「導かれたな、天国に」
単にケチった結果なのだが、そんなことはすっかり忘れ、私は恍惚感に包まれていた。

天国である。
おさかな天国、奴隷天国、週刊スタミナ天国…。たくさん天国があるのは知っていたが、まさか銭湯の天国があろうとは。

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10月7日夜。かくして私はフェリーに乗り込んだ。船の名はシルバーティアラ号。隠居夫婦が世界一周の旅に出る豪華客船みたいな名前だが、実際はおっさんのしょうもない一人旅である。

一応個室を確保していたが、その部屋では世界一細いベッドが迎えてくれた。枕のサイズと比較していただきたい。

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フェリーのメリットは安いことだけではない。タバコ吸い放題なのもフェリーならではだ。

もちろん酒も飲む。海の上でタバコだ酒だと退廃的な時間(要するに日常)を過ごす。最高じゃないか。

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細ベッドは問題なかったが、激しい揺れで正味2時間程度しか寝られなかった。グロッキー状態でフェリーを降り、八戸の地を踏んだが、その足で盛岡行きのバスへと乗り込む。弱小インディープロレス団体の巡業みたいな行程だ。すぐ帰るぜ、八戸。

お昼前に盛岡着。じゃじゃ麺を食い、Jリーグを堪能したが、このnoteの本旨ではないのでそれらについては触れない。

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いや、でも少しだけグルージャの試合について書いておく。

冒頭に記した通り、スタジアムは素晴らしかった。スタンドはピッチに近く、そして低い。たまらない臨場感だった。そしてこの日はたくさんのサポーター、ファンが作る雰囲気も素晴らしかった。

この日の試合はグルージャにとってシーズン最後のホームゲーム。チームはJ3降格が現実味を帯びてきていた。いずれの意味においても勝たなくてはならなかった。しかし、ゴールを奪えずにチームは敗れた。

サポーターは、ファンは、それでも温かかった。だから、いや、だけど、私はJリーグが大好きだ。
試合後のスタジアム、BGMが流れる。

「♪超超超いい感じ 超超超超いい感じ」
恋愛レボリューション21である。今だけは絶対に違う。

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あっという間に夜。盛岡市内の宿が確保できなかったため、いわて銀河鉄道で斗米駅(二戸市)へ。

2両編成のローカル線、乗客は途中で私だけになった。外は漆黒の闇だ。

「銀河鉄道でひとりって、カムパネルラかっつーの!てことは俺、死んじゃうのかっつーの!」
と思うくらいには疲れていた。ひとりになったのはジョバンニなので、そもそも間違えている。

斗米駅に到着。ジョバンニでもカムパネルラでもない私は本日の宿、二戸シティホテルへと向かった。

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私が宿を決める条件は「Wi-Fiあり」「喫煙可」「旅程上都合のよい立地」「安い」だ。

それらを踏まえて予約したのがこのホテルの
「【素泊まり】<天然温泉 × サウナ>でととのう!「エアウィーヴ」全室完備でぐっすり快眠♪」
なるプランだ。

時流に全乗っかりのプラン名に思うところはあったが、まあよかろう。
ちなみに予約時に送られてきたメールがこれだ。

素敵なサウナを勧めてくれているような気も、中国人が俺を騙そうとしている気もしたが、前者であることを信じて宿へと向かった。

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私の鈍った身体でサウナについて語ることは許されないが、ビジネスホテルのサウナとしては素晴らしいクオリティだった。

何よりありがたかったのは、休憩処のマッサージチェアがタダだったことだ。
世界で一番大切なことは安さと記したばかりだが、撤回させて欲しい。
世界で一番大切なことはタダだ。私はケチではない。吝嗇家と呼んで欲しい。

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ちなみに湯は隣の金田一温泉から運んでいるそうだ。金田一温泉は「きんだいち温泉」ではなく「きんたいち温泉」と読む。じっちゃんの名にかけて間違えてはいけない。

「旅のメシはスーパーの惣菜に限る」
かの魯山人が遺している。

かろうじて風呂のことが書けたので今回はここまで。つづく。

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