見出し画像

喘息治療薬の話

前回は医師の間で「胃薬」としてよく処方されている胃酸分泌抑制薬の話をしましたが、今日のテーマは喘息の治療薬の話です。
自分は喘息持ちじゃないし~」と思ったそこの貴方(そんな人がそもそもこのnoteを開くのかどうかは置いておいて)、実は喘息には「咳喘息」という軽度の疾患が存在し、風邪で咳だけ残ってしまった…と受診した患者さんの半数以上が咳疾患だったという報告もあります。※
今日はそんな意外にも身近な疾患である喘息の病態治療薬について、また呼吸器専門医と話していて良く出てくる、喘息(咳喘息を含む)の治療が長引いてしまうタイプの患者像についても書きたいと思います。

※4~8週以上咳が続いていると訴えて受診した患者について半数以上という報告。(国立国際医療研究センター病院より)

喘息の病態について

喘息の病態は、「気管」+「炎症」を考える事で全て理解できます。
炎症を起こすと腫れるというのは皆さんイメージしやすいかと思います。(厳密には違うと言えるのですが、蚊に刺された時に、赤く炎症して腫れますよね?あのイメージで大丈夫です)
喘息の病態とは、あの「炎症して腫れる状態」が気管内部で起きている。という状態なのです。
気管の内側が腫れると、空気の通り道が狭くなり呼吸がしづらくなります。その結果、苦しい咳が発生してしまう訳です。

この炎症が起きる経路については複数考えられますが、その代表的なものは好酸球を中心としたアレルギーによるものです。ここで複雑に説明しても仕方ないので、医療機関のHPを見るのをお勧めします。
前提としては、身体を守る為のアレルギー反応が気管に起きていて、結果として不利に働いているというイメージで読むと理解しやすいかと思います。
この病気が起きるメカニズムのイメージは、咳喘息についても共通します。

咳喘息について

咳喘息は、遺伝的に喘息の傾向が無くても発症する可能性があるので、誰しもがリスクを持っている疾患になります。
疾患としての歴史は割と新しく、風邪などの呼吸器系疾患のあとに、4~8週以上咳が続く場合、受診が推奨されます。

症状としては、熱等は特に無く、咳だけが長期間続きます。
咳をする事で気管が過敏になり、それによって咳が出やすくなる、そしてまた気管が過敏に…という循環が起きるので長期化が起きてしまいます。

風邪の咳だけが残っちゃったなあという人は、4週以上続いているようであれば、医療機関に受診する事をお勧めします。
(特に内勤の人は、咳をしていると感染症を疑われるので、なおさら)

喘息治療薬について

喘息治療薬について剤型(薬のタイプ)で大別すると以下の4種類に分ける事が出来ます。
経口薬(テオドール、コートリル)
貼付薬(ホクナリンテープ)
吸入薬(シムビコート、アドエア、フルティフォーム)
生物学的製剤(ゾレア、ファセンラ、ヌーカラ)※1

また、成分で大別すると以下の4種類に分ける事ができます。
ステロイド薬
長時間 / 短時間長時間作用型β2刺激薬作用型β2刺激薬
テオフィリン
抗アレルギー薬(詳細な分別についてはまた別の機会に。)

喘息治療薬自体は、剤型と成分の組み合わせによって成立しています。※2

※1 生物学的製剤については皮下注射かつ、特殊なため、後述する組合せからは除外して考えて下さい。
※2 テオフィリンなど一部の成分については、徐放(ゆっくり体内吸収)させる事にメリットがある場合もあり、貼付薬のみになったりします。

この中でも主に使われるのが、
・吸入薬 x ステロイド薬の組み合わせ(ICS)
・吸入薬 x 長時間作用型β2刺激薬(LABA)
・吸入薬 x 短時間作用型β2刺激薬(SABA)
・経口薬 x 抗アレルギー薬(ロイコトリエン拮抗薬)

です。これは喘息治療に関するガイドラインを見ても明記されています。

中でも、ICSとLABAを組み合わせたISC/LABA製剤(アドエア、シムビコート、フルティフォーム等)は予後が良くなるという臨床試験の結果から、喘息治療の最前線で使われています。

ただ、喘息治療というのは、患者様の年齢や合併している疾患、他に服薬している薬剤や症状のステージによって、細かく追加薬剤なども定められています。詳細については以下の画像をご覧ください。

FireShot Capture 268 - 喘息ガイドライン2018 - 治療における変更ポイント

これほど多くの薬剤が使い分けられています。
治療ステップ4には、抗体という文字があると思いますが、これが生物学的製剤に該当します。冒頭で書いた通り、アレルギーの原因に関わる好酸球やその伝達物質について作用するので、先述した吸入薬や経口薬よりも高い効果が見込めます。
ファセンラという生物学的製剤の臨床試験では投与後の好酸球数中央値が0になったという報告すらあり、その効果の高さがうかがえます。
一方で問題になるのは、その薬価サイトカインネットワークに関する懸念です。サイトカインというのは、好酸球の関わる伝達物質の事で、これが機能しなくなる事で何か不都合が起きるのではないか?という懸念です。※1

※1  まだ、明確に好酸球数を大きく減らす事が、重大な副作用を起こすなどの報告は見つかっておらず、あくまで懸念です。

喘息治療が長引くのはどんな人なのか

治療が長引く人は結論から言うと「自己判断で服薬を中止する人」です。
これは医薬品情報提供者として、医療機関をいくつも周り複数の医師と話してみて、最も共通しているポイントでした。

自己判断で服薬を中止する事が何を引き起こすかについてもう少し詳しく触れたいと思います。

冒頭でも記載した通り、喘息には炎症が深くかかわっています。ただ、この炎症というのは自覚症状が無い場合もあります。例えば、肌が炎症を起こして赤くなってるけど、痛みも痒みもない。というのを経験した事がある人もいるのではないでしょうか?
これが気管内部で起きている場合、咳という自覚症状が落ち着いて、自己判断で服薬を止めると、症状は無いが炎症は進行してしまいます
そして炎症が一定レベルを超えて、咳という症状が出てきてから服薬する。そうするとまた症状が落ち着いて吸うのを止める…これが繰り返されると、気管内皮に「リモデリング」が起きてしまうのです。

このリモデリングとは、気管の炎症が悪化していく事で気管の内側が厚くなっていく事を指します。そうすると、気管内部は更に狭くなり、ますます咳が起きやすくなるのです。しかも、このリモデリングは一度起きてしまうと元の気管の状態には戻りません。(不可逆的進行
このサイトがリモデリングと炎症について分かりやすく解説しているので、詳しく知りたい方はご覧になってみて下さい。
(余談ですが、このnoteのTOP画像はリモデリングの説明によく使われるイラストです。)

この喘息治療における、医薬品の自己判断による中断は医療業界でも非常に問題視されています。たかが咳という認識を捨てて、面倒だとしても、処方された分がなくなるまで服薬しましょう

最後に

ここまで喘息とその治療薬についてお話しましたが、長引く咳になった時には、すぐに医療機関を受診する事をお勧めします。
このnoteを読んだからといって、決して「前に貰った喘息治療薬あるし」と思ってはいけません。
なぜならば、人に感染する百日咳の可能性もあるからです。仕事が忙しくても全体の生産性が落ちる前に受診しましょう。

また、ここまで文章をご覧頂いた方に、もう1点だけお伝えしたいのが、
「情報を鵜呑みにしない」という事です。SNSやTV、勿論このnoteもです。

このnoteは2018年までの医療機関で得た情報や、医薬品添付文書情報を元に2020年1月までの時点で最新文献を確認しながら執筆していますが、それでも皆さんが読まれた時にはより最新の知見が発見され、古い情報になっているかもしれません。また、決定的なTypoが無いとも限らないので、ここで得た知識はイメージ程度とし、自分で公的な報告を調査してみましょう。

以上、喘息治療薬についてのお話でした。
気管に関わる疾患としてCOPDも有名だと思いますし、過去に薬をあので、また機会があれば書きたいと思います。
ここまで読んで頂き有難うございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?