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胃酸分泌抑制薬の話

何者なのか。で自己紹介した通り、私は医薬品の情報提供をしていました。
特に胃酸分泌薬は配属から転職まで常に担当し続けたので、とりわけ想いの強い薬剤になります。ここでは、そんな胃酸分泌抑制薬についての基本情報的な部分と、逸話のような話、そして既に服用している人に向けた話をしたいと思います。

あくまで、2018年までの医薬品情報である事、またこの記事内容は、一部の医師と話す中で蓄積された情報などもあるので、鵜呑みにする事なく、調べる為の糸口にしてもらえると幸いです。

胃酸分泌抑制薬の分類

一番踏み込んでお話出来るのは、やはり実際に担当していた薬になるのですが、細かく改正される薬事法にいつか摘発されるような恐怖に怯えるのも嫌なので、まずは一般に胃酸分泌抑制薬について話をしようと思います。

まず、薬の作用機序になるのですが効き方に応じて以下の5つがあります。
① ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)
② ムスカリン受容体拮抗薬
③ 抗ガストリン薬
④ プロトンポンプ阻害薬(PPI)
③ カリウムイオン競合型酸阻害薬(P-cab)※

※ 僕の個人的な考え方を述べると、P-cabをPPIと別の扱いをする事には非常に疑問があります。ここでは作用機序の話をしているのでしっかりP-cabと記載していますが、新機序のPPIと表現される事も多く、イメージとしてはPPIというプロトンポンプを阻害する薬剤群の中に、P-cabがあると思ってもらうと良いのかもしれません。これを記載した2020年を調べても、公文書でPPIとは別物であるという文章は見つからなかったので、2018年の定義で話を続けます。(指摘あれば修正していきます。)

上記は①②③と④⑤で大きく2つに大別できます。
中でも①はドラッグストアで有名です。製品名だとガスターあたりが有名です。OTC医薬品※の中では非常に効きの強さを実感できるかもしれない。人によっては二日酔いの時に飲んで救われたという思い出もあるのではないでしょうか。

④⑤は一般的に①②③よりも効果が強いと臨床試験でも効果がでていて、2018年での逆流性食道炎などのGERD(胃食道逆流症)の治療において第1処方薬として選択される事がガイドラインでも明記されています。
④と⑤はOTC医薬品が存在せず、国内のドラッグストアで見かける事は不可能です。※2

※ Over The Counterの略。医療用医薬品から一般用医薬品や要指導医薬品の事です。より詳しい内容はOTC医薬品協会のページをどうぞ  
※2  一部の国では市販薬として販売されている事もあります。

作用機序について

正直、細かく記載するか悩みました。というのもそこまでこの記事を書く人に求められるのかどうかと…。そこで看護roo!様のサイトから引用させて頂きました。

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非常に分かりやすいですね。図の真ん中あたりで四角く囲っているのが壁細胞と呼ばれる胃の細胞です。ここが胃酸を分泌しています。
もう少し細かく言うと、左側に記載されてるガストリンヒスタミンアセチルコリン受容体に結合する事で、活性化シグナルがプロトンポンプに到達して胃酸が分泌されます。
先述の薬剤①②③は、それぞれ対応する物質(ガストリン、ヒスタミン、アセチルコリン)が受容体に結合する事を防ぎ、活性化シグナルが出ないように働きます。
そして薬剤④⑤が、右側のプロトンポンプの働きを阻害します。

ここまで聞くと、①②③も④⑤も、どちらもしっかり効きそうかもしれませんが、薬剤①②③の名前をもう一度確認してみましょう。
① ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)
② ムスカリン受容体拮抗薬
③ 抗ガストリン薬
そうです、名前からも分かる通り、それぞれの薬剤は対応する物質の働きしか阻害出来ません。なので、①(ヒスタミン)だけだと、ムスカリンやガストリンが受容体に結合するのを防ぐことが出来ず胃酸が少なからず分泌されてしまいます。
という訳で、④⑤のように胃酸を分泌するプロトンポンプ自体を阻害する薬剤が①②③よりも効きが強くなるのです。

適応症について

適応症が一番説明が難しいです。なぜならそれぞれの薬剤によって適応症が異なるので混乱を招く可能性があるからです。
そこで適応症については以下のPMDAのサイト※ から、薬剤名を入力して自分の目で確認してもらえればと思います。
④⑤で多く使われているのは、逆流性食道炎ピロリ菌除菌潰瘍の治療でしょうか。。
健康診断でピロリ菌陽性になった人は間違いなく、④か⑤と抗生物質を合わせて飲んでいます。これは何故かと言うと、ピロリ菌を殺す為に抗生物質を飲む訳ですが、残念ながら胃酸は強力でそのままでは抗生物質を分解してしまうのです。そこでしっかり胃酸を抑えて抗生物質でピロリ菌を殺します。
ピロリ菌は除菌をしない事で有意に胃ガンの発生確率を上げる事が確認されています。治療自体も手術が必要とか痛みを伴うとかでもなく、しっかりと飲み薬で治せるので判明した時には、すぐに医療機関を訪れ、除菌治療を開始しましょう。

※PMDA 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
https://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html

逸話のような話

まだ適正使用への規制が緩かったころ、製材見本※を多く手に入れた医師の間で次のような噂がまことしやかに話されていました。


”PPIを飲みの前に飲んでおくと、次の日が楽になるらしい”

胃酸が胸やけの原因になる事が知られていたからこそ、飲んで動けなくなって気持ち悪くなる前に、胃酸を止めてしまえという考え方のようです。

言うまでもなく医学的根拠はなく、論文をサルベージしましたが見つからず、むしろ消化不良を起こすのでは?という指摘もあるほどでした。
医薬品は適正使用をする事を前提として製造されています、二日酔い対策がしたければ、しっかりと水分を摂りながら飲むようにしましょう。※

※ ただ、あんまり食べるタイプじゃない僕のような人間は、水分とりつつ胃酸を抑えておくと、結構飲んで二日酔いになっても気持ち悪さがないのは経験しました。(頭痛は普通にあります。)
担当していた先生も、飲みの前には服用する事もあるとの事、信じるか信じないかは貴方次第というか…(推奨している訳ではありません)

既に服用している方へ

既にH2ブロッカーやPPI、P-cabを服用されている方へ。
特に、逆流性食道炎と診断されて胃部不快感を感じて服用している人は、長期間薬を服用しているかと思います。場合によっては数年間同じ薬剤なんて事もあるかもしれません。
それで服用してても症状が出ていると悩まれる方は、薬剤の変更をかかりつけ医師に相談してみるのも手かもしれません。実際に臨床試験の結果で、薬剤を変更したことによって改善を回答した人が多いというものも出てきています。プラシーボ効果※かもしれませんが、何もしないよりはマシだと思います。もしかすると、薬を変えた結果、改善どころか気持ち効きが弱くなって「ああ、あの薬はやっぱりしっかり効いてくれてたんだ」と実感できるかもしれません。
特に④を服用している方は⑤を、⑤を服用している方は④に変えると良いかもしれません。担当エリアでは、その処方変えは治療選択肢の1つとしてよく聞く動きでした。

※プラシーボ効果(プラセボ効果)は、効き目があると思い込みながら薬を服用することで、病気の症状が改善することを指します。

最後に

最後になりましたが、今回ここで記載した事は前職の事を大幅に無視して、「平等に」「分かりやすく」を意識して記載しました。
医療用医薬品は色々なサイトが専門用語を使いながら説明しています。もし興味を持てた人はこのnoteの事前知識をもってググってみましょう。

いつか余裕があれば胃酸関連疾患についてもお話しようと思います。

ここまでの長文にお付き合いくださいまして誠に有難うございました。

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