【取材記事】創業時から20年間変わらない「地産地消」の思い 箱根で得た地産地消のサイクルを湘南へ
【お話を伺った方】
■地産地消を知った箱根時代
小林:まずはエスプリ・デキップさんについて、創業経緯をお聞かせいただけますでしょうか。
相山さん:お店自体は、今年の夏で20周年になります。
2002年にレストランを開業しました。当時SDGsという言葉はありませんでしたが、最初から地産地消を掲げてずっと地元の農家と一緒にやってきました。
今でも軸として考えている食品のロスを減らすことだったり、地産地消を行うことでフードマイレージをなるべく抑え、環境負荷の少ないなるべく小さいコミュニティの中でビジネスサイクルを回すことを考えてやってきました。
現在取り組みの一つとして、パン屋さんから原価に近い価格でロスを買取り、リベイクするコラボレーションも行っています。
いわゆるフードレスキューという考え方になりますが、これを知ったのは2016年頃オランダにあるレストランがきっかけでした。
スーパーの従業員の方が大量廃棄される野菜を活用できないかと考え、始められたレストランです。僕もそのように地域の生産者や事業者仲間のみなさんと「なにか一緒になって作れないか」という思いで始めました。
小林:そうなんですね。地元とでいうことですが、生まれも育ちも神奈川なんですか?
相山さん:いや、埼玉出身です。僕は元々料理人ではなくギャルソンと呼ばれるウェイターからスタートし、フランス料理店やホテルなど都内で働いていました。25歳の時に箱根にあるオーベルジュと呼ばれるフレンチのホテルレストランに移籍し、それ以来27年間神奈川県に住んでいます。なので人生の半分以上は神奈川に住んでいますね。
その箱根のシェフが今から35年ほど前から、当時としては珍しく地元の農家さんの野菜を使う料理をしていました。そのシェフはフレンチ界では有名な先駆的な取り組みをしている人で、三島にある小さな農家さんと一緒に無農薬の野菜を作ったり、質を重視した少量多品目の生産を行っていました。そうした取り組みがテレビ出演やメディアに取り上げられ、その農家さんに日本中のレストランから「うちに卸して欲しい」といった声が届くようになりました。
農家さんが「農業はこんなに評価されることなんだ」と気付かれてモチベーションが高まり生き生きとされていく姿を、僕は横で見ていました。
ああ、この循環は素晴らしいなと思って、自分でお店を始める時も大都会には戻らず、できるだけ生産者に近いところにお店を構えていきたいと思いました。
店前の駐車場でスタートしたマルシェは、湘南で3000人を集客した大きなマルシェへ
小林:すごいですね。20年前からそのような取り組みをされている人は周りにいなかったのでは?
相山さん:そうですね。当時は「地産地消」という言葉がなく、よくわかってもらえなかったですね。ここ10年ほどでやっと当たり前の概念になってきました。
農家さんと本当の意味で二人三脚ができるようになるまでには7~8年かかりました。
小林:おお、その8年の間にどんな困難がありましたか?
相山さん:自分の想いをなるべく発信するようにしました。「機会があれば地元の農家さんとこんなことをやりたい」など、とにかく発信しました。「地元の農家さんと小さいマルシェをやりたい」と言った時は、「マルシェって何?」といった反応でした(笑)
2010年4月から農林水産省がマルシェ・オ・ジャポンという企画を始めたのですが、同年1月から僕は店の前の駐車場で10軒程の農家や漁協、地元事業者とマルシェを始めていき、マルシェが浸透していきました。6年継続した後、市役所に働きかけ海岸にある公園に移りまして、今は毎回70~80軒の事業者と2~3000人のお客さんが来るマルシェイベントになりました。そういう基盤を作るまでに5〜6年かかりましたね。
小林:そうなんですね。フレンチを選ばれたのは箱根時代の影響なんですか?
相山さん:そうですね。フランス料理しかやってこなかったというのもあるんですが、非常に安易な発想なんですよ(笑)僕が1989年に社会に出た当時は、バブル時代の全盛期で美味しんぼなどのグルメ雑誌漫画が流行していました。高級レストラン=フランス料理だったんですよ。イタリアンも浸透していなく、当時テレビで輝いていたシェフもみんなフレンチで何も考えずにフランス料理をやろうと思いました。
小林:そうなんですね。やっぱりフランス料理というとやはりお洒落なイメージがありますよね。
相山さん:料金の高い店から予約が埋まっていくというのがバブル時代でした。当時世界三大珍味など海外産の高級品ばかりで、日本の食材を使うシェフは少なかったですね。
小林:そうなんですね。今のお店のメニューでは産地を公開したりしているんですか?
相山さん:そうですね。野菜に関しては7〜8割は全部地元のものです。
■日本の食糧フードロス問題とフードレスキューの持つ可能性
小林:すごいですね。フードレスキューについてあまりよくわかっていないのですが、どんな物が活用できる物とできない物で区別されるのでしょうか?
相山さん:どんな物でも活用は出来ますが、パンなどの加工品はある程度賞味期限が短い物ですよね。でもそれって食べられなくなる訳ではなくて、単純に食味が落ちていくだけです。カビさえ生えなければ1〜2週間は食べられるんです。でも消費者は自宅に1週間置いたパンは食べれるけど、お店で一週間前のパンは買わないですよね。
確かに日が経ったパンは長くは美味しさを持続できないんですが、その場で焼き直した瞬間はすごく美味しくなるんです。これがレストランに向いていまして、その場で食べていただければ十分価値を感じていただける。「瞬間的に美味しく食べて貰える」、これがレストランのいいところですよね。
あとはうちの食事ではネギがわかりやすいです。お取引してる八百屋さんがありまして、流通させる為にネギの頭の部分を落として大量に廃棄が出るんです。うちではそういった物を引き取り、調理や加工して使います。充分美味しく食べられるんですよね。
もう一つは、弊社でにっぽんの宝物グランプリという大会で賞を取ったのが「王様のジビエパイ」というパイです。鹿やイノシシなどのジビエを使ったパイです。
日本では野生鳥獣による農業被害が年間150〜160億円も出ています。
イノシシなどを捕食するオオカミがいなくなり、生態系が崩れ数を増やしています。
行政が猟師さんに頼んで駆除してもらうんですが、年間に110万頭撃たれているうちの9%しか食用にされていないんです。90%以上の鹿やイノシシは山に捨てられているんですね。
農林水産省も推奨している貴重なタンパク質源なんですが、99万頭が利活用されずなかなか消費者には食べてもらえない。そこでジビエ料理が得意な僕らフレンチレストランが、一般の消費者に食べてもらいジビエが流通するようできたのが、王様のジビエパイなんです。
小林:鹿なんかすごく美味しいですよね。僕好きですね。
相山さん:美味しいんですが、鹿には肝炎を起こすウイルスがいる恐れがあります。ですから衛生管理と流通が大切なんですが、そこが徹底できていないのが課題です。
解体設備が足りていなかったり、猟師さん不足が大きな問題です。職業としてのプロの猟師が減ってしまい、趣味でハンティングやっている方が猟友会として山に入っていくんですね。
一頭撃って、尻尾を証拠として行政に持っていけば2〜3万円貰えるので、少しでも多く撃ちたいんです。そうすると捕獲した鹿やイノシシが解体施設に運び込まれるまで時間がかかり、体温による身焼けや血が回ってしまい食用として流通できないんです。ここをクリアしていくのが大きな課題ですね。
■コロナ禍で変化した消費者、提供者の意識
小林:SDGsを使って情報発信をして手応えを感じ始めたのはいつ頃でしょうか?
相山さん:コロナになるちょっと前からコロナに入る時期にかけてですね。
コロナで消費者の意識が変わり、エシカル消費などに目線がシフトした気がしますね。
あとはZ世代が社会に出始めたことで、メディアがその世代を意識しSDGs関連やサステナブルを多用するようになったと感じます。それが2019〜2020年にかけてぐらいです。
小林さん:なるほど。打ち出し始めて成果のアピールを考えているかと思うのですが、伝え方が難しいということはありますか?
相山さん:そうですね。このように時間を取れれば伝えやすいと思うのですが、レストランでお客様と接点を持てるのは限られた時間になるので、その中で思いを100%伝えるのは難しいなと思います。
あとは、このコロナ禍で僕たち従業員の意識も大きく変わりました。緊急事態宣言やまん延防止で店が3〜6ヶ月後に存続できるかという状況で戦っています。
だからこそチェンジするには大きなチャンスだと思っていて、まだ思い付きの段階ではあるんですが「お店の名前を変えようか」という話をしています。
平塚の本店の「アッシュ×エム」という店名を「アッシュ×エム ゼロ」にしようかと思っています。ゼロは脱プラを目標にしていることを意味していて、そういうわかりやすい数字を店名にしたらお客様にも伝わるし、働くスタッフの意識も変わるんじゃないかと思います。店名にしたら甘えられないですから。
小林さん:思いやメッセージを伝えることは大事ですよね。
一方で簡単に数字で表現できると、伝わりやすいというところもありますよね。例えばレスキューしたパンの数を公開していくとか。カランとお店のドアを開けたところにレスキューしたパンの数が増えていくのを毎回見られると、「もったいない」という言葉が好きな日本人には響きそうですよね。
相山さん:ああ、確かに数字にするといいですね。それはすごいいいアイディアですね。ありがとうございます。
■新たな挑戦「陸上養殖の海老で、店産店消」
小林:それでは、今後の展望や新たに挑戦する取り組みがありましたらお聞かせください。
相山さん:直近で動いているものがあります。平塚にARK という面白い会社があって、駐車場の車一台くらいのサイズのコンテナの中 で海老などのシーフード養殖を するんです。
ソーラーパネルと太陽熱給湯器などの設備がついていて、短期間であればオフグリッドで養殖することもできるんです。
蓄電池も付いているんですが日産のLEAFの中古の電池をリファービッシュ(再生)したものを使っているそう です。昨年秋のドバイ万博に出展していて、今年2月にはイギリスのBBCで取り上げられ、ロンドン拠点 もあり中東やヨーロッパから受注が始まっているようです。
JR東日本がやってるベンチャーコンテストでも優秀賞を受賞し、資金調達も成功しています。
そんな地元の面白い企業とご縁ができましたので、一緒に何かさせていただけないかなと考えています。
それが地産地消ならぬ「店産店消」です。店で作って店で食べるっていう。
海老ができるのに稚魚から4ヶ月かかるんですが、4ヶ月店舗で養殖するのは難しいのでラスト1ヶ月の段階で僕らみたいな地域のお店のコンテナで養殖し、お客様の目の前で網ですくって食べられるようにしようという取り組みです。
海老以外にも対応できる魚種を積極的に開発していて、海藻類や白身の魚を中心に徐々に増やしていこうとしています。
注目のスタートアップが地元にいるのが面白いと思って、新たな取り組みを始められたらと期待しています。
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