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【取材記事】学生主体の持続的な活動がアイデアを生み出し、人と地域に貢献し、「喜び」をもたらす

近年、社会問題解決型や地域貢献型に紐づいたSDGsの活動が注目されています。今回、オンラインインタビューした千葉大学環境ISO学生委員会は、2003年に設立された学生主体の団体であり、SDGsの先駆け的な存在です。これまで地域に密着した多くの活動実績があります。インタビューでは、スタートのきっかけや学生たちの活動、そしてコロナ禍における活動のシフトチェンジを中心にお話を伺いました。

お話を伺った方

岡山 咲子(おかやま さきこ)様
国立大学法人千葉大学国際未来教育基幹助教 兼 環境ISO学生委員会指導教員
千葉大法経学部在学中の2003年に環境ISO学生委員会を立ち上げ初代委員長として活動。京都大大学院修了後、2007年に株式会社リクルート入社。営業、企画、広報などを経て2014年に転職。
千葉大学に勤務しながら博士号取得。現在、助教として環境ISO学生委員会指導教員を務める。



ISOの取得がスタートのきっかけだった

学生委員会発足当時のメンバー(最前列中央が当時学部3年生の岡山さん)

mySDG編集部:大学生と地元のSDGsチームやプロジェクトが全国各地にあるのは、私も認識しています。千葉大学さんが取り組むきっかけとなったのを教えていただいてもよろしいでしょうか?

岡山さん:千葉大学は、2005年1月に「ISO14001」という環境マネジメントシステムの国際規格を取得しました。それに先駆けて、「学生主体でISOを取得しよう」ということで、2003年に「千葉大学環境ISO学生委員会」ができました。実はそれから19年も続いている団体なんです。

mySDG編集部:随分前ですよね。

岡山さん:この学生委員会は、千葉大学の環境マネジメントシステムを運用するための組織ということで、大学全体の環境マネジメントシステムの組織の中の一つに入っています。そのためこの学生委員会はサークルとかクラブとは全く別の位置づけになっています。ISOという国際規格に基づいて、この学生委員会が主体となって様々なことをやっています。例えば、環境に関する大学の目的目標実施計画の原案を学生が作成したり、教職員を含めた、環境ISO基礎研修の講師を学生が行ったり、100人以上の学生が教職員とチームを組んで内部監査の監査員を行って研究室とかを監査しに行くこともやっています。

その他にも、大学が発行する「サステナビリティレポート(環境報告書)」を学生が編集しており、環境マネジメントシステムを運用する上で、必要な業務を学生が運用するということが、千葉大学の大きな特徴となっています。

これを20年近くずっと継続をしてきたわけなんですけれども、その中で2015年にSDGsが採択されまた。SDGsの中でも「環境」は大きな部分を占めています。学生委員会がこれまでやってきた省エネ活動はSDGsの目標7番(「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」)や13番です。具体的には、エアコンフィルター掃除したり、ポスター作ったり、イベントを開いたりとかを毎年のようにやっています。

ゴミの分別の促進のほか、リユース促進として古本市は卒業生と退職する先生から本を回収して、それを新入生に格安で販売する活動です。下宿から自転車通学する学生は卒業時に自転車がいらなくなるので、キャンパス内に自転車を置いていってしまう人も多かったという課題から、放置自転車の削減とリユース促進のために、自転車を無料で回収して修理して新入生に格安で売る活動もあります。また、キャンパス内で大量に出た落ち葉の一部を使って堆肥を作る活動。あとはレジ袋の有料化も今は全国的ですが、千葉大学は2006年から1枚5円で販売しています。

mySDG編集部:レジ袋の有料化が早いですね。

岡山さん:そうなんです。レジ袋の有料化も学生委員会の発案でしたが、それによって生協が100万枚ぐらいレジ袋を毎年買わなくて済むようになったんですね。買わなくて済むようになったお金を拠出していただいて、「レジぶー基金」という基金を作りまして、学生が企画してエコグッズを作って割引で販売するっていった活動も行っています。ほかにも、附属学校とか地域の学校に対する環境教育、緑化をキャンパス内または地域に対して行う活動など、さまざまな環境活動を20年やってます。

SDGsの項目で言うと、例えば環境教育――、学生自身と子供たちでいうと4番「質の高い教育をみんなに」も関係しますし、省エネ活動でいうと7番「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」。古本や自転車とかのリユースリサイクルの話でいうと12番「つくる責任 つかう責任」、ゴミの分別もそうですね。エネルギーに関するところでは13番「気候変動に具体的な対策を」も関わってきます。あとは緑化活動で15番も関わってきます。あとは14番の海――。

レジぶー基金を使って割引販売するエコバッグ

mySDG編集部:千葉って海が近いじゃないですか。稲毛とかもありますが、実際、どのようなことをされていらっしゃるんでしょうか?

岡山さん:学生委員会は、大学の中の組織だけではありません。NPO法人格を2009年に取得し、より地域に広げた活動をしようということで、学生委員会の学内の組織とNPO両方の活動をやっております。このNPOは、理事長を含め全部現役の学生で構成されています。その中の活動では、地域の小中学校への環境教室、企業と連携して「里山協定」を結び「植樹里山保全活動」を月1回やっており、コロナで停滞しましたところ、昨年度は、川崎汽船さんと一緒に稲毛海岸で清掃を行っています。

mySDG編集部:川崎汽船さんも成田空港も千葉を拠点にしていらっしゃいますよね。

岡山さん:それとは別に最近、NPOとしてではなく、学生委員会として、企業との連携プロジェクトの規模が大きくなっています。地元の京葉銀行さんとのプロジェクトが2017年に発足しました。メインは環境であり、SDGsの達成の貢献に向けた活動をしていますが、学生だけだとアイデアがあっても、なかなか実現までいきません。京葉銀行さんと連携することで実現可能になるっていうことがわかりました。

mySDG編集部:学生の足りない部分を京葉銀行さんが今までの知見を活かし、サポートしながら、一つのものを作っていくっていうイメージでよろしいでしょうか?

岡山さん:京葉銀行さんは、一企業ではなく、銀行というところが実はポイントです。銀行は、多種多様な業種の取引先がいらっしゃいます。例えば、海の活動をしたいなら漁業の取引先もありますし、山の活動なら森林組合とかもあり、そういったさまざまな取引先があるというのが、協働してみて銀行の面白いポイントだと改めてわかりました。

mySDG編集部:特に地銀さんは地域に密着しているので、地元の有力企業さんや団体さんのコネクションがあるからいいですよね。

岡山さん:そうですよね。

mySDG編集部:今SDGsの取り組みが、企業でも学校でもすごくブームとなってるんですが、20年前から(活動を)やっていらしてて、先駆けの取り組みだと改めて知りました。

岡山さん:千葉大の取り組みとしてはSDGsが発端というよりは、ISO14001を取得しようっていうところから始まり、さらに環境にさまざまな広がりがあって、そこにSDGsが加わってきたという感じですね。

mySDG編集部:タイミングがSDGsとリンクしていますよね。

学生主体の活動の積み重ねが、社会人生活でも活かされている

「千葉大学環境エネルギーマネジメント実務士」の認定証授与式

mySDG編集部:これまでさまざまな活動をされていらっしゃったと思いますが、活動を続けていって感じたことと、今後の課題になるであろうことなどを教えていただいてもよろしいでしょうか。

岡山さん:企業の取り組みとは違い、大学の取り組みなので、「学生主体」というのが一番のキーワードになっています。今、学生委員会には、大学1年から3年生までの300人弱ぐらいの学生が所属しています。

mySDG編集部:4年生は就活だからほぼいない――。大学院生もいらっしゃらないのですか?

岡山さん:いないです。学生委員会は「環境マネジメントシステム実習」という科目の受講生で構成されています。学生は毎年4分の1が入れ替わるので、環境活動などの学生団体は、最初有志で立ち上げたとしても継続していくのが本当に難しいんですよ。
なので継続性――、確実に学生を確保するために「授業」にしたんです。授業なのでもちろん座学で知識とかをつけたりとか、社会人に対するメールの打ち方や日程調整の仕方とかビジネスマナー的なことも教えたりしています。あとは企画を立て方――、例えば古本市をやろうといったときに、どういうふうに計画を立て、企画を進めていいか、企画書の書き方とかを学びます。それをもとに実際に委員会活動で実践します。

学生委員会で色々な活動をしていますが、全て企画書と報告書があります。企画書を書いて、企画委員会に提案をして承認されたら予算が下りたり、「やっていいよ」という承認が下ります。全部やった後に、その実施報告も行います。そういったPDCAサイクルの経験も学生のうちにすることができます。
3年間活動をすると、学長から「千葉大学環境エネルギーマネジメント実務士」という資格が与えられ、それを武器(=強み)に就活に臨むという流れになっています。先ほどメンバー構成を1年生から3年生と言いましたが、3年生は12月で引退です。

最初、1年生は、単位が取れるからという理由で入ってくる学生ももちろん多いですが、そんなこんなで3学年で300人ぐらいの学生がおります。学年が上がると他のサークルやバイトが忙しい理由とかでやめていく学生もいるので、興味を持って今後これも続けていきたいという学生たちが残り、50~60人の3年生が毎年引退します。1年生がすごく多く、2年生がちょっと減り、3年生がさらに減るみたいな感じで、学年構成はピラミッド型になっています。

この千葉大の取り組みは、「学生主体」というのが特徴であり、学生の「教育」にもなるっていうところが、SDGsの一つの取り組みになっていると思っています。毎年、コアメンバーが変わり、委員長ももちろん変わるし――。どんどん変わっていくので、会社だと担当が変わらない限りずっと同じことできるじゃないですか。千葉大は毎年担当が変わる――。しかも未熟な学生の担当が変わるので、結構苦労もあります。

SDGsの中でも学生がいろいろ啓発活動とかをしますが、実は学生自身の啓発にもなっています。SDGs国際目標の4番「質の高い教育をみんなに」と13番「気候変動に具体的な対策を」とかで持続可能な教育っていうところもありますが、活動をやっている学生自身の意識の変化に繋がっているなというのは、アンケートを見ていても出ています。学生委員会の活動に携わったことで、サステイナブルマインドっていうんですかね――。
例えば、就活するときに希望する企業のサステナビリティレポートを読む、どんなところで社会貢献しているかというところにも注目する、サステナビリティ関連の部署に就きたいと思うとか、学生の中にも変化が出てきています。学生の活動を通して、学内の学生や地域の子どもに対することだけでなく、それ以上に自分たちが一番勉強になっている気がします。

mySDG編集部:就職前に地域やSDGsのことを知るだけでなく、自分のための「社会勉強」に繋がるということで、いくつかの「点」があり、それが「線」となって繋がっていくっていうイメージですね。

岡山さん:はい。特に、(千葉大は)企業と連携したプロジェクトを行っているので、学生でありながら、社会人とかなり密に連携を取りながら企画を進めることが常にできます。

mySDG編集部:インターンみたいですね。

岡山さん:そうですね。かなり刺激があるようですね。やっぱり企業とのプロジェクトに参加した学生っていうのは、成功体験も失敗体験も含めて刺激にはなっていると思います。

mySDG編集部:確かにおっしゃる通りだと思います。今なんかその現役の学生のお話をされていらっしゃいましたが、卒業生がこちらのプロジェクトに参加して、どういった声を聞けたかっていうのを参考までに聞きたいと思います。

岡山さん:卒業生へのアンケートも数年前に行いまして、例えば、就活でこちらの学生委員会の活動を使ったかみたいな調査をしました。もちろん、ほとんどの学生が就活の武器として使っていますし、「社会に出てから学生委員会で活動したことが役に立ったか」みたいな質問したら、9割ぐらいの卒業生が「役に立った」と答えてくれました。

それはどういう内容かというと、企画書や報告書を書くという文章を書く力、仲間や大人とのコミュニケーションする力は、この活動を通じたスキルがすごく社会に出ても役に立っていると言ってくれました。もちろん社会に出てからの仕事と学生委員会の活動は同じではなく、社会はそんな甘い話ではありません。ですが、ちょっとだけでもこの委員会で経験することで社会が垣間見れているかと思います。あと、卒業生の場合、環境の部署に配属された、新人では珍しくISOの部署に配属された子もいましたね。

コロナ禍で学生たちの活動を止めないポイントはオンラインを駆使することだった

現在の学生委員会のメンバー(一部)

mySDG編集部:おうかがいしたいのが、20年の歴史のある委員会、団体様なので、色々なことをご経験されたと思います。おそらくコロナ禍で活動がすごく制約され、やりたいけどできなかったことが結構あったかと思います。そういったことを踏まえて、コロナ禍の状況でやっていきたい、今後の展望とか目標について教えていただいてもよろしいでしょうか。

岡山さん:コロナ禍になって「これはまずい」と思ったことは、今まで全部対面で行っていた学生委員会の総会(みんなが情報共有をする場)や、班会議(色々な企画を進めていく会議)など昼休みに毎日のようにみんなが開いていた交流の場が一切、設けられなくなったことです。2020年度前半はキャンパスの入構制限もあり、対面での活動が一切できなくなりました。
そんな中でも、学生委員会の「歩み」を止めてはいけないと思いました。1年2年休んでまた再開すればいいという考えは、企業ならそれでもいいかもしれませんが、その時代、その年の学生委員の学生はそのときしかありません。一度途切れたら次の代への継承が難しくなります。

2017年に実施した古本市の様子

岡山さん:まず、今までやっていた活動を、オンラインに切り替えられるかどうかを各自で確認させました。例えば古本市はコロナ前までリアルイベント形式でやっていました。そのやり方で「これをやろう」と考えると、「できませんよね」ってなるわけです。そこで、「古本市をオンラインを活用してやるんだったらどうしたらいいか」と考えさせました。中古自転車の販売イベントも同じことですが、リストを全部作って、それをネットで公開し、事前に申し込みをしてもらい、その申し込んだ人たちに個別に引き渡します。対面の時間を極力最小限にしてやることであれば実現可能。

つまり、古本をリユースするっていう目的はぶれずに、方法を変えるっていうことを伝えました。なので、何とかその「オンラインを駆使してできること」に切り替えてこの2年、しのいできたって感じですね。

ただ、どうしてもできない活動っていうのはありました。緑のカーテンを作るとかキャンパスに行かないとできないことは、ちょっと無理だねっていう話になりました。そういった場合はその子たちはもう何もしないでおしまいにならないよう、その活動は諦めて、このコロナ禍でもできる活動を探しましょうということで、大体オンラインに行かざるを得なかったんですが――。例えば、オンラインを使った動画を作る、リーフレットを作ってネットで配布するとか、活動を新しく作り出して、学生たちは何かしらやっていたという感じですね。

今後、アフターコロナを考えたとして、やっぱりオンラインは可能性があるなと思っています。学生の総会や班会議も全部オンライン化しましたし、その結果、わざわざ集まらなくてもいいやっていうことがわかりました。と同時に、やっぱり「対面はいいよね」っていうこともわかったので、絶妙な塩梅って言うんですかね――。オンラインで事が済むことはオンライン、もしくは対面で効果が高いことは対面でというふうに、上手く併用していくっていうのがこれからあるべき姿だと――。コロナが一切収まったからといってコロナ前に全部戻るっていうことはないだろうなと思います。

mySDG編集部:本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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