見出し画像

【取材記事】「雨の日をハッピーに」「傘の使い捨てゼロ」へスタート地点は渋谷から、利便性・安全性とともに自然環境によい「傘のシェアリングサービス」を全国に広げる。

株式会社Nature Innovation Groupは、傘のシェアリングサービス「アイカサ」事業を行っています。雨が多い国である日本が世界で最もビニール傘を消費していることから、「傘をシェアする」という新しい概念を社会の当たり前にすべく取り組みを行なっている会社です。今回は傘のシェアに取り組むきっかけや困難、傘の特徴や今後の目標などをアイカサマネージャー・広報の加藤薫様にお伺いしました。

お話を伺った方

加藤 薫(かとう かおる)様
株式会社Nature Innovation Group 傘のシェアリングサービス アイカサ マネージャー兼広報
社会貢献やSDGsに関する活動をする中、2019年アイカサのバックオフィスとしてジョイン。現在はアイカサが目指すビジョンである日本の使い捨て傘ゼロを目指し広報PR担当に就任。


日本にはまだ普及していなかった「シェアリングエコノミー」。「傘」をシェアする事業を始めるきっかけとは?


株式会社Nature Innovation Group 代表取締役 丸川照司様

mySDG編集部:「アイカサ」傘のシェアリングサービスを始めたきっかけを教えて下さい。

加藤さん:代表の丸川は今年28歳になるのですが、2018年の会社設立当時は大学生でした。2016〜17年頃、日本の大学を中退し、マレーシアの大学に編入します。大学では経営学を学び、海外のビジネスにも興味がありました。そのころ東南アジアでは、身の回りの生活の中で「シェアリングサービス」が身近にあったのですが、当時の日本にはあまりなく、サイクルシェア・カーシェアなどが出始めのころでした。

マレーシアでは「シェアリングサービス」が一般的に普及していて、気軽にアプリを立ち上げて使える状況でした。
これから日本でも「シェアリングエコノミー」が流行るだろうと思ったそうです。その時、丸川が日本で欲しいシェアリングサービスは何だろうと考えた時に「傘」だったんですね。

mySDG編集部:なぜ「傘」だったんでしょう。

加藤さん:当時学生だった丸川が、簡易的に買う傘の金額500円が高いと感じていたこと、さらに普段から天気予報を見て、折り畳み傘を持ち歩く性格でもなかったので、「雨が降ったら傘を買うのももったいないので濡れて帰る」ということがよくあったそうです。そこで、傘のシェアリングサービスが欲しいと思い、調べてみると、2017年当時中国では傘のシェアリングサービスが流行りだしていて、日本にはまだなかったんです。

ないのであれば自分が作ると決意し、事業にしようと調べていくと、日本は年間を通して1/3くらいが雨。傘は年間1億2千万本ほど消費されていて、そのうち6〜7割の8千万本がビニール傘。ビニール傘は使い捨てなので、年間8千万本も使い捨てられているということなんです。
丸川は、自分の困りごとと、社会にとってのマイナス面を解消するために「移動のサポートとして使いたい時に使う」「濡れない体験を提供できる」、傘のシェアリングサービスを立ち上げました。

高校時代に子供向けボランティアに興味があった丸川は、特定非営利活動法人フローレンスの駒崎代表の本を読み、「社会貢献」に関心を持っていました。自分のビジネスをする時にも、社会にとって良い活動をするという気持ちが根本的にあったんです。
シェアリングエコノミーを活用して、既にあるもので豊かに暮らす。そして社会貢献にもつながるビジネスが自分がやりたいと思うサービスだったので、2018年に「アイカサ」を立ち上げました。

おしゃれな「傘の柄」広告はアイカサのこだわり。SDGsのメッセージも可愛いデザインに落とし込み、雨の日をハッピーにする。

アイカサ設置の様子

mySDG編集部:傘のシェアの収入源はどのような形になるのですか? 写真では1本70円となっていますね。

加藤さん:傘自体が広告になっているんですね。開くと企業のロゴやデザインが施されています。傘はコンビニでも数百円で買えたり、100円ショップでも売っているので、利用料自体を高くしてしまうと、既に安く買われて使われている文化の中で選んでいただけません。ですので、ユーザーさんの利用料はなるべく安く抑えたいということで、他のところで収入が確立できるように広告を入れています。

mySDG編集部:アプリを使って傘を借りるシステムのようですが、アプリの登録料はかかるのですか?

加藤さん:無料で登録できます。しかも、アプリには天気予報の通知があるなど、便利な機能も付いています。プランがいくつかありまして、基本は「24時間・傘1本70円」で、使わない限り料金は発生しません。月額のプランは「ひと月2本まで何回でも使い放題・月額280円」というのもあります。こちらは固定でひと月280円かかります。プランはもちろん選べます。

mySDG編集部:傘に広告が入るということで、「柄」が気になりますね。

加藤さん:傘の柄は現在25種類ほどあります。テーマとして「雨の日を快適にハッピーに」というのがあります。ハッピーになるように、色々なデザインを楽しんでもらえるように専門のデザイナーと一緒に傘のデザインをしています。
首都圏などエリアごとに色々な種類のデザインがあります。

Ziploc傘

mySDG編集部:素敵ですね!!

加藤さん:広告が入っていても、デザイン性を重視しているので、とてもおしゃれなデザインの傘です。その中でもZiplocさんの傘は「廃棄Ziploc」をチップ状にして傘の生地面をデザインしています。「ザ・Ziploc!」というデザインですが、アパレルブランド「BEAMS(ビームス)」のデザイナーさんがデザインしてくれています。
若い方に大変受け入れられて、SNSでも話題になりました。それを見て、アイカサに登録いただいて、「Ziploc傘」を探したという方もいました。TVでジャニーズの方にも使っていただいたんですよ。

オレンジリボン傘

加藤さん:「オレンジリボン傘」は西武ライオンズさんが行っている、子どもの虐待防止を呼びかける「オレンジリボン」という活動をデザインしています。アイカサは当初、西武鉄道沿線にスポットを拡大させていただいていたので、西武さんと連携して、「オレンジリボン」の認知拡大を兼ねた傘を作りました。

傘は開いて使うので、人が歩く速度で周りの方に広告を見てもらえますし、オシャレな傘は雨の日に目立ちます。

「POVO(ポボ)傘」は開くと内側にQRコードがあり「読み取るとギガがもらえる」なんていうのもあります。

povo傘

mySDG編集部:デザインやアイディアのバリエーションが豊かですね!

加藤さん:傘の内側に気持ちがほんわかする標語が書いてあるなど、広告と言いましても、一味違う「特徴」や「遊び心」を持たせるようにしていたり、社会的な慰問活動につながることなどをデザインに取り入れています。雨晴れ兼用傘もあり、種類は現在5種類です。傘の裏側に、紫外線90%カットの遮光・遮熱の生地を使用しています。同種類の「Re think(リ・シンク)傘」は、自閉症のある方が描いたデザインを採用しています。多様性のある社会を目指すということで企業様と連携し、SDGs未来都市 豊島区で展開した傘になります。よく読むと「Re think Project」と書いてあるんです。

首都圏 晴雨兼用傘
Rethink傘

mySDG編集部:デザインのクオリティが本当に高くて、雨の日が楽しみになるデザインですね!

渋谷から展開し、全国の「駅」中心にレンタルスポット拡大中。鉄道会社に信用を得られたきっかけは京急アクセラレータープログラム。

アイカサ設置 場所

mySDG編集部:エリアはどのあたりで「アイカサ」を利用できるのですか?

加藤さん:渋谷から始まり、東京・神奈川、関西は大阪・兵庫・奈良など、全国に広がっています。HPにはまだ書いてないのですが、北海道の札幌にも広がり、全国で13都道府県に広がりました。スポットで言うと、1,100スポットくらい設置しています。

mySDG編集部:基本的に「駅」に設置してあるアイカサですが、設置するにあたって鉄道とのやり取りで難しかったことなどありますか?

加藤さん:2018年当時は「シェアリングサービス」の認知はほとんどありませんでした。カーシェアやサイクルシェアにはまだ理解があったものの、「傘のシェアって何?」という感覚でしたね。鉄道会社さんだけではなく、ビルや飲食店もお断りされることは多くありました。
特に「鉄道」は、安全・安心な輸送を心掛けているので「信頼できるものでないと置けない」と、とてもハードルが高かったんです。

渋谷からスタートした「アイカサ」は、渋谷駅周辺で500箇所ほどに「傘を置かせて下さい」と丸川代表自ら、営業メンバーと一緒に声をかけて回ったんです。熱意が伝わったのは50ヵ所ほど。
当時は渋谷の飲食店が多く、それから徐々に使いたいユーザーが増えたり、お店への来店のきっかけになったりして、メディアにも取り上げられるようになりました。「日本で初めてのスマホで借りられる傘のシェアリングサービス」だったので珍しかったんですね。

そうしてサービスの信用や認知度が上がっていくと同時に、社会貢献として「ビニール傘削減」になる旨の内容で、2019年、KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM(京急アクセラレータープログラム)」に採択されたんです。

mySDG編集部:SDGsの観点で注目されたんですね。

加藤さん:鉄道会社さんのお困りごととして、「忘れ物傘」があります。傘の忘れ物はほとんど取りに来ないので、破棄になってしまいます。アイカサですと、電車の中に傘を持ち込まなくても良いサービスなので、電車の中に「忘れ物傘」が減るという課題解決につながる部分もあり、ポジティブに受け入れていただけるようになりました。

それがきっかけで1社、もう1社と、鉄道会社さんに広がっていきました。
当初は飲食店からお声かけしたのですが、実際は人の集まる「駅」に需要があり、今は駅を中心に設置させていただいています。

mySDG編集部:渋谷は大きなターミナル駅なのですが、設置場所は現在いくつあるのですか?

加藤さん:20ヵ所ほどです。現在は飲食店よりもオフィスビルや、駅に複数ヵ所、渋谷区とも連携したので、区役所や区の施設などにも設置してあります。

mySDG編集部:行政との連携はとてもいいですね。現在、スマホアプリで決済するシステムですが、これがマイナンバーカードでもいいなと感じました。傘は日本国民であれば全員無料で借りられる制度になるといいですね。
加藤さん:現在、行政との連携はいくつか進んでおりまして、都内は港区・豊島区、地方では佐賀県・神戸市などと連携を取っています。
レジ袋やプラスティックスプーンなどが規制され、削減に動いていく中で、ビニール傘に関してもいずれ削減の方向にいくと考えています。そのため、今後は環境対策を行う国を動かせたらと思っています。

「傘のシェアサービス」という利便性と安全性、システム管理の仕組みを作った。2030年までにスピードアップをはかり実現させたい「傘の使い捨てゼロ」

アイカサ 利用方法

mySDG編集部:返却率はいかがですか?

加藤さん:今までは、まちの駅などで無料で使える傘があったのですが、返却率が低いということがあったんですね。「シェアリングエコノミー」がこれだけ普及した理由の一つに、スマートフォンの普及があります。アイカサの傘は、1本ごとにICチップが付いていて、傘立てにもリーダーがついているので、誰がどこでどの傘を借りたのかアプリ上で全て管理されています。さらに各個人の決済情報が紐づいているので、基本的には返却しないと課金が続きます。情報がデータとして管理されているので、ユーザーにはきちんとご返却いただいております。

まれに盗まれてしまった場合や、忘れてしまった時のため「アイカサ」は全国の警察署と連携し、傘が見つかった場合には弊社に返還されるシステムを2年前から構築しています。

ビニール傘や一般の傘は、落とし物・忘れ物のトップ5以内にいつも入るアイテムです。東京都では落とし物・忘れ物の傘が年間30万本以上もあるそうです。しかし傘を取りにくる人は0.8%ほどらしく、ほとんどが廃棄になります。その傘がアイカサのものならば、所有者は弊社なので戻ってくるという仕組みですね。

mySDG編集部:システムをスマホアプリにした理由が明確ですね。さらに少額の70円でも、利用料が発生するのも納得です。
「アイカサ」が広まることで、自然とビニール傘を選ぶ人が少なくなっていくといいですね。現在アプリを使っているユーザーは何人くらいになりますか?

加藤さん:2022年7月現在で30万人を超えています。

2030年 使い捨て傘ゼロプロジェクト ~みんなで減らそう、傘のごみ~

mySDG編集部:今後の目標や展望を教えて下さい。

加藤さん2030年使い捨て傘ゼロプロジェクトを発足しました。大手企業さんと連携して「アイカサ」の普及にスピードアップをはかったプロジェクトです。2030年のSDGs達成期限まであと10年を切っている今、間に合わないのではないかという危機感があります。近年の気候変動もあり、切迫した状況だと思います。

国の環境対策に影響を与えることは今はまだハードルが高いと思いますが、弊社の想いに共感して下さる企業様は多くいらっしゃいます。皆さまもよくご存じの大手企業様と連携することで「傘のシェアリングサービス」を知って頂けるスピードが早まると思います。
現時点での目標は「2030年には使い捨て傘ゼロ」にする。雨が降ったら、「アイカサ」の傘のシェアリングサービスを利用するのが当たり前の社会を作りたいと思っています。そのためには、皆さまの利用する駅にはどこにでも当たり前に「アイカサ」がある状態を目指し、さらに駅周辺にも気軽に傘の貸し借りができるスポットが増えている状態を作りたいと思います。

mySDG編集部:私も「アイカサ」で、雨の日をハッピーに過ごしたいと思います!本日はとても貴重なお話をありがとうございました!


アイカサ設置希望・傘コラボ希望はこちら

アイカサアプリの登録はこちら


この取り組みが参考になりましたら、ぜひいいね・シェア拡散で応援をお願いいたします🙌
mySDGへの取材依頼・お問い合わせは mysdg.media@bajji.life までお気軽にご連絡ください。

この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?