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【取材記事】“資源循環がデジタル化”した社会をつくる。「みせる」「まわす」「つなぐ」の輪で先進的な循環型社会の実現に挑む株式会社digglueの挑戦

「テクノロジーで持続可能な世界を実装する」をパーパスに、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向けたサービス開発、コンサルティング、システム開発を行う株式会社digglue(以下、digglue )。2022年6月30日には、事業活動に伴う排出内容(有価買取情報含む) やCO2量の算定結果が閲覧できる新サービス「MateRe(以下、マテリ)」をリリースし、資源循環ビジネスの分野においても注目を集めています。

今回は代表取締役CEOをつとめる原英之さんに、創業の経緯やリリースしたばかりのマテリのサービス内容についてお話を伺いました。

お話を伺った方

株式会社digglue 代表取締役CEO 英之(はら・ひでゆき)様
カリフォルニア州立大学卒。商社の営業、ERPシステムエンジニアの経験を経て、digglueを創業。エンタープライズ向けブロックチェーンの開発や新規事業などを行う。現在は環境課題の解決に向け、デジタルインフラの社会実装及び、産業のイメージ刷新に取り組む。

■「守るべき地球環境」と「変わりゆく企業のあり方」を見据えた先にあった「サーキュラーエコノミー × DX」への挑戦

mySDG編集部:まずは創業の経緯を教えてください。

原さん:前職のエンジニア時代から起業することはすでに決めていました。ただ、起業のテーマを何にするか考えたとき、これまでAIやIoT、バイオといったテクノロジー系を一通り経験した中で、ブロックチェーンが自分の中で一番ヒットしたんです。そこから起業準備のために、セミナーやコミュニティに参加していた中で、現在digglue の代表取締役COOをつとめる中谷(なかたに)と社外取締役の高村(たかむら)と出会い、ブロックチェーンの企業を作ろうというところで起業したというのがはじまりです。

mySDG編集部:2018年6月に創業されて、4期目の2021年にパーパスを「テクノロジーで持続可能な世界を実装する」に定義されていますが、どういった背景があったのでしょうか?

原さん:これまでは建設業・製造業などに対して、ブロックチェーンやAI、IoTを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を行ってきました。その中で、太陽光パネルのリユース・リサイクルプラットフォーム構築といった案件に携わることもあり、自ずと環境に対する意識が高まりました。これまで行っていた「ものづくり×DX」に関しても、非常に広いスキームなので、どの領域に絞るかということもちょうど考えていた時期でもありました。それならば「サーキュラーエコノミー」の文脈で弊社のアセット(資産)を活かすと同時に、今後社会的に必要とされる領域にフォーカスしようということで、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティをはじめ、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現へ向けた事業に舵を切ったということが背景にあります。

これまでのビジョン・ミッションは、ブロックチェーン寄りになっていたこともあり、パーパスという上位概念をつけて、ブランドイメージの刷新を行いました。ロゴも新しいデザインに変更し、さらにブロックチェーン単独の案件をお断りするということで、事業領域の選択軸として行ったというところでしょうか。

mySDG編集部:なるほど、そういった背景があったのですね。

原さん:そうですね。ただ、地球環境への意識が高まった最初のパーソナルなきっかけは、Netflix配信の『チェイシング・コーラル -消えゆくサンゴ礁-』(2017年)というドキュメンタリー番組を見たことですね。当時、妻が妊娠中で、最後の旅行に行こうということで、沖縄の石垣島に行ったんです。「サンゴや海が綺麗だね」と言って帰ってきた矢先に番組を観たので、あの素晴らしい景色を子どもに見せてあげられないのはすごく悲しいなと思いましたね。そこからサーキュラーエコノミーの市場について調べ始めてみたら、参入障壁が色々とあって、参入すべき領域なのに注力しきれていないという社会課題が見えてきました。

今後の会社のあり方を考えてみても、いわゆるトリプルボトムライン(企業活動における環境的側面・社会的側面・経済的側面の3軸で評価すること)というところに会社の判断軸は変わってきます。さらに2050年の超長期で会社を見ていくと、売上や業績だけでは会社は評価されなくなるという潮流があります。今後の社会に求められるところ——「サーキュラーエコノミー」の分野にコミットしていくことで、会社としてもうまくいくんじゃないかという仮説をもとに現在は動いているところです。

■「廃棄ゼロ社会」を目指す第一歩。排出物・CO2排出量の可視化・レポート機能を提供する新サービス「MateRe」とは?

mySDG編集部:今回、マテリアルリサイクルを加速させる新サービス「マテリ」のベータ版をリリースされたそうですね。まずはサービス内容について教えてください。

原さん:マテリは、サーキュラーエコノミーの観点から「製造〜販売〜回収〜調達」の一連の流れと「産業廃棄物」をDX化することを目的としています。その中でも「資源循環がデジタル化した社会」というものを弊社としては目指しています。具体的なサービス内容としては、事業活動に伴う排出データを登録するだけで、排出重量やCO2排出量、廃棄物の有価買取金額、廃棄物処理費用といったデータをレポート機能として提供します。

mySDG編集部:開発の背景はどのようなものだったのでしょうか?

原さん:これまで製造メーカーのコンサルティングに入った中で、いわゆる何千億という売上があるような大手の自動車部品メーカーさんでさえ、工場から排出されるCO2排出量が可視化されていないということが明確にわかったんです。どこのプロセスでどれくらいの量の廃棄が出ているかという点も全く見えていない状況でした。

弊社は色んなリサイクラーさん(再資源化事業者)たちと繋がっているんですが、実は特定のリサイクラーさんにつながっていけば、「捨てなくてもリサイクルできるもの」がすごくいっぱいありました。その中で「製造〜販売〜回収〜調達」といった領域をくるくる回す取り組みを今後考えたとき、その一つ一つのプロセスがまったく可視化されておらず、DXとして成り立たないとつくづく感じました。そのため、企業が「どういったところで、何を、どれだけの量」を排出しているかをまず可視化しましょうというところで、今回マテリをリリースしたというのが背景です。

現時点のビジョン図(今後、変更の可能性あり)

mySDG編集部:マテリの大きな特徴はどういったところにあるのでしょうか?

原さん:プロダクトの特徴の一つとして、IoTのセンサーとQRコードがついている点です。IoTデバイスを導入すれば、工場側が登録情報を入力しなくても、リアルタイムで排出重量やCO2排出量、廃棄物の有価買取金額、廃棄物処理費用がひと目でわかるようになります。IoTデバイスの導入コストを抑えたい場合でも、QRコードで自動入力が可能です。

ただ、各企業における見える化を実現する一方で、今度はリサイクラーさんの課題として、リサイクル品が回収しきれないとか、欲しい量が提供されない、集めきれないという問題が挙げられます。であれば、工場側でゴミ箱に「何が、どれくらい」入っているかという履歴がわかれば、そのゴミ箱ごと確保できるよねというのが、このプロダクトの大きな特徴です。

mySDG編集部:リサイクラーさんがゴミ箱ごと確保できることで、具体的にどういったメリットが出てくるのでしょうか?

原さん:これまでは工場側が「引き取ってもらえませんか?」というところで、交渉から始まるケースが一般的でした。今後はそうではなく、例えば自動車部品工場から排出される高級車のバンパーに使用するプラスチックは、ペットボトルで使用するプラスチックと比べると素材の質がまったく異なりますよね。素材の由来がわかっていて、かつ高品質なものを、交渉する以前に「何が、どこで、どれくらい」排出されているのかがマテリでは見える化できるので、排出された時点で確保できるんです。

そうすると、回収のタイムラインが短くなり、今まで捨てられていたものが、資源として回収されます。そういう形に繋げられるのが、マテリの一つの狙いというところでしょうか。

mySDG編集部:リサイクル品の品質にも影響してきますよね?

原さん:そうですね。例えば、リサイクラーさんに、「何の部品の、どういった素材からこの再生材が作られているか」といった情報が伝われば、今度はメーカーさんがすごく調達しやすくなるわけです。リサイクル素材の品質は課題の一つと言われているように、せっかく資源を回収しても、色んな物を混ぜこぜにしたグレードの低い素材だと、ペットボトルとして形成し直すことができなかったり、あとは工場のフロアに敷くパレットシートと呼ばれるものや買い物かごといったものにしかリサイクルされません。

そうではなく、先ほど申し上げたような高級車のバンパーに使用するプラスチックのようなものが確保できていれば、話も断然変わってくるわけです。今までは色んな物を混ぜ込んで整理されてなかったものを、まずは情報を可視化して、その中でトレーサビリティがとれていることによって品質が担保され、メーカーがもう一度、調達にかかれる——。すると品質の高いプロダクトが世の中にどんどん出てきて、購買に繋げられることで、社会全体に再生材を使ったものが広く出回り、資源循環というものが加速していくのではないかと考えています。

mySDG編集部:ありがとうございます。今回はベータ版のリリースということですが、事業者さんの反応はいかがでしたか? どういった事業者さんから問い合わせがあったのかもぜひ教えてください。

原さん:反応は良かったと思います。基本的には、4桁億円以上あるような大手企業さんからお問い合わせをよくいただいています。今回ベータ版とさせていただいているのは、特定の企業さんにしっかり使っていただいた上で、プロジェクトの方向性が間違いないか、プロダクトマーケットがフィットしているか、といった部分の確認だったり、あとは要望をしっかり聞いた上で、機能を作り込んでいくという意味合いが非常に強いです。その中で、お付き合いいただけるようなパートナーさんと現状お話をしながら進めているところです。

■コンセプトは「みせる・つなぐ・まわす」。“モノと情報“をつなげ、資源循環の輪を加速させる

株式会社digglueホームページより画像引用

mySDG編集部:最後に今後の展望についてぜひ教えてください。

原さん:やはり「資源循環がデジタル化した社会」を作りますというところですね。コンセプトとしては「みせる・つなぐ・まわす」という非常にわかりやすい日本語で表現しています。情報の横断という点でいうと、さまざまなプレイヤーを巻き込まないと非常に難しいところがあるのですが、全体のプラットフォームをいきなりバーンと作るのではなくて、一つ一つ確実に循環の線をつなぎ、大きな円にしていくという戦略を立てているところです。

あとは、各企業がそれぞれの取り組みをしっかりIRとして出していくことは、企業価値に繋がると思うんです。そういった意味で、自社製品の再資源化率を見える化したり、それらをちゃんと繋げられるようトレーサビリティをとったりして、企業におけるサーキュラーエコノミーの実現に取り組んでいくことも直近のビジョンの一つでもあります。

mySDG編集部:なるほど。まず企業が取り組むことで、全体のインパクトはかなり変わりますよね。

原さん:そうですね。あと、もうワンサイドやりたいこととして、これまでお話していた「製造・回収・調達」という循環とは反対側にある「販売・消費」の部分ですね。消費者が商品を購入する際に、何がエコで、何がエコじゃないのかがわからないというのはよくあることだと思います。そこをエコポイントみたいなもので定量化して、「あなたの貢献がこういったものになりましたよ」というのを可視化してあげられると消費者の中でも意識が変わっていくきっかけになるんじゃないかなと思います。なので、今は消費者向けのアプリケーション展開といったものも、頭の中で考えているというところです。

mySDG編集部:事業者向けのサービスに加え、今後は消費者サイドに向けたサービスの開発といった面も強化されていきたいということですね。

原さん:企業は消費者が思っている以上に、サステナブルな観点で開発にもかなり力を入れて、企業努力をされていらっしゃいます。 ただPRがうまくいっていないというのは、すごくあるなと感じています。とはいえ、消費者に買ってもらわないと作る側も「売れないものは作れない」となってしまうので、事業者側と消費者側の両軸で変えなきゃいけないなというところをずっと考えています。この両軸をちゃんと実現すると、いわゆるサーキュラーエコノミーの「モノと情報」が繋がって、資源循環がデジタル化した社会に近づくんじゃないかという思いで、そこを一つ一つやっていくというのが今後の展望でもあります。

mySDG編集部:なるほど。サーキュラーエコノミーと言っても、一般消費者としてなかなか聞きなれない言葉であるのですが、今回のお話で非常に勉強になりました。今後のご活躍を期待しております。原さん、本日はありがとうございました!


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