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【取材記事】アウトドアから広がる自然との共生 “サステナブル”を自然体で実践できる社会を目指して

2010年前半あたりから始まった「第二次キャンプブーム」に続き、コロナ禍を機にキャンプ需要が高まりを見せている昨今。アウトドアを通じたSDGs活動の輪が広がりつつあります。BELAY(ビレイ)Inc.もまた、アウトドアを起点とし た事業を通じて、豊かな自然と共生するライフスタイルを提案。普段の暮らしがサステナブルな活動につながる仕組みを提供しています。今回はBELAY Inc.の青木隆さんに、企業としてサステナブル活動を始めた背景やクラウドファンディング211%を達成した山梨県道志村でのわさび田再生プロジェクトについてお話しを伺いました。

【お話を伺った方】

BELAY Inc. 青木隆(あおき・たかし)さん
岐阜県出身。大学卒業後、スポーツ・アウトドアウェアメーカーに20数年勤務、宣伝部に所属。その後、山とスキーの専門店でプレスとして3年勤務し、2016年にスポーツ・アウトドアウェアメーカー時代の同僚とBELAY Inc.を起業、現在至る。日本の自然の美しい景観や豊かな資源などを持続可能な仕組みで残し続けたいという思いで、自社の活動『BELAYER act』を通し、“普段の生活がサスティナブルにつながる”ライフスタイルの実現を目指しています。


■スポーツウェアブランドで出会った同僚3人で立ち上げたBELAY Inc.

mySDG編集部:まずは事業内容から教えてください。

青木さん:弊社はアウトドア用品専門のモール型ECサイト『mountain-products.com (マウンテンプロダクツ ドットコム)』の運営をはじめ、アウトドアメーカーさんのプロモーション・マーケティング活動のお手伝いや自社ブランド『BELAY』を立ち上げ、商品のみならず、サステナブルな活動を発信しています。

ECモールで付与される“BELAYER POINT”の金額が、サスティナブル活動に充てられる仕組み

mySDG編集部:もともとスポーツウェアブランドで出会った同僚3人で立ち上げられたそうですね。どういった想いがあったのでしょうか?

青木さん:長年アウトドア・スポーツに携わるなかで、自然がもつ圧倒的な美しさや力強さを体感すると同時に、その豊かな恵みを享受してきました。われわれの経験を通して作り上げられるモノ・コトは、もしかしたらこの世の中や未来に役立つのかもしれないと、そんな想いから2016年にBELAY Inc.を立ち上げました。

「BELAY(ビレイ)」という会社名は、クライミング用語で安全確保(人をロープで確保する)という意味にちなんで名付けたものです。ビレイヤーとは山を登って行く人の下で命綱をもって彼らの安全を確保する人のことを指します。アウトドアを通じて、人々が自然と共生しながら安心安全に暮らせる世の中になる一助になれたらという想いを込めています。

mySDG編集部:2021年には自社の事業コンテンツをリンクさせたアウトドア志向のサスティナブルプラットフォーム『BELAYER act(ビレイヤーアクト) 』を立ち上げ、自然派電力サービス『BELAYでんき powered by Looop』による再生可能エネルギーの普及活動や「 一般社団法人 養老の森」の森林整備活動など、さまざまなサステナブル活動を実践されています。アウトドアを通じたサステナブル活動を始めたのはどのようなきっかけからでしょうか?

株式会社Looop が運営する「 Looop でんき」とアライアンス契約を締結
養老孟司(東京大学名誉教授)が顧問をつとめる「養老の森」で森林整備活動を実施している

青木さん:本来アウトドア用品がもつ耐久性や軽量コンパクトの性能は、普段の生活においても非常に役に立ち、持続可能につながるんじゃないかと考えたことがきっかけです。アウトドアと持続可能な暮らしをうまく結びつけるような事業を立ち上げようということで『BELAYER act』を始める運びとなりました。

2023年4月からは「公益財団法人 知床財団」を支援し、知床財団xBELAYのオリジナルグッズ の販売を開始

mySDG編集部:アウトドアを通じたサステナブル活動というのは、スポーツウェアブランドで働いていた会社員時代とは異なる、あらたな挑戦になると思います。そのあたり心境の変化などがあったのでしょうか?

青木さん:そうですね。これまでは仕事一辺倒で生きてきたなかで、違う生き方や違う働き方をしたいという気持ちがあって、起業に至った背景があります。自然災害などを経験し価値観が変化しました。持続可能な暮らしが仕事に結びつくような、そんな生き方が問われているのだと思いました。

■クラファン達成率211%で成立した山梨県道志村のわさび田再生プロジェクト

mySDG編集部:2022年には、山梨県道志村で50年間使われていなかったわさび田を再生するプロジェクトを開始されています。取り組みの背景を教えてください。

青木さん:当初のきっかけは、都内を拠点にアウトドア活動やワーケーションができる東京近郊の場所を探していたことからです。色々な経過で山梨県 道志村の前村長をつとめた大田昌博様との出会いがきっかけでした。われわれの会社の考えをご理解いただき、取り組みにも賛同いただけたのが事業の転機でもありました。理事でもある大田様を通して「養老の森」を案内していただいた時に、たまたまわさび田の跡地を見つけて目を奪われたんですね。鬱蒼とした森の中に段々畑のようなものがあって、ものすごく神秘的な風景でした。

かつてはわさびの研究開発に使われるほど道志村のわさびはおいしいと評判だったそう

mySDG編集部:それがわさび田との出会いだったんですね。

青木さん:そうなんです。「これ、なんですか?」って聞いたら、わさび田であることを教えてくださって。道志村はすごく水がきれいで昔はわさび作りが盛んだったそうです。ただ、小さな村なので人口流出や高齢化で作り手が減少したり、収穫まで1年半から2年ほどかかるため収益とのバランスと取りづらかったりして、衰退したと言われています。僕らとしてはわさび田を作りたいというよりも、このわさび田を守っていきたいという強い思いに突き動かされた感じですね。僕らの事業にもいずれつながっていくんじゃないかと思いました。

2021年の春から動き出し、BELAY Inc.メンバー3名を中心に多くの方々の協力を得ながらプロジェクトを開始しました。しかし費用面をすべて賄うことが難しく、2022年4月から約1️カ月かけてクラウドファンディングを実施したという経緯があります。

▼「わさび田再生」プロジェクトの様子

泥出し作業の様子(2022年1月)。沢の下にあるキャンプ場の池に泥水が流れ込まないようキャンプ 場閉鎖期間中に急ピッチで進められた
2021年春より始めた活動もいよいよ田植え作業突入。2022年5月21-〜22日で実施


天敵・青虫に葉を食べられるアクシデントに見舞われながらも、すくすく成長中(2022年8月)
活動開始から2年、田植えから1年、定期的なケアの甲斐もあり、背丈も膝上くらいまで元気 に育ったわさび(2023年5月)

mySDG編集部:クラウドファンディングでは211%の達成率でプロジェクトが成功されたそうですね。多くの方に支援いただけた要因はどんなところにあったとお考えですか?

アウトドアブランドとのコラボから生まれたサスティナブルなリターン品

青木さん:わさびが育っている風景というのは幻想的ですから、その風景を通してわさび田に興味をもってくださる方は多くいらっしゃいました。しかし一方では、僕らの活動から生まれたリターン品がフックになった印象もあります。

例えば道志村の間伐材から作ったわさびおろしだったり、アウトドアメーカーさんのいわゆるB級品をリメイクした商品だったり。アウトドアに関連するサステナブルなアイテムをリターン品として提案することでアウトドアファンの方々が興味を持ってくださったようです。なので、わさび田ということのみならず僕らの活動の中核をなすアウトドアを通じたものを提案できたことが広く評価された部分でもあるかなと思います。

■サステナブル活動の象徴となるブランドを目指していきたい

mySDG編集部:活動を通して社会にどのようなメッセージを届けたいとお考えですか?

青木さん:そこはすごくシンプルで、普段の暮らしがおのずとサステナブルな行動につながるシステムを作りたいなと考えています。変に意識したり構えたりせず、日常の行動が持続可能な世界につながっていく世の中になってほしいですし、自分たちもそういうことを念頭に活動していきたいですね。

mySDG編集部:特に都会で暮らしていると、自然との関わりが少なく、自然を意識した暮らしがしづらいため、つい便利さを優先する生活が当たり前になってしまいます。都会に暮らす子どもたちにとっても、自然を通した豊かな体験や学びを得づらいことが問題だと思うのですが……。

青木さん:その問題は道志村の活動の中でも一番のポイントになっているんです。例えば田舎に帰省するにしても年に1回程度しかできない方も多いでしょうし、日本全国に自然あふれる素晴らしい場所はたくさんあっても、なかなか頻繁に出かけられませんよね。そうしたときに東京から1時間半くらいで行ける道志村なんていうのは、非常に身近に足を運べる自然豊かな場所として、境なく行き交いできるんです。それを養老先生は都市と地方の「参勤交代」として推奨しています。

頻繁に通える田舎ができると、都会で生まれ育った子どもたちも自然の暮らしに慣れていきます。そういった地方と都市の2つの関係をつながる場所というのは非常に大切だと感じています。

mySDG編集部:都会ではできない体験ができる場所が身近にあると、成長段階の子どもたちには大いに刺激になりますね。

青木さん:そうですね。田舎に行くと、都会とは違うレベルで生物の存在を体験できるんです。植物が生き物だということも理解できますし、見たことのない昆虫を見つけられたり、自然や生物がリアルな形で感じられたりします。そういった体験を通して、自分も自然の一部だということを、自身の体を通して感じられるのはすごく良いことだと思います。

mySDG編集部:最後に今後の展望や目標について教えてください。

青木さん:今僕らが行っている道志村での活動や知床財団への支援などの取り組みを全国に広げていくことですね。僕らだけでは実現できないので、企業と連携しながら展開を考えています。実際に面白いプロジェクトが色々と進んでいるところです。

あとは、僕らの夢として、『BELAY』のロゴを見ただけで、サステナブルなモノやコトを連想できるようなアイコンになることですね。活動の枠を定めず、形にとらわれず、一つひとつの活動を積み重ねていくことで、『BELAY』がサステナブルの象徴として、皆さんに広がっていくことを目指していきたいです。


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