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【取材記事】「信州鹿革エシカルプロジェクト」で輸送時のCO2削減にも貢献。革のプロも納得の高品質レザー「信州鹿革」に期待が高まる。

グルーバーレザーは長野県でバッグ・財布・革小物を制作するハンドメイド皮工房です。工房では長野市出身の職人が、素材にこだわり、使いやすさを追求した商品を作っています。今回は「信州鹿革エシカルプロジェクト」について、プロジェクトに取り組むきっかけや、SDGsへの想い、今後の展望などについて、代表の徳永様にお話を伺いました。

お話を伺った方

徳永 直考(とくなが なおたか)様
Groover Leather代表 職人・デザイナー
1977年生まれ 長野市出身1996年より建設会社に勤務。原山氏と出会う。2000年より家具大工として0.1㎜の世界で技術者としての経験を積む。同時にレザークラフトを始め、​2005年より某アパレルメーカーのレザー工房に勤務。独自の縫製方法で、こだわりの製品の数々を生み出し、​工房をまとめ上げる。2017年、ハンドメイドレザースタジオ Groover Leatherを作る。​



革のプロから見る「信州鹿革エシカルプロジェクト」重要なのは「良い商品」をつくり、「コスト」も「CO2排出」も削減できる仕組み。


mySDG編集部:現在「グルーバーレザー」というお名前で長野で工房を構えていらっしゃいますが、その前は何をされていらしたのですか?

徳永さん:以前は、長野県千曲市にある、アメカジのアパレルブランドに勤務していました。革部門の製造工場で工場長として勤めており、デザインからすべての工程を担当していました

mySDG編集部:徳永さんは長い間、革に関わってきたんですね。革にお詳しい徳永さんが、長野での地産地消プロジェクト「信州鹿革エシカルプロジェクト」に取り組もうと思ったきっかけをお聞かせください。

徳永さん:昨年10月にビジネスフェアに参加した際に、長野市の地域おこし協力隊の方から「ジビエの鹿革を作ったので使ってくれないか」と声をかけていただことがきっかけです。「鹿革」を作ったものの、長野市では思った以上に革が多く仕上がり、製品にしてくれるところを探していたようでした。私は、以前から「鹿革」を使っていたこともあり、制作に関しては慣れている素材でした。

私たちの扱う「牛革」や「豚革」はSDGsの観点でも食用肉の副産物なので、エシカル素材なんです。特に「豚革」は日本から輸出しているくらい、大量に生産されています。
日本のアパレル業界が取り扱っている「鹿革」のほとんどがニュージーランド、ブラジルなどからの輸入ですが、今回は地元で作ったということで「牛革」や「豚革」のようにエシカルな素材として「鹿革」を使えると感じました。

mySDG編集部:「鹿革」は輸入で、牛や豚の「革」は食用肉の副産物だったんですね。

徳永さん:食肉がまずあって、食べるために革を剥ぐので、食用の牛や豚を皆が食べなくなると「牛革」や「豚革」もなくなる。そもそも副産物の革はエシカルだと認識していますし、私たちは以前から「鹿革」も含め、それぞれの革の特性をよく理解して製品作りをしています。

「信州鹿革」を使用した「sinca(シンカ)製品」の流通経路

徳永さん:「信州鹿革」を使うことで一番重要なのは、信州鹿革の良さを最大限に引き上げて「良い製品」を作ることです。使う方は良い製品ならば愛着がわいて長く使っていただける。それが大事なことだと思っています。
例えば、SDGsの観点で革製品を作り、ストーリーだけに焦点を当てても、製品として良いものでなければ消費者の気持ちは「支援」の観点に近づいてしまいます。やはり商品への愛着が薄れてしまうんです。

mySDG編集部:そうですね。ストーリーの魅力だけでなく、「良い製品」であることが何より大切ですよね。

徳永さん:「信州鹿革」は長野市で駆除をした鹿を、飯田市のメルセンという会社で鞣(なめ)しているんですが、その革を初めて見た時、ニュージーランドでひいている革と引けをとらない状態の良さだと感じました。もちろん鹿は野生で生息している動物なので、傷は多少ありました。しかし、プロジェクトに参加するにあたり、まず革のクオリティが高いものでないと私たち製品を作る側としては納得できなかったと思いますが、「信州鹿革」はとても良い革でしたね。

「信州鹿革」

徳永さん:以前からグルーバーレザーでは、OEMで製品を作る際、SDGs的にも副産物としての認識があるジビエを使っていました。静岡でとれた「鹿革」を創業当時から使っていることもあり、今回の「信州鹿革」のお話で、駆除された鹿の再利用という文脈だけでは、そこまで響いてはいませんでした。
しかし「信州鹿革エシカルプロジェクト」は鹿の駆除地域を長野県内にし、革を鞣すところも長野県内、その時点で輸送コスト、輸送時に排出するCO2削減になっています。そこにグルーバーレザーが加われば、製品作りも長野県内になるので、輸送のコストもCO2排出量も大幅に減らせます。
良い素材で良い製品を作れて「コスト」も「CO2排出」も削減できる、とても良い循環としての継続していくべきプロジェクトだと感じたので、携わろうと思いました。


クラウドファンディングを使った理由と「ジビエの鹿革」の課題

「sinca(シンカ) ウォレット」カラーバリエーション

mySDG編集部:プロジェクトのスタートをクラウドファンディングでされましたが、なぜクラウドファンディングを選ばれたのですか?

徳永さん:今までの事業はOEMの形態でしたので、表に出ることはほとんどなかったもので、グルーバーレザーが「信州鹿革」を使い始めたとSNSで投稿しても、響くのは1,000人くらいです。
クラウドファンディングだと、ストーリーから全部説明できます。そのストーリーに共感してくれた人が購入できるというところがいいと思ったんです。まずは、商品を通してエシカルなサイクルの活動を広めていき、最終的には現状の課題について解決できるようになればいいと思っています。

mySDG編集部:課題とは?

徳永さん:例えば、猟師の高齢化やジビエを駆除した後の行程のシステム化などが挙げられます。ジビエを駆除した後に、出来るだけ早く処理しないといけません。食用としても革としても鮮度が大切です。しかし、今はまだ駆除してから、革や肉になるまでの行程がシステム化されていません。

mySDG編集部:全国で年間60万頭も駆除されているんですね。想像を超えていました。

徳永さん:そうですね。農作物や、信州なので、りんご畑が荒らされるなど、駆除の数が多いです。現状はそのほとんどが捨てられてしまっています。豚であれば年間60万頭など食用としてあっという間ですよね。豚の場合は、食用肉の施設できちんと処理され、肉と革にきれいに分けられますので、ほぼ全て活用されるようになっていますが、ジビエにはその施設やシステムが確立されていません。ジビエが食肉として活用されているのは21%程です。

mySDG編集部:そうですね。ジビエは野生ということもあり、スムーズな流れを作ることが難しそうですね。


今できることは「継続する」こと。私たちが成功し、真似をして欲しい。目標はハイクオリティな「信州鹿革」のブランド化。

徳永さん:「信州鹿革」を使い、製品を作ってグルーバーレザーが利益がでることをアピールして、それを見た他の県の方が「うちでも出来るのではないか?」と思ってくれたらいいと思うんです。長野県と同じように地産地消のサイクルを真似してくれると、捨てられてしまうジビエの活用に繋がります。誰かが目立ったことをして、利益を出すなどをして活躍していかないと現状は変わらないと思います。

今、グルーバーレザーができることは、「継続する」ことだと思っていて、きちんと「信州鹿革」を使い、売り続け、利益を出し続けることがこのプロジェクトが持続可能になるプロジェクトになると思います。そのために新たに動いている製品作りのプロジェクトも現在進行しています。

mySDG編集部:「信州鹿革」はとてもクオリティの高い革ということでしたが、価格的にはどれくらいなのでしょうか。

徳永さん:今は円安なので、海外から仕入れた方が高くなってしまうかもしれないですね。
前職の時にはジビエはとても高く、とても製品には出来ない価格でした。今は大分安定してきました。グルーバーレザーで扱っているバッグなどに使用している「牛革」より若干高価というところですね。

「sinca(シンカ) ウォレット & ポーチ」

mySDG編集部:高級なレザーなんですね。グルーバーレザー、もしくは「信州鹿革」について、今後の目標や展望を教えて下さい。

徳永さん:明日、「信州鹿革」のワークショップをカフェで開催します。10時からワークショップが始まり、12時からは「ジビエカレー」をお出しする予定です。ジビエ三昧で「肉」も「革」も(笑)。

「信州鹿革エシカルプロジェクト」の図の矢印は右回りになっているのですが、今度は左回りの「食事」ということを発生させたい意図があります。
他にも色々と考えているのですが、お伝え出来る部分ですと「手袋」ですね。あとはブランドさんと一緒にジャケットなど、代表的な製品を作り「信州鹿革」のブランド力をつけていきたいですね。

mySDG編集部:ブランドのイメージがつくと価値がまた出ますからね。

徳永さん:そうですね。ブランドを持っている人の何割かにSDGsに興味のある人がいれば、「信州鹿革」のストーリーに共感してくれて、ごみの分別にも気を配ってくれるとか、小さなことから影響が出たらいいとも思います。「信州鹿革」を持っていることで、身の回りのSDGsにも気にかけることが出来るアイテムになればいいなと思っています。

mySDG編集部:素晴らしいですね。「信州鹿革」ブランドの成長が楽しみです。
本日は貴重なお話をありがとうございました。


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