夜をみつめて 【小説 #10】
※最後まで読んでいただけます。実質700字ほどです。
カップや、グラスのふちに、赤いあとがつく。
それを見るたびに思う。仕事のつき合いとはいえ、またしても、何とも空々しい話をしたものだと。
もちろん、そんな思いを少しも表に出してはいけない。それが、お互いのマナーであり、生きる方法だと知っている。
果たして、女で営業が勤まるのか。そんな不安もあった。
しかしまあ、今では取り越し苦労だったように思っている。
この生活にも、慣れつつある。
男勝りだとか何とか、そんなふうに囁かれている感触がある。
別に構わない。いつも平静を装っている。
いわゆる男社会で生きていくことの大変さを、彼らは知らない。
感情が出る同性だと、まず上役あたりの態度が変わってくる。
すると、皆が同じように接してくる。
内面が透けて見えない性格でよかったのかもしれない。
けれども、淋しさが少しもないとは言い切れない。
いつものように、街路を歩いて帰宅した。
今勤めている会社の、誰も、想像すらつかないだろう。私には、ちょっと風変わりな楽しみがある。
化粧を落としきった一人の部屋。そこでのひとときだ。
少女時代からのことだけれど、文芸なんかを書いていたりする。
冬には、その机の上には、熱いコーヒーカップがある。
夏には、ビールを注いだタンブラーだったりする。
まあ、何ひとつ、まともなものは書けたこともないのだけれど。
それでも、何かを見つめることが出来る。
きっと、本当の自分の中にあるものを。そう思う。
私は、意外と几帳面だ。
就寝前でも、きっちりと洗いものを済ませる。
口紅のあとではないものがある。
いつも、それを見つめる。
綺麗に、洗剤を使って水で流す。
それが、一日の最後の仕事と思っている。
またやってくる、明日のために。
-終-
今回も読んでくださったことに感謝いたします。
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あとがき(反省は実生活でこそ必要と気づくなど・・・ )
最初、題名を「夜のくちづけ」としていましたが、やめました。
これは何だかスルっと書けたように思います。
別にシリーズ化をするつもりではありませんが、また働く女性についての何かを書ける気がしたんです。
するとネタフリからオチまでセットで来たような感じでした。
いつもこうだと楽なんですけどね。
で、いつもコレを書くんですが、内容に念を押させて下さい。
私は、全ての働く女性が必ず虐げられているというような考えを強調したいわけではありません。
その下りに注目しすぎることは誤解と思います。
それを望みません。
これで10作のUPをし終えたことになり、安堵しています。
だって「小説 #01 」から始めて「09」までで終了というのもね。
そこはまあ、何としても制作ナンバー数は二桁までもって行かないと格好がつかないじゃないですか。
しかしこれで自己ノルマから解放されました。自分としては一区切りがついたように思います。
今後は、行けるところまで歩みを進めたいと思っています。
淡々とオリジナル作のUPを重ねていくアカウントであれと思う次第です。幸運な共感を持っていただけたら嬉しいです。
noteとともに頑張ってみます。
note大丈夫かな?
だって、何か不安な空気というか、悲観的観測?とか多いし・・・。
10作記念感謝 巻末特別付録
コスモス【詩篇】(上の小説とは関係ありません)
あなたの思い出をつくるために
生まれたのではないと
花は 静かに語ったこと
ぼくらはきっと 青い兄弟だね
この胸には
同じ大地があり 見えない言葉がある
季節が繰り返すときに
何度も舞い戻る
風よ
遠い空で また
思いを 見つめあうだろうか
あの人は
いったい どうしているだろうと
小説の目次はこちらです
https://note.mu/myoan/n/ncd375627c168
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