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成し遂げるのは「好き」の延長。『ひつじのショーン展』広島県立美術館

イギリスのクレイアニメ制作スタジオ、アードマン・アニメーションズ。設立40周年の記念として、広島県立美術館で『ひつじのショーン展』が開催されています。

セット、パペット、スケッチ、ストーリーボードなど、ほとんどが日本初公開の約250点を楽しむことができるこの展覧会、『ウォレスとグルミット』『チキンラン』『こひつじのティミー』など、アカデミー賞受賞のアードマンキャラクターの魅力がいっぱい詰まっていました。

なんだか指先にクレイ(粘土)を付けたまま帰ってしまったような気がする私も、世界一愛されているひつじたちの魅力に、すっかりやられてしまったみたいです。

■撮影は「1日、6秒間」!

1コマごとに物体を動かして撮影し、それらをつなげて動きを出すストップモーションの世界は、気が遠くなりそうなくらい地道な作業が求められます。アードマンスタジオでは、1秒間のために撮る写真は25コマ。言い換えると、1日に撮影できるのはわずか6秒間分なのだそうです!なんと忍耐が求められる仕事でしょうか… 

クレイアニメの前では、決してまばたきなんかしてはいけないという気持ちになっちゃいます。

■やっぱり「舞台裏」を見たい

クレイアニメの特徴はやっぱり、なんといってもパペットたちそのものであるクレイにあるわけですが、館内で公開されている「ひつじの作り方」の映像はとても面白いので必見です。(私は、笑いをこらえるのに必死でした。)なるほど、ちぎって、こねて、丸めるんですね。ショーンをつくるのは誰でもできるということが分かりました。もっとも私たちが真似をしてつくれるのは「動かないショーン」、ということです。ショーンに命を吹き込むのは、やっぱりアードマンのアニメーターでないとできないのだと思います。

ところで、セットやパペットたちは、どのぐらいの大きさだと思いますか?

ぜひ実際のセットを見ていただきたいのですが、私の印象は、全体的には思いのほか小さいな、というものでした。『チキンラン』の鳥小屋なんて、パペットたちよりも小さいのだからちょっと混乱しました。ただ最新のものになるにつれて規模が拡大し、より緻密で豪華になっているのは明らかで、スタジオや制作陣の試行錯誤の歩みを、親しみを持って感じられたのはとても良かったです。

クレイをセットの前で動かすだけでも相当な努力ですが、それだけで作品はつくれません。ストーリー作り、絵コンテ、セットや小道具の制作、撮影… 今では今では150人のスタッフがアニメーション制作に関わり、20ものスタジオで幾つものストーリーを同時撮影しているとのこと。舞台裏の様子をとらえた映像を見る限り、スタジオは和気あいあいとした雰囲気に包まれていました。きっとみんな、クレイアニメが大好きなんだろうなと思います。

■たった二人きりからのスタート

現在、世界170カ国で親しまれている『ひつじのショーン』。アードマン・アニメーションズの始まりは、わずか12歳の二人の少年、ピーター・ロードとデイヴィッド・スプロクストンがつくったアニメーションでした。絵や新聞、雑誌の切り抜きを1コマ1コマカメラで撮影しながら、学生生活を通して作品をBBCに送り続けたというのだから驚きです。

初期のキャラクターやストーリー・アイデアのスケッチをよく見ると、メールをプリントアウトした紙の裏であったり、インクのしみが付いていたり。ちょっとした時に浮かんだアイデアを、頭の中から消えないうちに書き残そうとしている筆跡を、ひしひしと感じるのです。この人たちの人生は、ほとんどが大好きなクレイアニメでできていて、その圧倒的な「好き」という熱量が、それを受け継ぐクリエーターたちを(とてつもない作業を愛する人々を)呼び寄せたに違いありません。

成し遂げるのは「好き」の延長線上。そう思うと、胸が熱くなるのを感じました。

■さいごに

過去に大火事でセットとパペットたちがほとんど燃えてしまうという事件があった、と年表にありました。照明が落とされた倉庫では、ショーンもただの黒いクレイと綿毛のかたまりです。今の時代に、実際にモノを動かして撮影するというやり方がどこまで残っていくのだろうと考えると、少しさみしい気持ちになります。

今いちど館内映像の作品に目を凝らして見ます。表情豊かなキャラクターたちは、いかにも指で押されたり、ひねられたりしているのが分かります。いくぶんレトロにカクカクと、それでも画面からはみ出さんばかりに、一生懸命パワフルに走って、泣いて、叫んで、笑っています。

実は、わずか6秒間の撮影に1日をかけると知った時、ズルはないのだろうか、何か大人の魔法があるんじゃないだろうか、などという疑いがちらりとかすめました。

しかし、舞台裏にはズルも魔法もない、ただひたすらな「好き」があるだけでした。



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さて、展示会場を出ると、グッズ販売です。アードマン・アニメーションズ・スタジオの刻印の入った「動かないショーン」が展示販売されていました。さて、そのお値段は?

↓↓↓

¥648,000

だそうです!

…と、いうことで、自分用のおみやげは、ワッペンにしました。こっそりハンカチに付けようかな。

またまた熱くなっちゃいました。長くなりましたが、読んで下さってありがとうございます。お近くにお越しの際はぜひ、足を運んでみてください。キャラクターのかわいらしさに悶絶!

■基本情報 ひつじのショーン展 広島県立美術館



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