東野圭吾著 眠りの森 を読んでみた
“読んでみた”と言いつつ、二度目です。
今回は、少し前に読んだ、かの有名な東野圭吾氏の加賀恭一郎シリーズ第二弾「眠りの森」を紹介します。
・なぜ読んだのか
実は、直前に「卒業」も読み返した。
加賀恭一郎シリーズって推理小説だからやっぱり推理小説を読みたいときに読む人が多いのかな。
ただ、加賀恭一郎シリーズの私的好きポイントは加賀の人間性。
いつもは前作の記憶が薄れてしまうが、今回は繋がりも意識して読みたいなと思い、直後に読むことにした。
・簡単すぎるあらすじ
名門バレエ団で殺人事件が起こる。被疑者のバレリーナは正当防衛を主張。
被疑者の親友ダンサーが気丈に稽古に励む姿に加賀は惹かれていく。
一方事件は次々に起こる。
さて、真相は・・・
・惹かれポイント
なぜ、舞台はバレエ界だったのか。
私はバレエの世界とは無縁だったから、この作品を読むまで知らなかったことがたくさんあった。どちらかというと、私と同じような人のほうが読者には多いんじゃないかな。
知らないからこそ、引き込まれるのか。そのために、あえて特殊な世界を題材にしたのか。
東野氏はバレエ界と接点があったからこの物語を書こうと思ったの?この物語のために必要だったからバレエ界にしたの?どちらにせよ、ちょっとの知識で書ける内容じゃないから、異常な学びをしているんだろう。
きっと、作家の方にとっては当たり前で、すごいと思うこと自体ずれているのかもしれない。
でもやっぱり、「すごいなあ」。
刑事ドラマでは、次々にヒントが出てきてすぐに解決する。という本文中の言葉
たしかに。この言葉を書けるのがいいよなあ。
読者にすぐに解決できるようなドラマではなく、ヒントなのかヒントじゃないのかわからないような会話を聞かせて、結末がわかりそうでわからない。東野氏はそんなドラマを見させてくれるから。うん、この本はそうじゃないよね。ってすんなり入ってくる。
私、きっと散りばめられているであろうヒントに気づけないことが多いんだ。どの作品でも本当にきれいに最後にびっくりする。読者の中には「やっぱそうよね。」となる人がいるのかな?いたらどこで気づいたのか教えてほしい。・・・自分が読み終わった後に。
物語の時代がだいぶ前
本作は1992年4月15日発行。当たり前だが、時代がちがう。“ポケベル”出てくるやん。私はポケベル世代じゃないけど、だからわからないって部分がない。今とは捜査方法が違うんだろうなとか、それは起こらないだろうとかはあるけど、そんなのもちろん気にならない。30年経っても、今の自分が当事者になれそうな気持になる。というかなってるんじゃないかくらい没入体験をしている。
・感想
芸術って、やっぱり難しい。芸術家の思考は一般人の想像の枠を超えているのかなあ。だからこそ、芸術を目の当たりにしたときに不思議な感情を引っ張り出されるんだろうな・・・
音楽を聴いて勝手に涙が出たり。
絵を見てぞぞってしたり。
造形物に食い入ったり。
なんか、うわっすごーーって思わず声が出ちゃったり。
お笑いでも、感動・涙・学び・刺激があふれるので私はお笑いも芸術だと捉えています。
本気で伝えようとしていることに向き合うことってエネルギーがいる。
受け取る側でそうなのに、与える側は・・・(想像できん)
どうしてそんなことできるの?って思ったけど、
本作の刑事たちも同じだったみたい。
ただ、バレエ団の回答は「ダンサーとはそういうもの」と。
うん、言葉では語れないよね。きっと言葉で語れることだったらもっとみんなに周知されてて、理解されてるんだよね。
でもみんな理解されちゃったら・・・違うんだよな~と。
理解できないことに惹かれていくのかな~。うーん、言葉にできないね。
そんな異次元世界で起きる事件。
・芸術にかける人たち
・想像しがたい思考回路
・狭い世界のはずなのに結びつかない関係性
・固定概念
・なにより強い信念
もちろんそこに対しても、話を聞く場所・人・タイミングなど、加賀の駆け引きが合わさっている。きっとこれも引き込まれる理由のひとつ。
そして加賀の物語と思いつつ、時々一人称が入れ替わっていくから気を抜けない。誰目線かによって、意味合いって全然違ってくるものだと改めて感じる。
ただ事件を解決していくだけでなく、その時々の登場人物の心情も現れていて。
事件関係者の心情も書かれているんだからヒントになりそうなのに。心情だから嘘ではないのに。そこから結末の予想は全くできない。(というか当たらない)。
でも、加賀にはその心情は読み解けないから。その心情が解決の糸口になるなんてありえないのか。難しい。
当たり前のようで、改めて観察すると、考えられてることを実感する。
作り手って、本当に尊敬する存在だ。
今回も、心温まった。なんだか、はっとさせられるというか。
加賀の人間力なのか。ちょっと苦手になりそうだけど、肝心なところで嫌味がない感じ。とても魅力的だ。
今回は「卒業」を読んだ直後だったので、加賀の人間性も頭に残った状態でなお楽しかった。
今後の加賀たち、見てみたいなあ。
あと、「卒業」と「眠りの森」の間の過去の話も。
でも、これも知らないほうが惹かれるのかな。
・おすすめポイント
東野圭吾作品に興味がある人はもちろん、
・今いるコミュニティ、つらいかも。
・華やかな世界あこがれる。
・正しく生きる人間の葛藤に接触したい。
と思っている人にいいのかもしれない。
私はこの本を読んで、
所属する世界ごとで価値観はさまざま。
外と内では見え方が違う。
正解不正解すら、共通の物差しでは測れないし、自分の中にも状況によって一定の基準ではない。
ということを感じ、考えさせられた。
そしていうまでもなく、純粋に推理小説としてめちゃくちゃおもしろい。
一度読んだ人も改めて読んだら発見があるんじゃないかと・・・。
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