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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~掲載50回特別編第2話「出会い酒もまた楽し」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。今回は掲載50回特別編第2話「出会い酒もまた楽し」である。


はじめに

一人酒は、基本的には一人静かに酒と肴を味わうものだと自負している。だからといって、店の中で他人を遮断し、自分の世界に入り込んで飲むような無粋なマネはしたくない。

時には店のご主人や女将さんと語らい、興が乗れば居合わせたご常連さんともよもやま話に花を咲かせたい。それもまた、知らない酒場での一人酒の醍醐味と言えるのだ。

そんな「出会い酒」のなかから、いくつか振り返ってみよう。

神戸市「マティーニ」(1997年10月)

ひと頃はショットバーで飲み歩きをシメるのが我がパターンだった。全国各地のバーで、いろいろな出会いをしてきた。なかでも飛びきりの思い出が神戸だったな・・・

瀬戸内の新鮮な海の幸を堪能した。グルメの方は十分満足だが、せっかくの神戸なので、ちょっと洒落たバーにでも寄りたい気分になった。旅行情報誌に載っていた店「マティーニ」にでも行ってみるか。

店内は渋く落ち着いた雰囲気で、30歳後半の自分もこういう店が似合うようになったと自画自賛。マスターに白ワインのグラスとフライドポテトを注文し、しばしカウンターでくつろぐ。

私の隣に常連と思われる同世代の女性が座った。彼女はマスターを見ながら「お店の2周年記念でシャンペンを開けるわ」と笑う。袖すり合うも他生の縁とばかりに、横から「僕にも祝わせてください」と便乗させてもらった。

酔っているとはいえ図々しいぞ。

女性が「よく、この店が分かりましたね」と尋ねたので、旅行情報誌に載っていたからだと話すと、「あの記事、私が書いたのよ」と驚きの発言。なんと、情報誌の企画・編集に携わった人だったのだ。その時はびっくりしたが、よく考えれば常連だしなあ。

それをきっかけに、酔いも手伝ってか話は大いに弾んだ。とくに「讃岐うどん」談義では、マスターも加わって大いに盛り上がった。ひとり旅のなかでも、これほど楽しいひと時は珍しいというほど、思い出に残るバーの夜となった。
※バー「マティーニ」営業中

青森県むつ市「ニュクス」(1999年8月)

飲み屋街には欠かせないスナックだが、バーと違って立ち寄ることは滅多にない。だが、青森県むつ市での一人酒は、いつもとは違った気分だったのだろう・・・

折しも、列島を直撃している台風が東北地方にも迫っていた。直接的な影響は少なそうだが、それでもまちを出歩く人は少ない。でもせっかくの旅先、海鮮グルメは堪能したが、シメにもう一軒だけ寄ろう。

ひとり旅には渋いバーがお似合いだが、それらしき店は見当たらない。台風で休業している店も多いので仕方なかろう。ならば、スナックにでも行くか。一人酒もいいが、たまには女性とおしゃべりするのもいい。

スナック「ニュクス」に入ると、店内で暇をつぶしていた女性たちが一斉に「いらっしゃいませ」と声を挙げた。台風のせいか、店内にお客は誰もいない。まるで貸し切り状態のなかで、女の子が2人、テーブルに付いた。

一人は地元下北の女性で、もう一人はフィリピン出身の女性。私が長野県から来たということで、夏真っ盛りなのに下北女性と真冬談義。曰く「むつ市はそれほど雪が降らない」とのこと。でも寒さは厳しく、フィリピン女性は「それが苦になる」と笑った。

女性たちはビールを頼み、喜んで飲んでいた。これも私の勘定になるのだが、スナックでそういうヤボを言うものではない。世間話をしながら時を過ごしたが、その間にもお客は誰一人来ない。こんな日はめったにないとのことだ。

人恋しさに誘われて、つい入ってしまったスナック。お値段は少々お高かったが、楽しかったからまあいいや。お金よりもむしろ、明日の交通の便の方が心配だな。
※ニュクスの営業情報は確認できません

熊本市「立ち飲みなんじょう」(2013年11月)

飲み歩きも3軒、4軒と重なってくると、だんだんベロベロに酔ってくる。それと同時に口の方も達者になるというか、軽くなってくるものだ・・・

熊本市内で、郷土料理を肴に焼酎をしこたま飲んだ。「くまモン」が居るバーにも立ち寄った。そろそろシメといきたいところで、思いっきり地元密着型の立ち飲み店に飛び込んでみよう。

店の名は「なんじょう」。一見すると角打ちっぽいが、それなりに居酒屋料理は用意しているようだ。生ビールと冷ややっこを注文し、カウンター一角に陣取る。

近くには地元住民と思われる男性3人が雑談をしている。それもエロ話交じりのくだらない話である。が、そういうのが面白い。しばらくは聞き耳を立てていたが、ひょんなことから男性の一人が声をかけてきた。

相当酔っ払っていたので、何を話したのかは覚えていないし、旅行者だということを明かしたか、明かさなかったかも定かではない。ただ確実に言えるのは、しっかりとエロ話の輪に溶け込んでしまったということだけ。

店のホームページには「誰もがワイワイと仲間になってしまうような雰囲気」をうたっていた。まさに偽りなし。一見も常連もへったくれもなく、エロ話はいつまでも途切れることなく続いていったのだった。
※立ち飲みなんじょうは閉店した模様です

あとがき

このほかにも酒場での出会い、いろいろあったなあ。なかでも大阪の酒場は、見知らぬお客同士がすぐ意気投合してしまう雰囲気を醸し、何度も楽しく飲ませてもらったものだ。

そんな大阪の酒場で遭遇した男・・・彼は私同様の「酔いどれオヤジ」だった・・・酔いどれ男のさま酔い飲み歩記の第51回は、その出会いについて書かせてもらおうかな。

※来週の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」は都合によりお休みいたします


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