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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第78回「上州路で前泊酒・・・ビックリ酒場も」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第78回「上州路で前泊酒・・・ビックリ酒場も」である。


はじめに

ひと頃、毎場所のように大相撲観戦をしていた時期があった。旅程は前泊付きの1泊2日で、2日目が大相撲観戦、1日目はミニ観光に充てた。1日目の夜は東京泊まりだったので、ミニ観光はだいたい関東近郊に絞られた。

そんなこともあり、前泊の場所として群馬県の高崎や前橋をチョイスしたことがあった。到着が夜遅かったので飲み歩くまではできなかったが、ホテル近くの酒場で軽く飲んだりしている。なかにはビックリするような酒場もあったんだ。

高崎駅近くと新前橋駅近くの前泊飲みを書いていこう。

高崎「上州酒場赤亀」~上州路の美味いものがズラリ

まずは2013年9月の秋場所観戦で、前泊した高崎のチョイ飲み歩きから。この時のミニ観光は安中市。大河ドラマ「八重の桜」の主人公・新島八重の夫で、同志社大学の創始者・新島襄のふるさとを散策しようというプランだ。

到着が遅いので、ホテルの真ん前に手ごろな酒場があったのはありがたい。「上州酒場」というデカい屋号のロゴが目立ちまくる。これは「店に入れ!」と呼びこんでいるようなものじゃないか。

店内は個室づくりになっており、カウンター席まで個室っぽくなっている。落ち着いて飲めそうだが、逆に酒場の雰囲気はちょっと味わえない。まあいいや。まずは生ビールをいただこう。ちなみにハイボール系は150円とお値打ちだ。

上州酒場とうたうだけに地産地消がウリらしい。

そこで肴であるが、地鶏焼き鳥、下仁田刺身こんにゃく、嬬恋やみつきキャベツをいただく。地鶏がどこの鶏かは分からなかったが、こんにゃくとキャベツは特産品。ヘルシーなので余計に嬉しい。ついついハイボールを頼んでしまう。

ハイボールのグラスがやや小さめだったのは値段からして仕方ない。その分、おかわりしてもらおうという魂胆らしい。追加で谷川清流冷や奴という、これまたヘルシーな肴を所望し、個室で腰を据えてじっくりと飲ませてもらったよ。

高崎「さわ」~松茸土瓶蒸しにつられて

時間的にはもう一軒くらい寄れそうだ。あまり足を延ばせないので、駅前にある割烹「さわ」に入る。前泊の割りには割烹とは贅沢じゃないか。それには理由がある。

入り口の品書きに「松茸土瓶蒸し」の文字を見つけたからだ。

秋の旬の味覚の王様と言えばマツタケを置いて他にはない。どんなに高価でも絶対に外せない味覚なのだ。それを見つけてしまったからには、この店に入るしかなかろう。そんなわけでカウンターの一角に陣取った。

松茸土瓶蒸しは当然として、合わせる酒は地酒の谷川岳冷酒。それからシジミの醤油漬けもいただこう。お楽しみの土瓶蒸し・・・ふわりと香るマツタケ。値段からしても間違いなく国産に違いない。秋はやっぱり、これだよ、これ。心ゆくまで堪能したい。

いい酒場と肴に出会えて良かった高崎の夜でした(笑)

新前橋「十力勝」~思わずオイオイと口に出た、ビックリ酒場

続いては2015年9月の秋場所観戦での前泊の話である。

今回も、大河ドラマ「花燃ゆ」の重要登場人物・楫取(かとり)素彦にちなんで前橋ミニ観光をしようというプラン。宿を取ったのは新前橋駅前のホテル。前橋駅の一つ手前にあり、繁華街がある前橋や高崎に挟まれ、駅前はそれほど賑やかではない。

そんな新前橋駅のすぐ近くに、ディープさたっぷりの酒場があった。路地裏に入り込んだところにある酒場・・・屋号は「十力勝」と書いて「とりしょう」と読ませる。それにしても、暖簾はボロボロじゃないか。

大阪のディープ酒場で飲み慣れている私も、さすがに入ろうかどうか迷った。が、百戦錬磨の呑んべえがひるんではいけない。ガラガラと開き戸をあけると、中は意外と普通の居酒屋っぽい・・・が、ディープさはしっかり漂わせているぞ。

実はこの店、知る人ぞ知るという酒場である。なんと「付き出しに刺身を切ってくれる」そうだ。そのあたりは事前調査済み。ならば、日本酒を頼むしかなかろう。店主は人のよさそうなオヤジさん。早速日本酒を注文する・・・が、意外な返事が返ってきた。

「表の酒屋が今日は休みで、酒は終わっちゃったんですよ」。

オイオイ、酒を置いていない酒場ってあるのか?。これにはビックリし、唖然として二の句が告げられなかった。するとオヤジさん「近くのコンビニで買ってきますから」と一言。これまた前代未聞の経験である。

さすがにそんな手間かけさせても申し訳ないと思い、「ビールか焼酎でもいいですよ」と答えるも、オヤジさんは「今買いに行ってますから」と言うではないか。どうやら入り口にいたご常連が、気を利かせてさっさと買い出しに行ってしまったらしい。

こうなれば観念して待つよりしかたあるまい。

オヤジさんはちょっと申し訳なさそうに「これ食べて待っていてください」と、サービスでゆでジャガイモと塩辛、ゆで卵を出してくれた。酒が無いのになあ、と思いつつも、買い出しに行ったご常連の好意を無にはできない。

そんなわけで、ようやく出てきたのが黄桜のパック酒(苦笑)。オヤジさんは「本当なら吉乃川をお出しするんですが」と恐縮しつつ、ようやく付き出しの準備に取り掛かる。お目当ての付き出しはインドマグロとイワシの刺身。これはスゴイぞ。

一品料理も海鮮中心で、クジラの刺身なんかも置いてあるそうだ。何よりもオヤジさんの人柄がにじみ出ているような店の雰囲気がいい。コンビニで買ったパック酒を出されたのに、全然気分が悪くならない。なんか不思議な空間だよ。

外観の超ディープさを見れば、何も知らない一見さんは、まず入ることができない酒場。新前橋の「十力勝」か。おそるべし。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2013年9月、2015年9月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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