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【金融経済】相次ぐ米国の銀行経営破綻

3月に入って米国で銀行の経営破綻が相次ぎ、金融市場が混乱しています。
その経緯を日付ごとに追い、ポイントを説明します。

【3月8日】暗号資産サービスを主力とするシルバーゲート銀行が経営破綻

日本経済新聞より

シルバーゲート・キャピタルの傘下銀行であるシルバーゲート銀行は1988年に設立されましたが、2013年頃から暗号資産に舵を切り、暗号資産関連企業の預金を積極的に受け入れたほか、暗号資産の投資家向けにドル決済システムも提供していました。

このように暗号資産に特化したことにより、2014~2022年9月までに預金は約30倍にも膨らみました。
同行は早くから暗号資産に舵を切っていたため、その顧客にはBinance、Coinbase、Kraken、Bitfinex、Geminiなど多くの暗号資産取引所大手の企業が名を連ねていました。

このように暗号資産市場の成長と共に大きくなっていったシルバーゲート銀行は、2019年に株式を公開し、2022年9月末時点で預金として保有したデジタル資産は119億ドル(約1兆6065億円)に上りましたが、2022年11月に暗号資産取引所大手のFTXトレーディングが経営破綻して事態は一変します。

シルバーゲート銀行はFTXと取引があったことが知られており、FTX経営破綻後に我先にと顧客が預金を次々に引き出す、いわゆる「取り付け騒ぎ」が起きました。

これによって10~12月期に暗号資産関連の企業および投資家の預金は7割減となり、2022年末時点で預金残高はわずか38億ドル(5130億円)まで落ち込みました。

シルバーゲートはこの資金流出に対応するため、度重なる利上げによって価格が下落していた債権など有価証券の売却を急いだことで大きな損失が発生し、3月8日に事業を清算という形になりました。

【3月10日】スタートアップ企業向け融資を主力とするシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻

日本経済新聞より

SVBはその名の通り、シリコンバレーの米国カリフォルニア州サンタクララに拠点を置く銀行で、多くのテック企業を顧客に抱え、シリコンバレーで起業を目指す人々の多くが同行と取引をしていました。

同行の2022年12月末時点の総資産は約2090億ドル(約28.21兆円)、総預金額は1754億ドル(約23.6兆円)と米国で16番目に大きい銀行と位置付けられていました。

SVBが経営破綻に陥った理由として大きかったのは、まずメイン顧客が「スタートアップ」であったことが挙げられます。スタートアップは売上ゼロからスタートするので、最初は必要な経費を投資家などから集めます。

シリコンバレー周辺の機関投資家はほぼ全てSVBとやり取りがあるため、必然的にシリコンバレーのスタートアップもSVBに預金するなどしており、さらにSVBはスタートアップ向けの融資プログラムも充実していたため、テック系スタートアップはSVBが独占状態にありました。

実際にコロナ禍における金融緩和によって預金額が急増し、2019年末から2021年3月にかけてSVBのバランスシートは3倍になりました。
同行はこの預金の増加を支えるために、シルバーゲートと同様債権を購入しました。
しかし、この後2022年には米国が利上げを開始したことで債券価格は下落し、スタートアップも資金調達が難しくなるので銀行から預金を引き出します。

SVBは3月8日に発表した2023年第1四半期決済の中で、実質的にすべての証券を売却することや資金を募ることなどを発表しましたが、これにより投資家の間でSVBに対する不信感が広がり、シルバーゲート銀行同様に取り付け騒ぎが発生。3月10日に経営破綻しました。

【3月12日】暗号資産関連企業と取引が多いシグネチャー銀行が経営破綻

シグネチャー銀行は資産規模で全米29位に位置していました。
シルバーゲート銀行と同様に暗号資産関連企業との取引が多く、資産規模は2022年末時点で約1103億6000万ドル(約14.9兆円)、預金は約885億9000万ドル(約12兆円)でした。
同行は暗号資産関連企業との取引が多いという点から、シルバーゲート銀行の経営破綻から信用不安が高まり、取り付け騒ぎが発生。
3月12日に経営破綻しました。

【3月12日】
米財務省と米連邦準備制度理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)は、上記3行の破綻処理を巡り「全ての預金者を完全に保護する」との共同声明を発表しました。
米政府は相次ぐ金融機関の経営破綻で信用不安が拡大する前に、早期に預金者保護策を打ち出すことで破綻の連鎖を防ぐ必要があると判断したようです。実際、SVBが経営破綻した直後は過去のリーマンショックを思い出す人も多く、不安が広がっていた中ですぐに預金者保護のニュースがあったことで一旦落ち着きを取り戻した形となっています。

(補足)【3月19日】
スイスの金融機関2位であったクレディ・スイス・グループは経営不振で株価が急落し、取り付け騒ぎになっていましたが、19日にスイスの金融機関最大手UBSに30億スイスフラン(約4260億円)相当で買収されると発表しました。

一連の銀行の経営破綻がステーブルコインUSDCの価格にも影響

USDC/USDの1時間足(デペッグ時のチャート)

ステーブルコインについては過去のレポートでも何回か取り上げていますが、そのうち米Circle社が発行する米ドルに連動するコイン「USDC」の価格が大きく1ドルから下落するという事件が3月11日に発生しました。

前提として、法定通貨担保型のステーブルコインは発行額と同額の法定通貨や国債などを準備金として用意することで価格を担保しています。
USDCは価格を1ドルに安定させるために担保として米ドルを銀行に保有しているのですが、この預け先の銀行の中に今回経営破綻したシルバーゲート銀行、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が含まれており、特にシリコンバレー銀行には直近でUSDCの準備金約430億ドル(約5.8兆円)のうち、33億ドル(約4455億円)が預けられていたと報道されています。

シリコンバレー銀行破綻が3月10日なので、3月12日に預金者保護が発表されるまでの2日間はUSDC保有者の間で不安が広がりました。
預金者が保護されなかった場合はUSDCの準備金が棄損するわけです。

皆がUSDCからUSDTやBUSDなど他のステーブルコイン、あるいは価格が比較的安定しているBTCにとりあえず逃がすという人が殺到したことで“デジタル取り付け騒ぎ”となり価格が1ドルを大きく割り込み、一時は1USDC=0.8USDをつけました。

ただし、2022年5月に起きたステーブルコインUSTと大きく違うのは、USTの担保がLunaという自社で発行したトークンであったのに対し、USDCの担保はしっかりと法定通貨であるドルだったことです。
これにより、12日に預金者が保護されるという報道があってからは準備金がしっかりあるということが確認され、1USDC=1USDへと価格が戻っていきました。

とはいえ、今回は政府の救済があったからよかったものの、少し前まではステーブルコインの中では一番安全性が高いと言われていたUSDCがデペッグ(米ドルとの価格と大きく乖離)したのは事実です。
USDCやUSDTといったステーブルコインは、あくまでドルの価格と連動しているだけで法定通貨ではないので、準備金としての現金(米ドルなど)を預けている銀行の破綻などのリスクがあるというのが今回明らかになりました。

またそれ以外にもリスクはあり、例えばUSDCを発行しているのはCircle社ですが、このCircle社がSECから法的措置を受けるというようなことがあればこれもUSDCの価格は1ドルを維持できなくなる可能性があります。

ステーブルコインに関しては、一番流通量の多いUSDTはかなり昔から準備金の現金の割合が少ないことから担保が足りていないのではという噂がされていたり、DAIというステーブルコインはその担保資産の半数がUSDCであったり、BUSDに関してもSECから未登録証券にあたるとの主張から発行元のPaxosへ新規発行停止を命じるなどの動きがあるなど、それぞれにリスクが内在しています。

暗号資産を取引する上ではステーブルコインは必須と言っても過言ではない存在ですが、こうしたリスクがあるということを理解した上で取り扱う必要があります。

米銀行の破綻が相次ぎ、米国の利上げ停止の予想が浮上するなどマーケットに影響

シルバーゲート銀行、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行と破綻が相次ぎ、社会不安が高まったことで「有事の金」買いが進みました。

GOLD 1時間足チャート

また、昨年から大幅利上げが続いている米国ですが、
今回の件を受けて0.5%利上げ予想から一気に0.25%の利上げ予想や利上げ停止、さらには利下げ予想まで浮上してきました。これにより、利上げで価格が落ち込んでいた株や暗号資産の価格が上向いてきています。

BTC/USD 1時間足

おそらく3月のFOMCでは0.25%の利上げになると見られていますが、米国の政策金利がマーケットに与える影響は非常に大きいので今後も注目です。

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