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サム・アルトマンは何者なのか(下)

人類の夢への挑戦 核融合

Chat GPTを中心にAIの開発に邁進するアルトマンは、他にも壮大な目標を掲げています。
無限のエネルギーと寿命の延長という人類の夢です。


サム・アルトマンはリサイクル燃料を利用した超小型原子力高速炉や核融合による電力発電にも力を入れています。

それは自身が起こしたAI革命が実現するために膨大な電力が必要であり、その電力を補うために原子力発電が不可欠であるというところからきています。

アルトマンが投資している原子力関係の会社は大きいところで「Oklo」と「Helion Energy」の2社があります。

核燃料リサイクル

1社目は先端核分裂技術および核燃料リサイクル企業「Oklo」で、アルトマン自身が会長を務めています。

アルトマンはチャーチル・キャピタルと共同設立した特別目的買収会社(SPAC)である「AltC Acquisition Corp.(ALCC)」との合併を通じてOkloを「OKLO」のティッカーでニューヨーク証券取引所に上場させる計画を進めています。2023年末~2024年初頭に買収が完了し、時価総額は約8億5000万ドル(約1240億円)になると見積もられています。

Okloとは

Okloは持続可能でクリーンなエネルギーを提供し、エネルギー供給の問題を解決することを目標としています。同社が持つ技術として、リサイクル燃料の製造とその燃料を利用した超小型高速炉「オーロラ」があります。

一般的に原子力発電では核燃料としてウランを使用しますが、その過程で発電に使えなくなったウラン廃棄物が大量に生まれており、この使用済の核燃料は一時的な保管施設に貯蔵されています。ただし、被爆などの問題があるため最終的にいつどこに埋めるかは未だ議論がされているのが現状です。

この問題を解決するために現在ではリサイクル燃料の技術が進み、使用済燃料を再処理することでリサイクル燃料として再利用するだけでなく、高レベル放射性廃棄物の体積を小さくし、放射能の有害度が天然ウラン並になるまでの期間も大幅に短縮させる計画も進んでいます。

米国初の原子力発電所を有する研究所として1949年に設立されたアイダホ国立研究所(INL)はこの技術を使ってできたリサイクル燃料を利用できる最初の企業として2020年にOkloを選んでいます。

また、天然のウラン鉱石は、ほとんどが「ウラン238」というウラン同位体で構成され、実際に原子炉の稼働に必要な核分裂を起こすのはウラン235というウラン鉱石にほんの少量含まれている同位体だけであり、米国にあるほとんどの原子炉ではこれを5%未満に濃縮した燃料のみが使われています。

これに対してINLは5~20%まで濃縮した「HALEU燃料」を作ることができ、Okloはこの燃料が使える原子炉「オーロラ」を開発しています。

オーロラはこのHALEU燃料を使うことで施設の小型化に成功し、最大15MWe(メガワット)の電力を生産するよう設計されています。
これにより、従来の原子炉に比べて必要な用地を大幅に縮小することができるため、様々な土地に設置することが可能になり、少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給を続けることができます。

また、安全性についても既に運転実績があり、技術的に安全性を保証するために必要な部品を大幅に削減できるので価格コストも大幅に削減することにもつながっています。

(Okloが開発している小型原子炉「オーロラ」 Okloのプレゼン資料より)

核融合スタートアップ

アルトマンが推進する核融合スタートアップは「Helion Energy」です。
Helion Energyは、2013年に設立され、これまでに約5億8000万ドル(約850億円)を調達し、既にプロトタイプを6基製造しています。

核融合発電とは、2つの原子の原子核を融合させることでより重い原子核を作る反応を利用した発電のことで、核融合は太陽内部で起きている反応であることから「地上に人工の太陽を作ること」であると表現されます。

同社は2028年までに50MW以上の発電能力を持つ核融合発電所の稼働を計画しており、その発電所で発電した電力をマイクロソフトに供給する契約をしています。

もしこれが実現すれば、この契約は「世界初の核融合発電によるエネルギー購入契約」ということになりますが、専門家の見方によると実用化されるのは早くても2030年代半ば、保守的な評価では2050年以降とされているので、Helion社が2028年までにこれを実現するのは現状難しく、もう少し時間がかかるかもしれません。

(Helion Energyの核融合炉 同社ウェブページから)

長寿への夢

アルトマンは長寿に関心を持ち、長寿に貢献する可能性のある企業にも投資をしています。自身も食に関心を持ち、ベジタリアンまで行きませんが、減肉を心がけているようです。

そして難病や慢性疾患などの新しい治療法の開発や、遺伝子療法、再生医学、バイオテクノロジーなどの関連技術の開発にも強い関心を寄せています。

この投資で大規模なものは「レトロ・バイオサイエンス」への1億8000万ドルです。
アルトマンが采配を振るったY Combinatorは老化防止のソリューションを探していました。アルトマンは高齢のマウスと若いマウスを縫合し、血液を共有させる研究に関心を持ちます。

この実験で高齢マウスが部分的に若返ることが認められました。またカリフォルニア大学バークレー校の研究では、高齢マウスの血漿を塩水とアルブミンで置き換えることで、一部の若返りを発見しました。

これらの成果をもとに、アルトマンはY Combinatorの専門パートナーに事業の立ち上げを推奨し、アルトマンからの支援をもとにレトロ社が設立されたといいます。

レトロ社のミッションは、人間の健康寿命を10年延ばすことです。同社は加齢のメカニズムの研究を進め、老化を促進する細胞に注目しています。
なかでもヒトの免疫系の一部で、感染と戦い、がんの予防に重要な役割を果たすT細胞の若返りテストも行われており、世界の注目を集めています。

老化の抑制など目的とした「SENS Research Foundation」も彼の有力な投資先です。

SENSは「Strategies for Engineered Negligible Senescence」の略語で、「設計された微小老化戦略」とでもいえる意味です。

拠点をカリフォルニアに置き、医療専門家や科学者を集め、老化に関する疾患と長寿についての研究、治療開発を行っています。

寿命の延長はその成果を得るには長期のプロジェクトになります。優れた人材と資金、そして事業展開のマネジメントと、解決の求められる多くの難しい課題をアルトマンならこなしていけるのではないか。そんな期待が集まっています。

以上、サム・アルトマンが取り組むプロジェクトを紹介してきました。

私たちが知っているOpenAIの代表、AIの伝道師というのは彼の活動の一部に過ぎません。AI、ブロックチェーン、原子力、長寿研究と彼の活動が多岐に渡っていることがお分かりいただけたと思います。

サム・アルトマンは何を目指しているのか。
私たちは今後も彼に注目していきます。
                        (了)


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