ゆーいち@学び続ける作業療法士

臨床14年目,作業療法士。二児の父。主な所属団体;日本作業療法士協会・日本高次脳機能障…

ゆーいち@学び続ける作業療法士

臨床14年目,作業療法士。二児の父。主な所属団体;日本作業療法士協会・日本高次脳機能障害学会・日本神経心理学会・日本ボバース研究会。これまで急性期・回復期にて中枢神経疾患を中心に臨床経験を積んできました。臨床・教育といった視点で、自身の学びをアウトプットしてみたいと思います。

最近の記事

肩甲帯に介入する上で押さえておきたい3つの視点

中枢神経疾患の上肢治療に携わる中で、肩甲帯の不安定性が問題になる事は多い。肩甲帯に介入する上で重要な解剖・運動学的視点を、自身のこれまでの臨床経験も踏まえ、3つに絞って記載する。 1、胸部伸展は肩甲骨後傾・外旋の土台となる胸部伸展は肩甲骨後傾・外旋運動を通して、結果的に肩外旋可動域を増やし上肢作業空間を拡大させる(Yusuke Suzuki,2019)。この論文では、胸部伸展の重要性が明確に示されており大変参考になった。 ただし、この事を治療に落とし込むには知識をもう一歩

    • “手洗い”を治療的に捉える ~課題特性・問題点・介入アイディア~

      手洗いは日常において一番頻度の高い洗体行為である。食事や排泄などのADLに付随して行うだけでなく、最近では感染管理の観点からリハビリ介入前後に行っている病院・施設も多いと思われる。 手洗いは麻痺の重症度に関わらずに治療介入することのできる貴重な課題である。課題特性や構成要素を理解した上で治療介入することができれば、上肢機能や姿勢制御の改善だけでなく、身体知覚の改善にもつなげる事ができるはずである。廃用手であったとしても、手洗いを治療課題として用いる意義は、脳の廃用予防(機能局

      • 箸操作の介入視点 ~“正しい使い方と持ち方”を理解する~

        1,「正しい箸の使い方と持ち方」を理解する必要性箸操作へ介入する上で「正しい箸の使い方と持ち方」を理解しておくことは、自身の臨床推論を助けてくれる。ある決まった「使い方」や「持ち方」が正解という訳ではない。しかし、個別性がある事を重々承知した上でも、やはり軸となる視点(基準)をもっておく事は臨床の迷いを減らしてくれる。そのため、誤解を恐れず、あえて「正しい」という用語を用いることとした。 箸の「使い方」とは切る、ほぐす、くるむなどを指すが、それを分類・整理する事で、評価のモレ

        • “遂行機能障害”を理解する③ ~治療的訓練と支援~

          前頭葉機能障害を軽減するためのアプローチはまだ十分確立されておらず、認知リハビリテーションの分野においても最もエビデンスの少ない困難な領域と言われている。 今回は遂行機能障害に対する治療的訓練と支援について、三村(2004)を参考に目標の設定、計画の立案、計画の実行の3段階に分けた上で、いくつかの文献をもとにまとめてみたいと思う。 1, 目標の設定-外部からのコントロール発動性や動機づけといった、いわばリハビリテーションの出発点に問題があると、それ以上の介入が困難となる。行

        肩甲帯に介入する上で押さえておきたい3つの視点

          “遂行機能障害”を理解する② ~関連障害Action Disorganization Syndromeについて~

          日常的多段階行為の遂行機能障害を捉えるにあたって“Action Disorganization Syndrome”を理解することは有益であり、障害像を説明する際に役立つことが多い。いくつかの文献を引用しつつまとめてみる。 1, Action Disorganization Syndrome(ADS)とは?Action Disorganization Syndrome(以下ADS)はSchwartz ら(1991)によって提唱された、前頭葉損傷に起因する動作障害の1つであり、

          “遂行機能障害”を理解する② ~関連障害Action Disorganization Syndromeについて~

          “遂行機能障害”を理解する① ~定義・症状・神経基盤・評価~

          1, 遂行機能(executive function)とは?日常生活上の課題は目標指向的、あるいは問題指向的であるが、その目標や問題の設定は1つとは限らず、また目標達成のためのアプローチも複数存在することが多い。したがって、複数の目標(可能性)を考え、その中から適当なものを選択すること、それを効率的に達成していくことなどが求められる。また、1つの上位目標を達成するために、いくつかの下位目標を設定し、それら一連の下位目標を系統的に達成していくことも必要である。 遂行機能とはこ

          “遂行機能障害”を理解する① ~定義・症状・神経基盤・評価~

          立位での動的安定性~“垂直オリエンテーション”を理解する~

          中枢神経疾患に関わる中で、下肢や体幹に筋力(支持性)があるにも関わらず立位が不安定、あるいは一時的に伸展することはできてもその姿勢を保持し続けられない、伸展とともに傾倒する…といった方に出会うことが少なくありません。 今回は立位での動的安定性を獲得するためにはどういった思考で介入すべきか。“垂直オリエンテーション”を理解し、構成要素の“順序性”(=介入の優先順位)について考えてみたいと思います。 1, 動的安定性~ヒトのCOM(質量中心)が高くあるべき理由~まずはヒトの立位

          立位での動的安定性~“垂直オリエンテーション”を理解する~

          脳卒中片麻痺者の片手での下衣下げ動作~構成要素を考える~

          1,トイレ動作の中で最も難しいのは「下衣上げ」?トイレ動作を完全に自立するためには下衣の上げ下げや車椅子-便座間の移乗という動作以外に,トイレのドアの開閉や便座へのアプローチなどの周辺動作も自立する必要がある. 坂田ら(2015)によるとこれらの構成動作の中で最も難易度が高かったのは「下衣上げ」であり,続いて「ドア開閉」,「下衣下げ」,「方向転換」との事である。 「下衣上げ」が「下衣下げ」よりも難しいといったデータはこれまでの臨床経験・臨床感覚とも一致するものだ。介入する上で

          脳卒中片麻痺者の片手での下衣下げ動作~構成要素を考える~

          「感覚を捉える」ための皮質脊髄システム

          皮質脊髄システムの役割を理解することは、手足の巧緻運動等を理解する上で役立つ。 皮質脊髄システムと聞けば「随意運動→運動出力」といったことを連想する方も多いのではないか。もちろんそういった側面もあるが、スタート地点には運動関連領野のみならず感覚野・頭頂葉を含んでいる点も押さえておきたい。今回はその意味・背景について学び、手の巧緻運動への介入の手掛かりを考えてみたい。 1, 外側皮質脊髄路のスタート地点には感覚野も含まれる 外側皮質脊髄路は、30%が一次運動野(M1,4野)

          「感覚を捉える」ための皮質脊髄システム

          手指伸展に必要な“内在筋と外在筋の協調”

          脳卒中片麻痺者の上肢介入の際、手指伸展が難しく機能的なリーチ・グラスプに繋がりにくいケースは多い。その“手指伸展”を促通する上で配慮すべき要素は何か。 神経システム(皮質脊髄システム、感覚システムなど)、体幹・肩甲帯といった近位部のバイオメカニクスなどももちろん重要な要素ではあるが、今回は“手関節・手指のバイオメカニクス”の観点で考えてみる。 1、手指伸展の内在筋と外在筋の協調 図1は手指伸展時の内在筋と外在筋の相互関係の側面図である。 指伸筋が伸展機構に力を与え、MP関

          手指伸展に必要な“内在筋と外在筋の協調”

          運動制御と身体認知は表裏一体 ~コンパレータモデルを理解する~

          運動意図・予測の情報と実際の体性感覚フィードバックの情報との間に不一致が生じ、それが継続すると皮質脊髄路の発火が低下する。そしてその不一致の程度が大きくなればなるほど自己の運動主体感が低下する。 これはWeissら(2014)、Shimadaら(2009)による報告であるが、私自身も臨床でよく感じることの1つである。運動制御と身体認知は表裏一体の側面をもっている。 今回は運動制御と身体認知を統一的に捉えるために“コンパレータモデル”を理解したいと思う。コンパレータモデルは中

          運動制御と身体認知は表裏一体 ~コンパレータモデルを理解する~

          ❝コーチング❞を臨床実践&後輩指導に生かす

          コーチングを学ぶことの意義コーチングの概念を学ぶことは、臨床実践や後輩指導における支援の在り方・考え方を見直す上で大変意義のあることだと思う。私の場合、特にコーチングやティーチングの使い分けを意図的に行うようになったことで、支援する上での迷いが減ったし、目標共有が行ないやすくなったと感じる。 今回はコーチングについて、いくつかの文献・書籍を引用しつつ、臨床実践や後輩指導に落とし込むことを意図してまとめてみる。 1, コーチングの定義‟coach + ing” coachとは

          ❝コーチング❞を臨床実践&後輩指導に生かす

          セラピストに必要な知覚力を磨く方法②

          1,知覚を歪めるもの―バイアスリスク 膨大な量の情報を処理しなければならない状況下ではこれまでの知識や経験などに基づいて判断を下すのが効率的かつ合理的である。しかしその反面、自動的に呼び起こされる過去の解がベースとなるため、より望ましい別の解釈が生み出されにくくなる。 ここで押さえておきたいのがバイアスリスク(risk of bias)である。バイアスと一言でいっても様々なものがある。著書『知覚力を磨く―絵画を観察するように世界を見る技法』(神田房枝;ダイヤモンド社)を拝

          セラピストに必要な知覚力を磨く方法②

          セラピストに必要な知覚力を磨く方法①

          1,セラピストにとって大切な「知覚力」昨今、リハビリ業界ではエビデンスが重要視される風潮が強まり、「誰でも同じように結果が出せるリハビリ」が要求されるようにもなってきた。それはリハビリの価値を担保する上で大切な事ではあるが、一方で対象者の「個別性」を捉えた介入が置き去りになりつつあるとも感じる。 マニュアル化されたリハビリの流れはセラピストの迷いを減らしたが、その一方で思考は単調となりやすく、重要な手掛かり(Critical cues)を見落とす危険性も増えた。私はセラピスト

          セラピストに必要な知覚力を磨く方法①