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手指伸展に必要な“内在筋と外在筋の協調”

脳卒中片麻痺者の上肢介入の際、手指伸展が難しく機能的なリーチ・グラスプに繋がりにくいケースは多い。その“手指伸展”を促通する上で配慮すべき要素は何か。
神経システム(皮質脊髄システム、感覚システムなど)、体幹・肩甲帯といった近位部のバイオメカニクスなどももちろん重要な要素ではあるが、今回は“手関節・手指のバイオメカニクス”の観点で考えてみる。

1、手指伸展の内在筋と外在筋の協調

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図1は手指伸展時の内在筋と外在筋の相互関係の側面図である。
指伸筋が伸展機構に力を与え、MP関節を伸展方向へ引く。指の内在筋は、IP関節の伸展の仕組みに直接効果(direct effect)と間接効果(indirect effect)をもたらすとされている(図1-B)。
この2つの役割を理解することで内在筋の重要性をより理解することができる。
ここで言う直接効果とは「伸展機構を介して近位へ引くこと」であり、間接効果とは「MP関節における屈曲トルクの産生」を指している。
この「MP関節における屈曲トルク」は、MP関節の過伸展により、指伸筋の収縮力の多くが早々に消散されることを妨げる。MP関節の過伸展が抑止されてはじめて、指伸筋はIP関節を完全に伸展する伸展機構を介して、IP関節伸展を効果的に行うことが可能となる。指伸筋と内在筋は指完全伸展を行うために協調する必要がある。

2,尺骨神経損傷から内在筋の役割を理解する

上記に示した伸筋と内在筋の協調関係は尺骨神経損傷の患者を観察することで理解が深まる。

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内側(尺側)2本の内在筋による自動的抵抗が無ければ、指伸筋の活動は特徴的な鉤爪変形を生む(図2-左)。MP関節は過伸展し、IP関節は部分的に屈曲する。内在筋の活動が無いため“内在筋マイナス”肢位とも呼ばれる。指伸筋にFESを行う際にもよく観察される現象である。内在筋によるMP関節の屈曲トルクなしでは、指伸筋はMP関節の過伸展を行なえるだけなのである。
これに対し、徒手的にMP関節に対して屈曲トルクを与えると(正常では内在筋による力)、指伸筋の収縮によりIP関節は完全に伸展することが可能となる(図2-右)。

3,指伸展中の手根屈筋の機能

指の自動伸展、特にすばやい動作時には手根屈筋の活動を伴う。これらの筋は指伸筋による潜在的に大きな手根伸筋の能力を相殺する。指をすばやく完全に伸展させると、手根はわずかに屈曲する(図1) 。手関節屈曲は、自動的指伸展時の指伸筋を最適な長さに保持することを助けている。

4,臨床を振り返ってみると…

脳卒中片麻痺者の “手指伸展”の促通において、徒手的介入やFES(機能的電気刺激)といった手段を用いる際には、指伸筋だけでなく内在筋(虫様筋と骨間筋)や手根屈筋を含めて治療構成を考えることが大切である。

ボバースでのハンドリング時に内在筋に(MP関節部に山をつくるように)刺激を与えつつ手指伸展を促通していたのはこういった背景があると思われるし、FESを用いる際に手関節を安定させるなどの目的で装具療法を併用するのもこういった背景があるのだろうと思われる。

【引用書籍】
Donald A.Neumann:カラー版筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版.医歯薬出版,2012



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