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【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(30)

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〈30〉微睡な中で見た幸せな夢は、温もりだけを残しすぐに消えてゆく

「私だってしたかったわけじゃない」

「わかってるけど……ごめん。目の前でやられたら、流石に……」

私は自分の腕を強く握る。
美夜子は変わらず私の肩を抱いていた。
そこから伝わるもの、それはわかっているけど、私は、不安になっていた。

「陽菜ちゃん……」

「優衣はわからないでしょうけど、人から裏切られるって結構傷つくのよ。お父さんと宮原さんの時もそう。私は……そこまで強い人間じゃない」

フラッシュバックのように、父と宮原の姿が思い浮かぶ。
それが、美夜子と優衣に重なると、胸の内側の氷塊が少しずつ崩れて溶けていくような感覚になる。

「ごめん。教室に戻る」

美夜子は私を追うことは無く、ただそこに座っていた。
教室に戻ると、私の異変を察知した紗季が話しかけてくるが、何を言われたか、何を訊かれたか、全く記憶にない。
気づけば午後の授業が始まって、終わって。
私は全てから逃げるように教室を出ていた。
私が何も反応しないので、紗季も沙友理も美夜子と何やら話していたが、私は気にせず帰路に着いた。

「おーい、陽菜ちゃん!」

黒塗りのアルファードの運転席から、新巻さんが呼びかけていた。

「新巻さん?」

「よかった捕まえられて……家まで送るよ」

「どうして?」

「……藤崎から話聞いた。君がマーメイドにいた頃の話も知ってるし、辛いんじゃないかって。でも、そんな状態で歩いて帰るのは危険だ」

「別に、普通に帰れますよ」

「さっきだって、フラフラ歩いていたのに? その傷は?」

私は気づかない内に電柱などにぶつかっていたようで頬のあたりがヒリヒリ痛かったり、鼻血が出ていたりと怪我を負っていた。

「そうですね……」

車に乗り込むと、一旦学校の前を遠た時、美夜子達の姿が見えるも、向こうからは車内はスモークフィルムのおかげで見えておらず私は気付かれること無く、そのまま帰宅した。

「ちょっと、陽菜どうしたの?」

「ぼーっと歩いてたら電柱にぶつかっちゃって……あはは」

母は救急箱を取り出して消毒と、絆創膏を貼ってくれた。

「気をつけなさいよ。あなた、昔にもこういうこと、あったわね」

「あー、あの時は台本読みながら帰っていたらだね」

懐かしい気持ちがこみ上げてくる。
台本が面白くてずっと読んでいた作品がある。
それに夢中で、電柱にぶつかって今日みたいな怪我をして帰った。
その時も同じ様に、母は大慌てで手当をしてくれた。

「陽菜、何かあった?」

「え?」

「思いつめた顔をしてるから」

「えっと……」

話すべきかどうか、悩みはしたが、この抱えきれない感情を少しでも和らげるため、それを吐き出した。

「……お母さんが言うと説得力ないけど、なるようにしかならないからね」

「随分、消極的な……」

「美夜子ちゃんがしたこと、それの意図をちゃんと汲まないと。悪気があってやったことじゃないと」

「でも、私、美夜子を信じられなくなっちゃった。今だって誰かとキスとかしてるんじゃって考えたりしてる。で、そんな自分がもう面倒臭い」

「それでいいのよ。それこそ、本当の自分よ。きっと美夜子ちゃんが大好きだから、そう考えてしまうのよ。誰だってそんな気持ちになるわ。だて仕方ないもの。誰しも自分かそれ以外かだから」

「だから信頼度ってこと? それで言えば美夜子は暴落しちゃってるけど」

「もう一度、ちゃんと話をすればいい。失ったものは、壊れてしまったものは修復すればいいのよ」

私はスマホの、美夜子からのメッセージの通知を見た。
そこには『ちゃんと話がしたい』と、書かれていた。

「私、行ってくる」

そう言うと、私は家を飛び出した。
美夜子は今日病院に行っている。首のコルセットを外すためだ。
病院の前まで猛ダッシュで行き、私は建物を見上げた。

「陽菜……」

「美夜子……」

息を切らした私に、美夜子が近付く。

「美夜子、私……」

「別れましょう」

美夜子はなんて言った?
別れると言ったのか?
は?
意味がわからない。
どうしてそうなる。
どうして、どうして、どうして?
気付くと私は美夜子の頬を平手打ちしていた。

「……っ!」

「ふざけないでよ……冗談はやめて」

「……冗談じゃない、陽菜のことを思ってのことよ」

「は? 私のこと?」

「私、勘違いしてた。陽菜は私のこと好きなんだって。でも違った……私のことをまるでペットのように傍に置いてたまに可愛がりたい……そうお気に入りのぬいぐるみの様に思ってたんだって」

「違う。そんなわけないじゃん。だったら……」

私は言葉に詰まった。
確かに、そばにいて寂しさを埋めてもらえれば、それさえ叶えば私は誰もよかったのではないか?
その思考と同時に何かが崩れていく音が心の中でしていた。
何かつっかえていたものが捕れたような、喉に刺さった骨が抜けたような感じだ。

「……陽菜?」

「もうやめて……」

「え?」

「もういいから。もう……あなたに興味ない。さよなら、立山さん」

私は踵を返して歩き出した。
美夜子は追ってくることなく、その場に立ち尽くしていた。
帰宅した私に、母は声を掛けること無く、お通夜のような夕食の時間が過ぎた。
そして私はスマホを手に、ある電話をかけた。
翌日、私は学校に向かうこと無く、ミュジーク本社へ向かい、契約書の提出と、宣材写真の撮影を済ませて、いよいよ復帰に向けて動き出した。

「どうして急に復帰しようと?」

撮影に同行してくれていた大村会長が声を掛けてくれた。

「思ったんです。やっぱり私はこっちが良いって」

「……何がそう思わせたかわからんが、君が活動をするというならば、僕らは全力で支えるだけだ」

そう言って大村会長はその場を離れた。
その日の内に会議が始まり、私のこれからのことについて、どういう方向で活動するか。
これまで、渋っていたからか、学校のスケジュールは無視してくれと言うと、大人達は皆んな驚いていた。
早速、うちの学校であるドラマの撮影。エキストラではなく役を与えて出演させると決まった。

「明後日ですか? 怪我治るかな……」

「そう。いきなりで申し訳ないけど、怪我はメイクで上手く隠せばいけると思う」

「てか、私が出るプランあったんですね」

「演出が薗田さんだし、陽菜ちゃんのいる学校って知ってたからね。あわよくばって脚本に頼んでたらしいよ」

「薗田さんか……」

私は台本を読みながら帰宅した。
マンションの下で送りの車から降りると、エントランス前に紗季と沙友理がいた。

「ちょっと話あるんだけど」

「ごめん。私にはないから」

「ちょっと陽菜!」

沙友理が私の腕を掴む。

「私が話あるって言ってんのよ」

「……なに?」

「美夜子のこと、もうどうでもいいってどういうこと?」

「そのままの意味。私の為に、私がしたいことの障害になるから、排除しただけよ」

「陽菜ちゃん……」

私はそう言い放つと、マンションに入っていった。

「馬鹿……」

沙友理はそう言うと、紗季を連れて帰った。
エレベーターが上昇し始めた時、近くに美夜子がいた事に気付いたが、もうどうでもいいことだ。

「おかえりなさい……って、早速台本?」

「うん。今度うちの学校で撮影あるらしいけど、ゲスト出演だって。元々、私が通ってるの知ってたらしいのよね」

「へぇ……」

私は自室に戻って、ちょっとした役作りを始める。
優衣が演じるヒロインの恋敵役。
そんなタイムリーな役があるもんなんだなと思いながら、私は台本を読んでいた。
台詞量は多いわけではない。が、ゲスト出でるだけあって、喋っていなくても登場するシーンは多い。

「久しぶりだから緊張するな」

そう思っていたら、優衣からメッセージが届いた。

『明日の撮影、よかったら来ない?』

メッセージと地図データが送られてきていた。

「これ、近くか……」

少し山手の総合運動公園。そこで撮影があるらしい。
私が出演する回の冒頭部分らしく、優衣が演じるヒロインが、好きな人の学校へ潜入しようか企てる所らしい。
私は雰囲気が知りたいからと、お言葉に甘えることにした。
翌日も学校を休んで朝からその現場に行く。

「陽菜ちゃん、ちょっと……」

藤崎さんが私を引き止めた。

「優衣からなにか聞いていますか?」

「え? 何も……」

「この前のこと、気にしてるようで、自分のせいで仲違いしてなきゃいいけどってずっと言ってて……たぶん本人もそこを聞きたいんだと思います。で、不躾な問になりますが、どうなりましたか?」

「……別れました。で、私復帰しようって思って。ズルいですよね。結局、自分の中の穴を埋めるためにすぐ戻ってきちゃうなんて」

「……そうですか。それも立派な選択だと思いますよ」

藤崎さんはそう言うと「別れたことは優衣には秘密にしておいてください」と、言った。

「おはようございます!」

私の姿を見たスタッフ一同が拍手で迎えてくれた。

「久しぶり!なんか大人びた?」

「薗田さん、セクハラですよ。それ」

懐かし人も沢山いて、私は本当に帰ってきたんだと実感した。
撮影が始まると、その懐かしい光景と、非日常感が胸を刺す。
これでよかったんだ。そう自分に思い込ませながら。



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