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【毎日更新】初恋の相手が義妹になった件。第5話

 夕飯の時刻まで僕は宿題をしながら過ごしていた。
 しかし、喉が渇いたため少し気まずいが一階の台所まで向かった。
 清恵さんは僕をチラッと見てからすぐ作業に戻り、僕も気まずそうに冷蔵庫から作り置きの麦茶の入ったピッチャーを取り出していた。

「あ、グラス取るね」

 清恵さんがそう言って頭上の棚を開けようとすると、よろめいてしまったので、僕はそれを支えた。

「だ、大丈夫ですか?」

 僕は右手の感触に違和感を覚えてそれを確かめる。

「……大胆なのね」

 大きな柔らかい果実を僕は手中に収めていた。

「す、すみません!」

「うふふ、いいのよ別に。わざとじゃないのはわかってるから」

 清恵さんはグラスを僕に渡しながらそう言った。

「でも大変でしょ? 今まで家の中に女性がいないのが当たり前だったのに、急に二人も増えて」

「べ、別に、華やかになったなぁって程度です」

 僕は取り繕う言葉を突貫工事で作り上げて言葉にした。それにしても苦しい言い分だ。

「……だって思春期の男の子だものね。色々あると思うけど、百花とはちゃんと同意の上でするのよ?」

「あれは違いますから!百花がからかってきたから、仕返しに擽ってただけです!」

「わかってるわよ。もう、そう言うところ可愛いわね、二人とも」

 僕はお茶をグラスに注ぐとすぐに自室へ戻った。

「あ……」

「……何してるんだ?」

「いや、宿題一緒にやろうかなって思ったら、もう終わりかけか。分からないところ教えてもらおうって思ったんだけど」

「どこ?」

「え?」

 百花は豆鉄砲を食らった鳩のように驚いていた。

「どこが分からないかって聞いてるんだけど……そんなに意外だったか?」

「別に……ええと、ここがちょっと解き方よく分からなくて」

 百花を机に座らせて僕は隣でそれを見て指導する。
 百花がわからないと言った部分は、幸いにも僕は理解できているところだったので難なく教えることができた。

「あ、なるほど……ありがとう!悠人って教えるの上手だね」

「教えるのはちゃんと理解できてないと出来ないから、それに、言語化するのにちゃんと深くまで理解しないとできないことだから、こっちとしてもいい勉強になる」

 少し疑問に思った。中学の時、百花はそこまで勉強が苦手というわけではなかったはずだ。
 高校に入ってレベルが上がったからか? だけど、今のところは中学の応用だ。中学で習ったことを十分理解できていれば、十分解ける問題だった。

「……まさかと思うが」

「な、何かな……」

「わざとわからないって言った?」

 百花は目を泳がせながら、首を横に振ってそれを否定する。
 が、僕はそれを逃すまいと両手で顔を抑えてこちらを向かせる。

「ゆ、悠人……」

「絶対わかってただろう」

「わ、わからなかった……」

「悠人君、ご飯できた……」

 今日は厄日なのだろうか。何故こうも清恵さんはタイミング悪く登場するのか。
 間違えなく、キスをしようとしている様に見られたに違いない。

「あら、もうそこまで進んでたのね。お母さんに見せて見せて」

「み、見せ物じゃないから!」

 僕は手を離し、百花はノートを清恵さんに投げつけた。

「わー百花が反抗期だよー」

 清恵さんはそう言ってその場から去った。

「なんて日だ……」

「なんであんなにタイミング悪く来るのよ。この部屋、カメラでも仕掛けられてるんじゃないの?」

「盗聴器もないはず……」

 百花はため息を吐くと、ノートを拾って自室へ持ち帰った。

「とりあえずご飯食べるか。お腹空いたし」

 二人で一階に降りて、食卓に着く。

「二人とも、何かあったのか?」

 父がそう訊ねるが、二人で何でもないと言い、食事を開始した。

「……なんか痴話喧嘩中のカップルみたいだな」

「まあまあ、いいじゃない。仲良しってことだから、ね?」

 清恵さんは意地悪な言い方で僕らを責めてくる。

「そう、仲良しだから、さっきも一緒に宿題やってたの」

「へえ、それは言いことだ。悠人も、上手くやれてるようで父さん安心したよ」

「あはは……はぁ……」

 苦笑い後、ため息。僕の天気はどんより曇り空だ。鉛色の空に、雨を予感させる冷たい風が吹いている。

「そうだ、今日後輩から結婚祝いで遊園地のチケット貰ったんだ。どうする?」

「今週末はちょっと大事な打ち合わせがあるから、仕事入ってるのよね……そうだ、百花達で行ってきたら?」

 清恵さんはまるで僕らをおもちゃのように思っているのか?

「私達で?」

「そうだね。二人の仲を深める為にいいんじゃないか? 後輩もよりによってペアチケットなんてのを渡して来たし、父さん達は別日に行くことにするからさ、先に二人で行って感想を聞かせてくれ」

「まあ、そういうことなら……」

 僕は父からチケットを受け取ると、百花を見ると、目を瞑って咀嚼していた。
 点いてるテレビに目をやると、大人気女優の咲洲ひな主演のドラマが放送されていた。

「そういえば、ひなちゃんって芸能活動休んでた時期あったわよね?」

「そうそう、確か高校生の時だったか? 何でもその間に合気道家の娘さんと親しくなってってこの前記事で見た」

「めちゃくちゃ美人さんなんでしょ? 世間も納得って感じよね」

 咲洲ひな。二十代前半の若手女優だが、キャリアは10歳の頃まで遡る。
 中学卒業から大学生活が落ち着くまで活動休止をしていたというが、その間に同性と付き合うと決めたらしく、高校の同級生だった合気道界では有名な立山道場の娘である、立山美夜子と交際宣言をしたのが記憶に新しかった。

「ああいうのがタイプなの?」

 百花は僕にそう訊ねる。

「どっちかというと可愛いより、美しい派かもしれない」

「じゃあ、百花なんてぴったりじゃない?」


 僕は再び苦笑いを浮かべて、ご飯をかき込んだ。

「週末はデートだね」

 清恵さんが食器を運びに行った隙に百花は耳打ちする。
 そうか、デートになるのかと僕はふと考えた。
 異性と休日に出かけたことがない僕は、とりあえず着ていく服がないことをまず、脳内会議で議題にした。
 議論の結果、明日の放課後に買いに行こうと考えた。百花を誘うか迷ったが、流石に一人で行きたかったので誘うことはしなかった。
 最近のファッションの流行りを軽くチェックしたが、ダボダボのズボンとかは好みじゃないので却下した。
 それを受けて思ったが、今持っている服でどうにかなるかとも考えたが、中学生臭い服装になってしまう。
 結局、僕は翌日の放課後、衣料品店に寄って服を買って帰ることにした。

「悠人、一緒に帰ろ?」

「ごめん、エレナ。今日はちょっと寄りたいところがあるんだ……」

「そうなの? 何処に行くの?」

「ちょっと服を買いに行きたいなって思って」

「私、一緒に行ってコーディネートしてあげようか? 実はうちの親、スタイリストやってて、割とその辺りのことわかるから」

 エレナの前に先約がいた事を伝えると、エレナはそれでも一緒に来ると言う。

「兄妹水入らずの時間が欲しいのだけれど……」

「むう……わかった。じゃあ今度行く時、私と一緒に行ってよね、悠人。約束だからね!」

 エレナは教室を飛び出して行った。
 僕は百花をジッと見る。

「別に一緒でもよかったじゃないか」

「だって……折角なら私好みの服で一緒に遊園地行きたいし……私も、悠人に選んでもらおうかなって思ってたし、あの子がいたらなんと言うか……」

 僕は立ち上がり「早く行こう」と、鞄を肩に掛けた。百花も急いで「待ってよ!」と、僕を追ってくる。

「QGで買うんでしょ? やっぱりファストファッション系で行くの?」

「いや……最近の流行りを調べたけど、僕にはルーズな服はあんまり性に合わない気がして」

「てか、悠人の私服を見た事ない」

 考えてもみれば、僕も百花の私服を見た事ない。あるとすれば部屋着くらいで、気合の入った服装をしているところを見たことがなかった。
 なので、お互いの好みなど全くわからない状態で僕らは店に入って行った。

「普段はどんな感じ?」

「えっと、こういうタイトなブラックジーンズにシャツって感じ。基本モノクロが多いかもしれないな」

「確かに、悠人って色物似合わなさそうね」

 失礼な物言いだな。でも確かに的を射ている。

「百花は? 普段どんな感じ?」

「私はね……あ、こんな感じ。流行りを取り入れつつ、むかしからの好みは絶対外さないって感じ」

 マネキンのコーディネートを指差して百花はそう言った。
 僕は脳内で想像してみると、確かに可愛い。

「なんと言うか、イメージ通りというか」

「でしょ? 流行に影響されすぎたら、個性死んじゃうから、そこは大事にしてる」

 僕らはお互いの好みに照らし合わせながら、服を選んで行った。

「……意外と大きい金額になっちゃたね」

「うん……まあ貯金はまだあるし大丈夫だけど、バイトとかしたほうがいいのかな」

 僕がそう言うと、百花は少しの間俯いてから、こちらに向き直した。

「私は別にしなくていいと思う。だって……わ、私との時間なくなるじゃん?」

「……」

「ちょっとなんか言ってよね!」

 信号待ちの交差点で、百花はそうい言いながら僕を軽く叩いてくる。
 すると後ろの女性二人のうち一人が、その様子を見て「なんか青春って感じだねー。可愛い」と、呟いた。
 背の高さは百花と変わらな位くらい、少し癖毛っぽい髪をした20代前半くらいの女性だった。
 一緒にいた女性は背が高く、綺麗で真っ直ぐな黒い髪を高い位置で結ってポニーテールにしていた。

「ちょっと陽菜、声大きい!」

「えー美夜子の方が声大きいよ」

 その二人の会話を聞いていると、陽菜と美夜子という名前なのはわかった。
 僕はその時、少しだけ気になったことがあるが、それよりもそれを聞いていた隣の百花が恥ずかしそうに顔を赤くしていたので、僕はそっちを気にかけていた。
 信号が青に変わると、一斉にスタートを切って向こう側へ渡る。
 さっきの二人は人混みに消えて行ったが、もしかしてあれは……。いや、まさかこんなところにいるわけがないだろうと、僕と百花はそのまま家に帰った。

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