十八禁撲滅計画

  何らかの理由によって、全人類が十七歳までしか生きられなくなった世界。

 かつてこの世界のほとんどの国では、成人年齢が十八歳と定められていた。その成人のみに許された娯楽が、毎日のように大量生産されていた。これらは「十八禁」と呼ばれ、具体的な例に「ポルノ」「ギャンブル」などがあった。

 ところがある日、世界規模の事変が起こった。大混乱によって、盛んだった十八禁の生産は滞ってしまう。現在に至っては、完全に供給が途絶えてしまった。

 今の世界の現人類にとって、旧世界の文明が残した十八禁は有害でしかないのだ。

 某事変が起こる前、現人類は自分たちより年上の大人たちからそう教えられてきた。

「十八禁は子供にとって有害だ。十八歳になるまでは絶対に見るな」

 しかし、十八禁がなぜ有害かについては教わらなかったため、とりあえず触れれば即死の絶対悪というふうに解釈して、そして納得していた。

 故に今、人類は古今東西すべての十八禁を一つ残らず撲滅しようと一大計画を立てていた。

 十八禁を一掃する利点として、安全性が向上する、治安が良くなる、生産性が高まる、などが会議で挙げられた。

 実行した際の懸念点については、特に挙げられなかった。これまでは特定の娯楽文化を排除する動きが出た時、文化の衰退の原因になると必ず反対意見が出たものだが、今回は違う。全人類が十七歳までしか生きられない世界で、十八禁の存在意義など微塵もないどころか絶対悪でさえある。

 当然、その場のほぼ全員が計画に賛成した。そんな中、一人だけ議員が心配そうな表情で手を挙げ、発言した。

「でも、誰が十八禁を消すのですか」
「それはもちろん、有志にやってもらう」
「そうじゃなくて。私たち全人類はみんな未成年の子供です。十八禁を見たら祟られるのではないかと、正直怖いのです」

 実行に移す際のただ一つの問題点。

 今、生存している人間に十八歳以上の者がいないのである。

 発言者に対し、賛成派から反論の声が次々と上がる。

「十八禁を残して大勢が祟られるより、撲滅のために少人数が祟られる方が良いだろ」

 一方で、別の議員から疑問の声も上がった。

「そもそもなぜ、十八禁が有害なのか」

 この質問を受けて議長は沈黙を続けた後、答えた。

「それはメデューサと同じで、見たら硬い石にされるから」

 その場しのぎかのように、信憑性にかける言葉だった。当然、質問した議員は追及する。

「それは本当か。根拠はあるのか」
「わからない」

 やはり、その場しのぎのおとぎ話だった。

「怪しいと思った。いや、大人も一部が硬い石になるから。ギャグだけど」

 真面目な雰囲気の中、冗談を言う議員もいたが、質問した議員は議長の無知を指摘した。

「あの時大人が教えてくれなかったとはいえ、わからないなら、きちんと理由を調べるべきだ」

 そう一喝されて、議長は手元にあった資料、すなわち旧世界時代に書かれた法律の本を開く。

 本の中のとあるページには難解な言葉で、未成年には十八禁を見せてはならない、と書かれていた。

 もし見せた場合、未成年に見せた大人が罰される。意図せず勝手に見られた場合でも、罰されるのは十八禁を見た未成年ではなく、十八禁を見せてしまった大人である。

 法律ではいずれの場合でも、大人が加害者で、未成年は被害者という扱いなのだ。

「でも今はその加害者がいない。加害者がいなければ、被害者も存在しない。誰も不幸にならない。これからは、私たちは十八禁を見ても良いわけです」

 結論が出され、十八禁撲滅計画は中止された。

おわり

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