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アリストテレスの「政治学」を読む #2
少し間が空いてしまいましたが、アリストテレスの「政治学」の続きを読んでいきたいと思います。前回は第一巻の第一章〜第七章まで読んだので、今回は第八章〜第十三章まで読もうと思います。
引用元の本はこちらです。(光文社古典新訳文庫って素敵ですよね!)
第一巻 共同体についての緒論と家政論(つづき)
第八章 家政術と財貨の獲得術はどのような関係か
食糧という財産は、明らかに自然そのものによって生き物のすべてに与えられており、その点では生き物が誕生して直後も、成長した後も変わらない。…(中略)…植物は動物の食糧になるために存在し、人間以外の動物は人間のために存在すると考えるべきである。…(中略)…自然は目的のないものを作ったり、無駄なものを作ったりしないのならば、必然的に、自然が作り出すもののすべては人間のためにあることになる。
人間が上位の考え方ですね。「自然が作り出すもののすべては人間のためにある」って、すごいなぁ。
あれ、でもギリシャって多神教だったから、思想的にアニミズムじゃなかったけ…。アニミズムって、万物の中に宿っている霊を敬う気持ちを持っているはずだから、「自然のものは人間のためにある」という考えにはならないと思うんだけど…。
あ、そうか、そもそも「神」と「霊」は違うものだから、多神教(神)とアニミズム(霊)は全然関係ないのか…。いずれにしても西洋哲学にとって、「自然は人間が支配するもの」という考え方なのだと思います。
第九章 交換術と貨幣
いったん貨幣というものが発生すると、今度は、必要不可欠な交換の過程から、もう一種の財貨の獲得術、すなわち、人々が「財貨の獲得術」と呼ぶ商業的売買術が生じた。…(中略)…この意味での財貨の獲得術は、とりわけ貨幣に関する術であり、この術の働きは、どこから多くの財貨を得られるかを見て取れることにあると人々は考えている。要するに、この術は、富と財貨を生み出す術だというわけである。…(中略)…商業的売買術という意味での財貨獲得術においても(貨幣が手段ではなく目的になるため)、目的の追求には際限がなくなる。その目的とは、際限のない富(貨幣)ないし際限のない財貨の「所有」にほかならない。…(中略)…生きることに対する欲望は無際限となり、その欲望を満たす事物を際限なく生み出せるもの(商業的売買術や貨幣)に対しても欲望を持つことになる。…(中略)…結局のところ、日常のあらゆる行動が財貨(貨幣)の獲得に向かうのである。
お金の話ですね。お金は、必要な物と交換するための「手段」でありながら、価値を持つお金をいかに獲得するかという「目的」にもなるということだと思います。そして、お金の獲得が「目的」になった場合、目的を追求することには際限がないため、結局日常のあらゆる行動がお金の獲得に向かうということですね。
資本主義社会を生きる私たちにとっても切実なお金の宿命を、紀元前4世紀の古代の知識人が見抜いていたということですね。
第十章 家政術の自然性と金融術の反自然性
金融術は、貨幣が導入された本来の目的に背き、貨幣そのものから財貨を獲得するため、憎まれることには最大の道理がある。というのも、もともと貨幣は交換によって別の物価に変えるという目的で発生したにもかかわらず、金融の利子は貨幣そのものを増殖するからであり、ここから「貨幣の子ども」を意味する「利子」という名称も生じたのである。すなわち、生みの親に似た姿で生まれたものが子どもにほかならず、利子は貨幣から生まれた貨幣なのである。したがって、さまざまな財貨の獲得術の中でも、金融術が最も自然に反する。
貨幣は、物と「交換」することが本来の目的として生まれたのに(それが自然な姿なのに)、それをせずに自分から自分(利子)を生み出すという、自然に反したことをやっているので憎まれるということですかね。
利子というのも業が深いですよね。お金を貸している方(つまりお金を貸す余裕があるだけ人)にとってはさらにお金を得られる仕組みですが、お金を借りている方(つまりお金を借りなければならないほど余裕がない人)にとっては自分の首を絞める仕組みでもあります。
たまに、利子というものがなければ、もっと単純な社会になったんじゃないかなと思うことがあります。
第十一章 財貨の獲得術の使用
財貨を獲得する仕事のうちでも最高度の技術を要する仕事は、偶然性に左右されることの最も少ないものである。それに対し、職人的な作業の性格が最も強い仕事は、最も体を損ないやすいものである。また、最も奴隷的な仕事は最も身体を酷使するものであるし、最も卑俗な仕事は最も徳を必要としないものである。
ここで注目したのは、「最も卑俗な仕事は最も徳を必要としないものである」というところ。よく、「仕事に貴賤はない」と言いますし、仕事(=誰かの役に立つこと)である以上、その通りだと思います。だけど、心の奥底で「それでも貴賤って何だかありそうだよなぁ」と思ってしまうのは、この「徳」が関わっているからじゃないかと思います。
そもそも「徳」って何なんでしょうね。
Wikipedia先生に聞いてみると、「社会通念上よいとされる、人間の持つ気質や能力」とのことでした。また、ベネッセの表現読解国語辞典では、「修養などによって身につけた、すぐれた品性。また、正しく立派な行い。」とあります。「社会通念上よいとされる」とか、「すぐれた品性」という部分がポイントだと思います。
「徳を必要とする仕事」とは、「公序良俗に従っていて、品性のある仕事」。
「徳を必要としない仕事」とは、「公序良俗に反していて、品性のない仕事」。
このように定義すると、アリストテレスの言わんとしていることがわかるような気がします。
第十二章 父子間の支配と夫婦間の支配
結婚生活の術によって妻を支配する時には国家の支配と同様になる一方、父親の術によって子どもを支配するときには王国の支配と同様になるのである。なぜなら、前者においては、何らかの点で自然に反した男女の組み合わせになっていない限り、(年齢や経験ではなく)自然本性に基づいて男性が女性より主導者となる性質を多く持つからであり、後者においては、年長の完成した人間が若年の未完成な人間より主導者となる性質を多く持つからである。
この内容については、「人による」って感じですね。
男性よりリーダー的な女性は身の回りにたくさんいますし、年長者よりしっかりした若年者も身の回りにたくさんいます。
多分これは、人間の性質という観点で見ると、現代だけでなく古代においても同じだったんじゃないかなぁ。例えば夫よりしっかりした奥さんなんて、古代でもいっぱいいたと思います。
でも…男の方が物理的に力が強い&野心的&戦闘的なので、指導的立場に立つことが多くなってそのままずーっと今まで来ているでしょうね。男の場合、「子供を産んでしばらく休養する」ということもないので、調子に乗って好き勝手にやっていられる面があるのだと思います。
第十三章 家人はどのような徳を持つべきか
支配者が節制の徳も正義の徳も備えないならば、いったいどのようにして立派に支配するのだろうか。また、被支配者が節制の徳も正義の徳も備えないならば、いったいどのようにして立派に支配されるのだろうか。…(中略)…支配者と被支配者の両者が徳を備えていなければならないのであるが、両者の徳には違いがなければならない。…(中略)…どの人間も性格的な徳を備えなければならないが、同じようにではなく、自分の仕事を果たすのに十分な程度に、各自が備えればよいのである。それゆえ、支配者の場合には、性格的な徳を完全に備えなければならないことになる。…(中略)…それに対し、支配される他の者たちは、それぞれの分に応じただけの性格的な徳を持てばよい。…(中略)…男性と女性にとっての節制は同じではなく、勇気や正義も同じではない。例えば勇気は、男性にとっては支配者の勇気であるが、女性にとっては手下になる者の勇気であり、節制や正義の場合も同様なのである。…(中略)…子供の徳とは、現状の自分自身に即したものではなく、将来の目的との関係において、そして、自分を目的へと導いてくれる者との関係において認められる者なのである。そのことは、主人との関係に置かれた奴隷の場合も同様である。つまり、私たちは日常生活に必要不可欠な事柄に関して奴隷が役立つと見なしているのであるから、奴隷に徳が必要だとしてもわずかな徳であり、放縦や臆病のせいで仕事をやり残すことがない程度に節制や勇気の徳を持てばよいのである。
長めに引用しましたが、これも男性優位の考え方ですね。現代では通用しませんが、古代では基本的にこういう考え方。「その人のありのままを尊重する」のではなく、「支配者目線&男目線で決めた役割に従わせる」感じですね。
まぁ結局、「支配しやすいように都合の良い理屈を組み立てる」わけですね。
そりゃあそうしますよね。
私としては、日々の生活の中で各種メディアの情報に接した時に「それって、誰にとって都合の良い理屈なんだろう」という目線で物事を見るようにしたいと思います。
今回で第一巻「共同体についての緒論と家政論」は終わりです。
次回は、第二巻「先人の国家論と諸国制についての検討」の第一章〜第六章(プラトンの国政論)を見ていきたいと思います。
国の制度っていろいろあると思いますが(民主制とか君主制とか)、正直なところ何となくしか知らないので、具体的にどのようなものがあるのか、どんな特徴があるのかを知りたいと思います。(←そして、まだ先を読んでいないので、こういうことが書かれているかどうかも定かではありません。第二巻のタイトルだけ見て想像しています)
それでは次回もお楽しみに!
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