私がシェアしたい本

作品名:流星ワゴン
 作者:重松清

この作品を選んだ理由
 重松清さんの作品が大好きで、その中でもこの作品は特に愛読しているため。
 「流星ワゴン」は一体どんな話なのか、流れをざっと説明する。この作品の主人公である、永田一雄(以下、一雄)は仕事も家庭もうまくいっていなかった。リストラされ職探し、男に明け暮れる妻からは離婚を突き付けられ、受験に失敗した一雄の子ども、広樹はイジメに遭い不登校で引きこもり中。これからの人生が明るいものになるとは到底思えない。“もう死んでもいい、死んでしまいたい”とは思うものの、死ぬ勇気はない。そう思っていた夜に父子が乗る一台の不思議なワゴンに会う。橋本義明と8歳の健太。そのふたりに誘われるように一雄はワゴンに乗るのだが、なぜだかそのワゴンではタイムスリップするように、過去のターニングポイントを再び経験する。その過去では一雄が苦手としており、現在は闘病中の父、永田忠雄(以下忠さん)が一雄と同じ38歳の姿で現れる。38歳の忠さんとワゴンに同乗し、過去の分岐点を回っていくといった内容なのだが、この作品が伝えたいものとして私が捉えたことが三つある。
 まず一つ目は親子の関係。息子から見た父親はどんな存在なのか?ということだ。作品には3組の親子の関係(忠さんと一雄、一雄と広樹、橋本義明と健太)について挙げられている。父親は、抑圧してくる最も身近にいる力のある寡黙な存在だとこの作品からはうかがえた。個人的には、親の心を子は知らず、子の心を親は知らずといったところだろうか。コミュニケーション不足でうまくお互いの気持ちを考えられていないから今の関係性になってしまっているように感じた。互いの気持ちを行動ではなく言葉で伝え合うことが親子とって重要な事だと伝えたかったのだろう。
 二つ目は幸せは心の持ちよう次第ということ。物語の最初は不幸せ、途中は過去に行くものの変えられない、そして最後は前向きな気持ちに変化している。現実は何も変わっていないのだが、不幸せから変わっているのは心の持ちよう次第なのではないかと思った。不幸になった時もしくは不幸になっている状態の時には、この時の幸せまたはメリットはなんだろうと考えてみることも一つの手段であると伝えたいのではないか。
そして三つ目は今を全力で楽しむこと。作品の中で38歳の忠さんが一雄の息子の広樹と黒ひげ危機一髪をやるというシーンがあるのだが、子供と同じくらい思いっきり楽しんでいるところが印象的だった。大人になると、やりたくないこともやらなければいけなくなる。社会を知って生きている中でも子供心を忘れずに思いっきり楽しむことができる大切さというものを忠さんになぞらえて筆者は書いたのだと思った。
最後に、この本を読んで私が思ったことは、全ては“今”であるが、大切なのはその“今”がどんな過去の積み重ねから来ているかということ。作品中では、一雄の元の人生は腐っていたが、橋本の車に乗ってその腐った過去を少しでもちょっとでも変えようとした。結果的に過去と現実でなにも変わらなかったものの、過去を変えようとして努力を積み重ねた事実はある。今の新しい一雄が出来たのは、間違いなくあの車の旅であり、そこで後悔のないように思いっきり今を生き抜くことの大切さを実感したからだろう。時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。“今のお前なら絶対に未来を変えられる”― ぜひ手に取って読んでみてください。

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